第三次産業革命の根幹資源『レアメタルの地政学』

久保 洋介2020年06月15日 印刷向け表示
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レアメタルの地政学:資源ナショナリズムのゆくえ
作者:ギヨーム・ピトロン
出版社:原書房
発売日:2020-02-29
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人類は化石燃料に支えられた世界からの脱却を試みている。石炭や石油といった過去2度の産業革命を支えた燃料から、再生可能エネルギーへと舵を切っているのだ。ただ、この流れには落とし穴があるとフランスの新進気鋭ジャーナリストが警鐘を鳴らす。

地産地消型の再生可能エネルギーの普及は、化石燃料由来の温室効果ガスの抑制と中東など一部地域に偏重する資源から脱却できると信じられている。一見、地球環境及び地政学的にバランスのとれた転換に聞こえる。ただし、この転換によって人類は依存する資源を石油からメアメタルへとすり替えているだけという構造的変化は一般的に見過ごされがちだ。

クリーンエネルギー社会を支える電気自動車やデジタル機器はより多くのレアメタルを必要とする。電気自動車の電池やモーターを支えるのはレアメタルであるし、iPhoneのバッテリーや電子部品にもレアメタルは多く使用されている。太陽光発電のパネルや風力発電もレアメタルが根幹資源として活用されている。デジタル社会及びクリーンエネルギー社会の普及がこのまま指数関数的に伸びていけば、レアメタルの需要は急激に伸び、人類はよりレアメタルへの依存を深めていかざるをえない。

再生可能エネルギー社会の転換は、温室効果ガスの排出量を抑える一定の効果はあるだろう(著者は電気自動車や太陽光発電・風力発電が必要とするレアメタルの採掘・精錬工程までをも含めると二酸化炭素排出量に大きな差異はないと指摘する)。ただし、それによって万事解決ではなく、他の地球環境問題を抱えるというジレンマが待ち受けている。レアメタルの採掘・精錬過程で発生する放射性廃棄物による土壌汚染や水質汚染だ。これまで先進国があえて目をつぶってきた事象である。

地政学的な観点では、著者は、これら新しい社会に必要であるレアメタルの3/4ほどを中国一国が供給しているという事実も懸念点として指摘する。社会の根幹となる資源が一国の貿易政策によって左右されてしまいかねない状態だ。実際、その懸念は2010年に日中が尖閣諸島問題で揉めたときに顕在化した。中国はレアアースの日本向け出荷を停止し、事実上の禁輸措置を行ったのだ。レアメタル市場はパニックになり、価格は急騰、精密エレクトロニクス業界は打撃を受けた。

中国がレアメタルを戦略物資として扱うのは当然だ。中国はこの数十年間、戦略的にレアメタルに取り組んできた。欧米の得意とする化石燃料に基づいた産業構造からの脱却とレアメタルに基づいた産業構造への転換に賭けている。安価なレアメタルを自国の環境破壊と引き換えにマーケットへと供給し、欧米諸国のレアメタル採掘企業が倒産するまで価格競争を仕掛ける。環境破壊を最小化するようコストをかけてレアメタルを先進国で採掘しても中国の価格競争力に全く歯が立たない。そして、それら欧米企業が倒産後、寡占化したマーケットを中国は自分たちでコントロールするという手法だ。この新たな構図に先進国は依存する分業体制をつくってきた。

1980年代頃から、中国と欧米諸国は将来のエネルギーとデジタル転換に備えて役割を分担した。中国はグリーンテクノロジーを構成する製品を手を汚して製造し、欧米はそれを買うことで環境保護を実践していると自慢する。別の言い方をすると、世界は(中略)、汚れた国々ときれいなふりをする国々とで構成されているのだ

本書はグリーンテクノロジーに対するアンチテーゼであるが、エネルギー転換は不可避であることは著者も認めている。むしろ、その転換に基づいて重要な資源となるレアメタルをどのように扱うのかよく考える必要があると警鐘を鳴らす。フランス人ジャーナリストである著者はフランス政府への対応策は提示しているが、その他国々はどうすればいいのだろうか。中国のレアメタル政策に翻弄された経験のある日本はどのように対処すべきなのか、考えさせられる内容だ。経済合理性に基づくビジネスだけでは片付けられない重要な課題である。

 

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