『クリーンミート』パンデミック防止の救世主!?

久保 洋介2020年04月15日 印刷向け表示
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クリーンミート 培養肉が世界を変える
作者:ポール・シャピロ
出版社:日経BP
発売日:2020-01-09
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従来は、新テクノロジーや食糧問題という切り口で語られがちの「クリーンミート」だが、今後、コロナウイルス後の世界ではウイルスフリーの肉という切り口でも一躍注目を浴びそうだ。 

生きている動物ではなく、生物の細胞を使って食肉を生産する研究が進んでいます。この食肉生産方法は「培養肉」と呼ばれる新技術で、10年後までには店舗で販売される見込みです。培養肉はまぎれもない動物の肉ですから、既存の植物由来のフェイクミートと混同しないようにしてください。昔ながらの肉と同じ味の培養肉の安全性が長期にわたる調査で確認され、手ごろな価格で販売されたとしたら、あなたは培養肉を食べようと思いますか?

ビヨンドミートやインポッシブルミートのような植物性たんぱく質由来の肉が最近少し流行りだしているが、更にその先のSFの世界を追求する人たちがいる。研究室で培養できるため「培養肉」と呼ばれたり、細菌や脂肪などの不純物が少ないことなどから「クリーンミート」と呼ばれたりすることもある肉だ。

「培養された肉」と聞くと嫌悪感を抱く人もいるだろうが、冒頭のアンケートに回答した肉食大国アメリカの大学生61%が「たぶん」または「確実に」と回答しており、5-10年後には世の中が大きく変わっていくことが予想されている。

実際、この技術が商業的に確立したら、畜産・食肉業界は大きなパラダイムチャンジを起こすだろう。なんたって食肉用の家畜動物が必要なくなるのだ。この50年で3倍以上増えた15憶頭もの家畜化された牛の数は急激に減り、家畜向けの餌である穀物の需要も激減だ。20世紀初頭、移動手段が馬・牛だった時代から車の時代へと大転換が起こったように、畜産・食糧業界も社会的な大変換が起こりうる。

また、「クリーンミート」は、現代社会喫緊の課題である地球温暖化や感染症パンデミックへの解決策ともいわれている。意外と焦点が当たりにくいが、畜産業の温室効果ガス排出量は全世界15%ほどとも言われており、車などの交通運輸産業と同程度の温室効果ガス排出量である。増えすぎた家畜牛・豚の数を50年前程に戻すことは、温室効果ガスの排出量削減に大きく効果を発揮する。また、家畜が減ることにより、それらを媒介して出回る新型ウイルスの発現や感染拡大を大きく低減させることもできる。まさに一石三丁のテクノロジーだ。

「クリーンミート」を実現させるための最大課題はコストであり、そのコスト削減やビジネス実現に向けて奮闘する起業家や研究者を追ったのが本書だ。鶏卵不使用のマヨネーズを開発する「ジャスト」社(旧ハンプトンクリーク)、世界発の培養ミートボールを発表した「メンフィスミート」社、クリーンミート系ベンチャーへの積極的に投資する香港の大富豪 李嘉誠など、個性的な人物がクリーンミート実現に奔走する。

あるものは地道に王道である培養牛肉の開発を推進し、あるものは鶏肉へチャレンジし、あるものは同様のテクノロジーを使いながらも早期の商業化が目指せる人口皮製品の開発に重心をうつす。本書で描かれているのは、今後画期的な産業となるかもしれないクリーンミート界の黎明期の様子であり、さながら2000年代のGAFAのようだ。みな無邪気に開発にいそしんでいる。

登場者の多くは一攫千金を狙うガメツイしたツワモノではなく、どちらかというと優しい雰囲気の若者とおじさん達である。大概は動物好きで、動物愛からクリーンミートへの取り組みをスタートしている人が多い。人の好い雰囲気が滲み出ている新時代の起業家たちだ。

2013年にはハンバーグ1個で30万ドルものコストだったクリーンミートは、2016年時点でミートボール1個が1200ドルに低下、メンフィスミートは2021年にはさらに低下した価格で商業生産を目指すという。今後の技術発展から目が離せない。

研究室で培養し畜産・食糧関係者はもちろん、動物愛護、排出権削減、ウイルス対策などに興味ある人にぜひ読んでもらいたい一冊だ。同時代を生きる私たちにとって示唆ある内容である。

尚、本書は鰐部 祥平とのクロスレビュー

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出版社:中央公論新社
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