著者インタビュー『哲学と宗教全史』出口治明氏

2019年10月29日 印刷向け表示
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哲学と宗教全史

作者:出口 治明
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2019-08-08
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いきなりだが、私は自分の頭に自信がない。HONZに学生メンバーで入って早8年。8年の月日は早く、気付けば社会人5年目になっていた。少しずつ仕事を任されるようになったが、「考えて動く」ことの難しさを日々感じている。そして私は心のどこかで同志と呼べる仲間を探している。そして、同志に伝えたい。私たちだって、頑張れば、何かしらになれるってことを。そして、この世には話を聞いてくれる優しくて賢い人が存在するっていうことを!

はじめっから、個人的なことをぶっ放してしまったが、私は学生時代から、出口治明さんの大ファンだ。なぜなら、①出口さんの著書は私でも理解できるほど易しいから、②話すスピードがゆっくりで上から目線とか全くないから、③三重県出身だから(私も三重県出身なのです)。

そして、私は出口さんと話してみたかった。『哲学と宗教全史』は私を1段も2段も高みに上げてくれた(ような気がした)。出口さん、この本どうやって作ったのですか? どうやったら出口さんみたいな人間が出来上がるのですか!?(『哲学と宗教全史』のレビューはこちら。)

                        出口治明さんとランチをご一緒させていただきました。

出口さん、この本の構想はどのように出来上がったのですか?

刀根:出口さん、『哲学と宗教全書』とても分かりやすかったです!この構想は最初から出口さんの頭の中にあったのですか?

出口:これは、3年前に、担当編集者の寺田さんから「これからは哲学が面白いと思うので、哲学の本を書いてくれませんか?」と頼まれたときに、「哲学と宗教はグラーデーションになっているから、全部一緒に書きましょう」と言って承諾したのがきっかけです。僕は怠け者なんで、自分から「このような本をつくりたい」ってお願いしたことは一度もないんです。

刀根:でも、いきなり担当者の方に「哲学について書いてください」って言われただけで、こんな壮大な構想の本を作れるもんなんですか!?

出口:僕は「木を見て森を見ず」が嫌いなんで、地球上に生まれた哲学や宗教を全部まるごと書きましょうというのは頼まれた時点で瞬時に決めちゃいました。何事でも頼まれたら断る勇気があまりないタイプなので。ただ、20世紀の哲学者を何人取り上げるかは悩みました。20、30人取り上げるのは面倒くさいなと思って、僕は奇数が好きですから、5人にしようというのを先ず決めたのですが、その5人を誰にしようかだけちょっと迷いました。

刀根:出口さんの頭のなかで初めっから全て繋がっていたんですね。この本を読んで、全ての事象が繋がっていることがよく分かりました。私が知っている歴史や宗教はブツ切れだったので……。それを繋げてくれたのが出口さんでした。

哲学者ってどんな人ですか?

刀根:私は哲学者というのは、大学院で哲学を学ぶごく一部の人だと思っていました。でも、レヴィ=ストロークの紀行文を読んで、哲学者でもいろんな人がいるんだなと意外に思ったんです。

出口:世界を丸ごと理解しようという哲学的な考えがあれば、みんな哲学者なんで。僕は、世界を丸ごと理解しようとする人が哲学者だと思っています。だからダーウィンも立派な哲学者です。

刀根:出口さんは、哲学者になろうとは思わなかったんですか??

出口:こんなアホな僕が哲学者になれるわけがないじゃないですか!?

刀根:(!!?)出口さんは、世界を丸ごと理解している人のように見えますが……。

出口:僕は若い頃に何度も挫折を味わっているんです。僕は田舎で育ったでしょう。当事、中学生の三重県一斉学力テストというのがあって、最初は6番ぐらいだったんです。それで、1番にならんと恥やよなと思って、半年後のために必死で勉強して、蓋開けてみたら4番ぐらいにしか上がらなかった。もう一度勉強したら、また6、7番ぐらいに戻ってしまって。そのとき、自分なりにベストを尽くしたのに成績が伸びないということは、自分がアホやと思い込んでしまって、世捨て人になろうと思ったんです。100メートルをやっていたのですが、いくら練習しても記録が伸びない。運動会ではリレーの選手には選ばれるけれど、県大会には出られない。僕はその頃からグレてしまって、真面目にやらなくなってしまった気がします。

