『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』個人の実感ではなく、データの分析を重視すること

麻木 久仁子2019年09月24日 印刷向け表示
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「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実 (光文社新書)
作者:山口 慎太郎
出版社:光文社
発売日:2019-07-17
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家族の形とはどうあるべきか。なかなか難しい。もちろん個人としてならば、自由に好きにすればいいのだ。その家族が納得しているのなら端がどうこういう問題ではない。私自身は、それが例えば娘であっても、口を出すつもりもない。成人して一人前になった娘が、この先どんな形の家庭を築こうと、あるいは築くまいと、一度きりの人生なのだからまあなんなりとやってみるべしと思う。

が、家族にまつわる「政策」をどうするかというと、また話がややこしい。社会全体としてなにをどう負担するかにかかわるからだ。それぞれの価値観が違う以上、政策に対する賛否や好悪の感情もそれぞれで、議論はかしましくなる。どんな人でも家族はおり、営んだ生活の経験があり、そこで染み付いた実感があるからなおさらだ。

夫婦別姓なんてしたい人はすればいいし、同姓がいい人はそうすればいいし、人のうちなど関係ないように思うが、社会のあり方が何を是とするかということが己の実感と違うのはどうも気分が悪いと思う人も少なくないのだろう。姓がバラバラだと家族の一体感が損なわれるというのもよく聞く。

私自身もかつて悩まされたのは帝王切開や母乳にまつわるあれこれ。帝王切開で生まれた子どもは落ち着きのない子どもに育つと言われたことがある。そんなこと言われても帝王切開しなかったら死んでたんだけどな。あるいは母乳。出が悪くて乳房のマッサージも青あざができるほどしたのだがどうにもならず、粉ミルクにした。が、訪問して来た保健婦さんに仕事のために手抜きで粉ミルクにしたと責められたことは今でも苦々しい思い出だ。

赤ん坊は3歳までは母親が見るのが一番、というのもなかなか強固に信じられている。最近も地位の高い政治家が言っていた。こうした言説は、働く母親たちに後ろめたさを与えているのは想像に難くない。

わたしたちはこうしたことを自らの実感をもとに判断している。家で編み物をし、毎朝温かい味噌汁をつくってくれた母を懐かしく思い出す人は、やはり母親は家にいるべきだと思うのだろうし、バリバリ働く母の背中が自慢だった人は、女ももっと社会に出るべきと思うのだろう。

さて、では、政策としてはどうする? 保育園はどのくらい作るべきか、産休や育休はどのくらい必要か。政策となると予算をつけなくてはならないが、前者と後者ではそこにかけるべき税金について、一致するのは難しそうだ。

そこで重要なのがエビデンスだ。個人の実感ではなく、データの分析を重視することだ。

本書は実に様々な人生の場面において、どんな要素がどんな影響を生むか、国内外の調査のデータをもとに分析している。人はどこでどうやって結婚相手と出会っているのか。似た者同士で結婚するというのは本当か。流行りのマッチングサイトで、本当に幸せな結婚ができるか。

出産した時の子どもの体重が人生に与える意外な影響。帝王切開は本当に落ち着きのない子に育つのか。粉ミルクと母乳はどっちが優秀か。

幼児教育の効果は?体罰=愛の鞭は果たして。父親が育休を取ると夫婦の離婚率は下がるのか?上がるのか?

私も悩まされた帝王切開については巷間言われているような子供の情緒の発達に与える影響はないという結果が出ている。ほら見なさい!ところが、肺や呼吸器の機能に問題があったり、免疫発達に問題が生じる傾向があるという。へえ、そうなのか。

お父さんが育休を取ると、離婚率が下がるという結果がアイスランドの調査で出た。これは腑に落ちる話である。子育てに積極的に参加してくれないという母親のストレスが軽減されるのだから。父親たちよ、おおいに育休を取りたまえ!

ところが、スウェーデンでは全く逆に、父親が育休を取ると離婚率が上がるという結果が出てしまったらしい。えーなんで!正確には離婚件数は変わらないが、5年で離婚する人が前倒しで3年で離婚してしまうのだと。夫婦が一緒にいる時間が増えて、互いの相性が悪いことに早めに気づいてしまう、あるいは父親が慣れない子育てのストレスで疲れてしまう、そして育休を取ったことで所得が減り夫婦仲が悪くなるなどが考えられるそうだ。ふむふむ、じゃあどうしたらいいのでしょう。

法的に離婚しやすくなると、どうなるだろう。当然離婚は増える。こういうことは好ましくないと思う人もいるだろう。

だが反面、離婚しやすく法改正すると、DVが大きく減るのだという。実際に離婚するかどうかはともかく、いざとなったら離婚できる(離婚されてしまう)という逃げ場があることが、夫婦の力関係に影響を及ぼしているのではないかと考えられるそうだ。

いろいろ見ていくと、我が実感と一致して「さもありなん」とニンマリするデータもあれば、えーそうなの? なんか納得いかないわと思うデータもあるが、それこそがこの本の面白いところである。自分自身結構思い込んでいることがあるのだなと気づかせてくれる。思い切って思い込みをちょっと横に置き、素直な気持ちでデータとその分析を読んでいると、知らなかった「よそ様の事情」を覗き見しているような楽しさもある。

強い実感を伴った思い込みによる言説には強い説得力があるものだが、こうしたデータ分析の手法があることを知っていれば、そうした「善意の押し付け」に対抗することもできるだろう。まあ自分の生き方は自由にさせていただくとして、社会のあり方としてはより合理的に判断していくのが吉なのである。

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