『LNG』巨大ビジネスの誕生秘話

久保 洋介2019年11月15日 印刷向け表示
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LNG 50年の軌跡とその未来
作者:今井 伸
出版社:日経BPコンサルティング
発売日:2019-10-31
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50年前の1969年11月、日本は初の液化天然ガス(LNG)の輸入を成功させた。日本初の輸入LNGは米国アラスカから出荷され、太平洋を渡って日本へやってきた。購入したのは東京ガス・東京電力の連合で、三菱商事が交渉を取りまとめた歴史的快挙だ。

1969年時点では未知のエネルギー源であり、価格競争力もなかったLNGであるが、50年経った今では日本の一次エネルギー供給減として石油・石炭に次ぐ第三位を不動のものとし、石炭を追い抜くのは時間の問題というところまで成長した。今日、日本は世界最大のLNG輸入国であり、LNG市場では約3割のシェアを占める巨人として世界市場に君臨する。

本書は、LNG初輸入から50年の間、LNGという新たなエネルギー源の導入・普及のために関係者間でどのような努力や取組がなされてきたのかの歴史を綴ったものだ。なかでも中心的に描かれているのは、日本の電力会社や都市ガス会社。地球規模に発達したLNGという巨大ビジネスの礎をつくった企業の奮闘記である。

三菱商事がLNG輸入交渉に関与し始めたのが1960年代初頭であり。10年弱の歳月をかけて検討・交渉した末に初めて実現したのが東京ガス・東京電力による1969年の初LNG輸入だ。受入基地の整備、LNG船の建造・手配、初のLNG契約交渉など、気が遠くなるような準備の末に実現した取引だった。そしてこの最初の取引実現以降、日本では壮大なLNG物流システム(LNGバリューチェーン)が構築されはじめ、世界最大規模で大きく拡大されていくこととなる。

石油・石炭からLNGへの舵切りは、当時の経営者や担当者にとっては一世一代の賭けでもあった。LNG受入基地の整備には数百億円もの設備投資が必要で、LNG専用船の建造は1隻当たり100億円以上、石油会社や総合商社らが参画する液化プラントの建設に至っては1兆円以上の投資が必要だ。当時の東京ガスの安西浩副社長、東京電力の木川田一隆社長、三菱商事の松田忠雄課長ら、初LNG輸入案件を推進した個人の先見の明と熱意があってこその実現だった。

今でこそLNGは他エネルギーに比してコスト競争力があるが、導入当初、LNGはコスト競争力ないエネルギー源だった。1960年代といえば、石炭を代替する石油時代全盛期さなかの判断である。LNGへの挑戦は国内外から「突飛な行為」と評されていた。ただ、その後、公害問題やオイルショックが起き、環境に優しい安定エネルギー供給源として、LNGは大車輪の活躍を果たすことになる。まさに先見の明がある判断だった。

50年の歴史を振り返ると、苦い経験や失敗も繰り返しながら、日本はLNGというエネルギー源を発掘・成長させることに成功できてきた。ただ、懸念もある。昨今の脱炭素社会への移行や、激動する国際情勢の中、本書も記しているとおり、今後LNGをどう位置付けるかというコンセンサスが日本の政治家・官僚・企業家・一般人などの間でとられていない。本書の試みはそんなコンセンサス形成の土台となることだ。そういう意味で本書は、今後のエネルギーを検討する上での必読の書となりうる。

50年前と同様、エネルギー問題・ビジネスは、民間企業社員の先見の明に任せるのか、はたまた政治家や官僚が音頭をとっていくのか、大きな岐路に立たされている。

 

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