刀根:レベルが高すぎます。出口さんは自己評価厳しすぎせんか。自己肯定感の塊みたいなHONZの仲●先生と大違い……。

出口:仲●先生の自己肯定感は凄すぎですよね。一緒にご飯を食べてるとめちゃくちゃ面白いです!大阪の先生方は自己肯定感と幸福感であふれている。飲み会で何を競っているかというと、自己肯定感200%ぐらいを基準にして、「お前は250%やから出すぎている」という会話をしている。大阪の先生方と一緒にいると、気の弱い僕はほとんど何もしゃべれないです。(笑)

刀根:さすが、仲●先生ですね!(笑)

                                        仲●先生に感心する出口さん

出口さんのお気に入りの哲学者は誰ですか?

出口:僕は、誰か1人が好きというよりはみんなそれぞれ好きなところがあるんです。でも、誰か1人挙げろって言われたら、アリストテレスはすごいと思います。最近、みすず書房から生物学の本が出版されたのですが(『アリストテレス 生物学の創造』)、アリストテレスはどちらかというと生物学者で、ついでに哲学をやった人なんです。アリストテレスはもちろん遺伝子も進化論も知らないわけですが、今の生物学でも通用するようないろんな発想をしているんです。ちなみにこの本は、アリストテレスの文章をひきながら、生物学とアリストテレスの哲学が、世界の見方が、どのようにつながっていくかを説明しているので、動物や植物が好きな人でアリストテレスに興味がある人にとっては抜群に面白い本ですよ。

刀根:おお〜!『アリストテレス 生物学の創造』読んでみます!(上下巻で8000円……。)出口さんのお話は、フランシス・ベーコンの言葉と重なっているように聞こえるのですが、いかがでしょうか。

出口:そうですね。僕はどちらかというとイングランドの経験論が好きです。「人間はアホや」という前提に立っている。人間は賢くないからものを考えても大したことないで、と。長年やってきて不都合がないこは、とりあえずまあ正しいだろうと仮決めしておこうというのが経験論の本筋だと思います。世界の見方は、人間を賢いとみるかアホとみるかのどちらかに偏るんで、僕自身は、人間はどうしようもないアホやと思っているんで、経験論に惹かれますね。ただ、ベーコンは、アリストテレスの悪口をいうところがちょっと引っかかりますが。

刀根:「人間はアホ」がスタートというのは、なんだか安心します。(笑)

 

 出口さん、どうして小学生でも分かるように話せるのですか?

出口:それは、大学時代に高坂正堯先生に教えてもらったからでしょうね。先ず「古典が読めないなら、大学に残って勉強するなんて思ったらあかんで」と教わりました。なんで古典が難しいかというと、同じ日本語でも意味が異なるからなんです。たとえば、桜といえば、今の人はソメイヨシノを思い浮かべますよね。でも、ソメイヨシノは江戸末期に生み出された新しい桜。本居宣長や万葉集の桜とは違うということを理解していないと古典は理解できない。これに対して、現代を生きている人の話は難しくないはずです。難しいことを書いたり話したりする人は、本当に物事が分かっていないのか、あるいはかっこつけているだけ。だから、高坂先生は、古典を読んで分からなかったら自分がアホやと思え、今生きている人の話が分からなければ著者がアホやと思えと、教えてくださいました。

刀根:こうやって流れの中で人物を分かりやすく説明できるのは、高坂先生の教えなんですね。出口さんにとって、勉強するってどういうことですか?

出口:それは、いろんな人と会ったり本を読んだり、いろんなところに出かけていって体験することでしょうね。人・本・旅です。日本のように長時間労働で、仕事後も同僚と飲みに行く生活を送っていたら賢くなるはずがない。偏見が助長されるだけですよね。僕も大企業に入って気づいたんですが、新人の頃は頼もしいなと思っていた人が、10年経ったらみんな角がとれて、ただの人になっている。

刀根:出口さん、私、本をたくさん読んでも頭が良くなる気がしないです……。

出口:それでいいんですよ。賢くなる気がしないというのも素晴らしい個性です。自分の感受性を維持していることだから。だからしょうもない本を読んで影響を受けないのは、素晴らしい能力だと思えばいいんですよ。僕はよく「仕事に役立つ本を5冊紹介してください」などと聞かれるのですが、いつも「それは人生をナメていることですよ。本を5冊読んだくらいで仕事ができるようになるんやったら、人生チョロいでしょう」と答えるんです。だから賢くならなくていいんです。それでいいじゃないですか。

刀根:それで良いんですか!?

