『流れといのち 万物の進化を支配するコンストラクタル法則』 訳者あとがき by 柴田裕之

紀伊國屋書店2019年05月11日 印刷向け表示
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流れといのち──万物の進化を支配するコンストラクタル法則
作者:エイドリアン・ベジャン 翻訳:柴田裕之
出版社:紀伊國屋書店
発売日:2019-05-13
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前作『流れとかたち』は私にとって衝撃的だった。おおざっぱに言えば、こうなる。かつて、人間を別格と見なして他の生き物と切り離す世界観を、ダーウィンが進化論で刷新した。前作と本書『流れといのち』の著者エイドリアン・ベジャンはそれをさらに推し進め、生物を別格と見なして無生物と切り離す世界観を、すべてのかたちの進化を支配するという独創的なコンストラクタル法則で崩し、森羅万象を物理によって一つにまとめ上げた。これほどまでの統合的な見方に、私は魅了された。

いや、魅了されただけではない。なるほど、と納得がいった。本文はもとより、2作に収録された写真や図が、著者の言わんとすることを雄弁に物語っており、一目瞭然、百聞は一見に如かずという思いを何度抱いたことか。また、生物と無生物に分け隔てなく働くそのような法則の存在は、直感的にも理に適っているように思えた。人間の登場以前から生物はいたのだし、生物の誕生以前から地球や宇宙はあったわけだし、他のいっさいのものと同じで、人間を含めて生物も物質から成り立っており、すべては同じ世界に存在しているのだから、万物が同じ普遍的な物理法則に従っていることに何の不思議があるだろう。

生命(変化する自由を伴う物理的な流動)、そして死(その流動の終焉)という視点からこの世界を捉えた本作『流れといのち』を読んで、コンストラクタル法則を軸とする著者の統合的・俯瞰的な見方に、ますます納得がいった。私は物理に疎いので専門的な判断はできないが、著者がこれまでの2作で取り上げてきた範囲の広さや多様さ(目次を眺めるだけでわかる)を見ると、この法則には普遍性があるという主張には強い説得力があるように感じる。そして著者は、コンストラクタル法則は「事象を予測するもの」であると言い切っており(これまた潔いではないか。確かな反証が出てくれば自説撤回も辞さずという覚悟がうかがわれるのだから。それだけ自信があるということだろう)、前作と本書を読むかぎり、コンストラクタル法則に基づく予測は、これまでのところことごとく的中しているようだ。

このコンストラクタル法則に劣らず魅力的なのが、著者の姿勢だ。権威と言われる人の言葉であろうが、学界の定説であろうが鵜呑みにせず、疑問に感じた事柄を放置しないで出発点とし、先入観にとらわれずに広い視野から考察や検討を重ね、特殊ではなく包括的な代替の説を提示して、それが斬新過ぎて簡単には受け容れてもらえなかったり批判を招いたりしても動じないで、証拠や裏づけを積み上げていくという著者の姿勢は、物理の世界に限らず、どんな分野でも範とすることができる。

その姿勢の根底にあるのが自由を愛する気持ち、自由の価値を重視する気持ちであり、それが著者の文章にあふれている。著者の経歴を考えれば、それもうなずける。著者は共産主義独裁政権下の母国ルーマニアの圧政が骨身に沁みており、そこを脱してアメリカで自由な学究環境に入った人なのだ。20年以上前に発表したコンストラクタル法則を変えるつもりはないものの、その定義に「自由」という言葉をつけ加えたいと本書で語っていることにも、著者の心情が鮮やかに表れている。「自由が与えられれば、新しい変化が起こり、さらに多くの選択肢が現れ出てきて、かつて最良だったものが死に絶え、先々最良となるものが生まれる。……もし、はるか以前に行なわれ、『最良』と呼ばれた選択がみな、硬直したかたちで取り入れられ、いつまでも変わらずに適用されているなら、今日の科学はどうなっているだろうか」と著者は言う(334ページ)。

母国で過ごした日々も、アメリカに移ってからも、けっして楽な思いをしてきたわけではないだろうが、著者は卑屈になることも恨みがましくなることもなく、言葉の端々からは、からっとした人柄が伝わってくる。前作刊行後の来日時にお目にかかったときも、その印象どおりの方だった。まさにコンストラクタル法則が働くさまを自ら体現しているかのようであり、そう思えば、本書を読むとわかるとおり、著者が将来に明るい希望を持って生きていることにも得心がいくし、こちらまで希望が湧いてくる。なにしろコンストラクタル法則自体が、流れを良くするように進化するという方向性をはっきり指し示しているのだから。

読者のみなさまにも、コンストラクタル法則という斬新なアイデアに触れ、この単純ですっきりした法則によってじつにさまざまな事象の説明や予測がつく爽快感を味わい、著者の姿勢や世界観に接して明るい気持ちになっていただければ幸いだ。そして、まだ前作『流れとかたち』をお読みになっていない方がいらっしゃれば、ぜひ、ご一読を勧めたい。本書を楽しんでくださった方であれば、多様な分野から多様な例を引きながらコンストラクタル法則をその原点から語る前作をお読みいただければ、本作同様、木村繁男先生の詳しい解説と相まって、なお興味と理解が深まり、ますます楽しめるはずだ。

2019年3月 柴田裕之

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