出口:この本は面白いと思えば、それは賢くなっている証拠です。賢くなるなんて自己評価ではないんで。

        丁寧に回答してくださる出口さん。私も緊張がだんたん溶けていきました。

哲学はファッションだった!?

刀根:今の人たちは(私も含めて)哲学書読まないですよね。昔の学生さんは哲学書をたくさん読んでいらっしゃった。時代背景もあると思いますが、どうして昔はそれほど読まれていたのでしょうか。

出口:それは、そういう時代だったからでしょう。まず、本の発行件数が今とは全然違う。昔は本は大切なものだったんですよ。例えば、岩波講座や中央公論の世界の名著というのは、ある程度の人たちなら読まなきゃいけないものだった。読まないとカッコ悪い。三島由紀夫の新刊や朝日ジャーナルを小脇に抱えて歩くのが学生だといった、ある意味ファッションのように、本を読み持ち歩くことが普通の時代だったんでしょうね。

刀根:今でいうと、音楽みたいなものでしょうか。

出口:音楽、そうやね、『キングダム』みたいなものかな。漫画やゲームもそうかもしれないけれど、ちょっと違うかも。詩を暗記したり朗読したりすることが流行った時代だったんです。たとえば、当時はラブレターを書いて、そのなかにリルケの1節を背伸びして書いたとする。彼女からもリルケが好きって帰ってくると、心が通じてる!ってめっちゃテンションが上がったりして。

刀根:なんて、ロマンチックな時代ですか!羨ましいです……。

 出口さん、観光について教えてください!

実は、出口さんには『哲学と宗教全史』以外にもう一つ聞きたいことがありました。出口さんは、今後立命館アジア太平洋大学(APU)に観光系の学部を設置し、インバウンド向けの観光人材の育成に力を入れていくことを構想されています。私は最近省庁に出向し、観光に携わるようになったので、図々しくも出口さんには観光産業の極意を教わりにきたのです。

刀根:私は、今、仕事で小中高校生向けの「観光教育」というものを担当しています。私はマーケティングとかよく分からないので、観光を学ぶ入り口がよく分からないなと悩んでいます……。今後APUで観光学部を設立される予定ですが、出口さんは大学でどんなことを教えるのでしょうか?

出口:観光の鉄則はたった3つなんです。その3つを押さえないとインバウンドはうまくいかない。

刀根:是非教えてください!!

出口:ひとつめは、商売の基本は「件数」×「単価」ですよね。たくさん売れたり、単価が上がれば儲かります。件数は、たくさんの人が来て、ようけ買ってくれたらいい。でも単価を上げるには、たとえば、ペットボトルをいきなり500円にするのは難しいですよね。では、どうしたら単価はあがると思いますか?

刀根:単価を上げず、儲ける方法・・・?いや、全く分からないです。

出口:滞在時間を増やすんです。たとえば、一部のおじさんが行くキャバレーやクラブでは、(こんな例えですみません……)、お姉さんが20人いたら必ず順番に回ってきます。横に座るのがタイプのお姉さんなら楽しく話ができますが、タイプじゃなかったらすぐに帰ってしまいますね。でも、次々と女性が回ってくるんだったら、タイプの女性が回ってくるまでもう少し待とうという気になります。滞在時間が増えれば、またお酒を飲みますしね。

刀根:滞在時間を伸ばして、ペットボトルを2本買ってもらう作戦ですか!

出口:そうです。たとえば、観光バスで世界遺産を効率的に3つ周遊できるというのは、良くないですね。便利になればなるほど滞在時間が短くなるのですから。それよりも、この施設には1時間に50人しか入れないとか、制限した方が良い。待ち時間に他のエンタメを入れればいいんです。他にも、お祭りだったら、入り口に臨時保育園を作って子どもを預かる。子どもを預けてしまえば、親はたまにはお酒でも飲もうかという発想になるんです。


刀根:なるほど・・、普通は子どもが泣いてすぐに帰ってしまいますもんね。では、第二の法則はなんですか?

出口:ふたつめは、キャッシュレスです。たとえば、ローマに旅行に行った時、刀根さんはホテルを出る時いくら財布に入れますか?

刀根:スリが怖いので、1万円ぐらいですね。

出口:そうでしょう、そうすると街で可愛いブローチを3万円で売っていても買えない。キャッシュは財布に入っているだけという上限があるんです。日本の観光地は現金商売ですが、誰も現金はスリなどが怖いから持ち歩かないんです。上海ではキャッシュレスが進んでいて、市民の半分強しか現金を持ち歩かない。スマホ一本で街を歩けたら、スリは怖くないでしょう。しかも、気にいったら3万円のブローチも買える。

刀根:たしかに、キャッシュレスでないとそもそもお金を持ち歩かないから消費が増えない。出口さん、第三の法則はなんですか?

出口:3つめは、地域おこしと観光に直結する話ですが、「ゴミを持って帰りましょう」は実は観光振興の敵なのです。優れた観光地は山ほど綺麗なゴミ箱と綺麗なトイレをつくる。例えば、中国に麗江という世界遺産で有名な老街があって、そこではゴミ箱が街並みの一部になっています。塀の一部に小さな取っ手がついていて、押せばゴミ箱が出てきたり、インスタ映えする可愛いごみ収集車が街を走っているのです。つまり、おみやげの箱や包装紙をがんがん捨てさせるのです。

刀根:おみやげの箱は荷物になりますもんね。トイレはどんなふうになっていますか。

出口:麗江では、50メートル毎に綺麗なトイレがありますよ。1階は店舗、2階に水洗トイレがついていて、しかも無料で使用できるのです。すると、女性も安心してお酒を飲もうという気になるのです。トイレがないと、女性はホテルまでお酒を我慢してしまうので、若い女性に来てもらおうと思ったら清潔なトイレが不可欠なんですね。

刀根:トイレの清掃はどうされているんですか?

出口:麗江など中国の世界遺産は、大体、老街などに入るときに入場料をとっています。財源を先に確保して街中がお金を出し合って清潔な街を維持しています。基本はシステム設計です。若い女性に集まってもらうにはどうすればいいか。若い女性が集まれば、男性も集まってくる。人清潔なはゴミ箱とトイレがたくさんあれば身軽で気楽に旅を楽しむことができるんです。

刀根:出口さん、分かりやすいです!!

出口:僕は、これからは観光と地域開発をセットにして考えるべきだと思っています。昔は、地域開発というと、広い工業団地をつくって工場を誘致していました。でも、その時代は過ぎました。今はアイデア勝負の時代です。地域開発はむしろインバウンドに力を入れるしかない。伝統農業や歴史を訪日客に楽しんでもらうのです。

刀根:地域開発が観光で、観光が地域開発……。

出口:無理にハコものの観光施設を作らなくていいのです。普通の庶民の生活が面白いのです。大きいハコを作ったとしても、維持費だけで莫大な費用が必要ですからね。

                                最後に記念撮影をいただきました。

 

こうして1時間のインタビューが終わった。

今回一番印象的だったのは、やはり出口さんの人柄だ。私の理解度に合わせて内容を噛み砕き、ゆっくりとお話してくださいました。途中で「どうしてそんなに分かりやすくお話できるのですか?」と思わず質問してしまうほど、話術に圧倒されてしまう。

分かりやすさだけではない。今回HONZ女性メンバーにも同席いただいたのだが、出口さんの「こんな美女3人とお昼を食べられるなんて、なんて幸せなんだ!」という一言にしても、わざとらしくなく、とても嬉しくなってしまう。そんなジェントルマンな一面もお持ちの方だ。

これが出口さんの言う「勉強」なんだ。人と話すと本から得られないこともたくさん得ることができる。「人に分かるように話す」ことの奥深さ。貴重な体験を、ありがとうございました!

 
 

 

 

 

 

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