『言論の不自由 香港、そしてグローバル民主主義にいま何が起こっているのか』強権化する大国中国と それに抗う若者たち

鰐部 祥平2020年10月10日 印刷向け表示
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言論の不自由: 香港、そしてグローバル民主主義にいま何が起こっているのか
作者:ジョシュア・ウォン ,ジェイソン・Y・ゴー
出版社:河出書房新社
発売日:2020-08-12
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2017年から香港特別行政区行政長官選挙を普通選挙で行うという約束を、14年に中国政府が反故にしたことに反発する市民らが行った抗議活動、「雨傘運動」は、日本でも大きなニュースになった。この運動で中心的な役割を果たした組織が「学民思潮」だ。本書はこの学民思潮のリーダーのひとり、ジョシュア・ウォン(黄之鋒)による著作だ。

彼の政治活動は14歳にして始まる。香港政府が導入しようとした「国民教育」という中国共産党のプロパガンダ教育制度に反対の声を上げ、11年に学民思潮を結成したのだ。結成の中心メンバーには日本で有名なアグネス・チョウ(周庭)も含まれている。このときの抗議活動には10万人以上の市民が参加し、香港政府は「国民教育」義務化の無期延期を余儀なくされた。

本書では、この若き民主派の闘士の人となりが、彼自身の言葉の中に表れている。ディスレクシア(読み書き障害)というハンディキャップを負いながらも両親の惜しみない愛情を受けて育ち、それを克服した少年時代。「機動戦士ガンダム」の大ファンでもあり、現代のオタク文化に傾倒する一面はほほえましい。

ジョシュアたちが呼びかけた雨傘運動は香港史上、類を見ない大規模な抗議活動となったが、目的を達成することはできなかった。彼らは抗議者であることに限界を感じて学民思潮を解散し、新たに「香港衆志」という政党を立ち上げる。そして立候補可能な年齢に達していたネイサン・ロー(羅冠聡)を候補者に、立法会選挙に打って出た。

見事当選したネイサンだが「宣誓ゲート事件」により議員資格を剥奪される。香港では議員就任式の際、中国政府への忠誠を誓う決まりがある。民主派議員の間では、この宣誓文を茶化し抗議の意味を込めて唱えることが慣例化しており、当然、彼もそうした。しかし、民主派の台頭に危機感を覚えた香港政府はこの行為を「問題」とし、ネイサンを含む6人の民主派議員を追放したのだ。その後、事態はさらに悪化し、ネイサンとジョシュアは雨傘運動時の罪に問われ逮捕されてしまう。

ところで、民主主義を求める香港の若者たちの中にも、派閥が存在する。香港衆志は「高度な自治」を目指し、平和的な抗議活動を手段とするリベラル派である。一方で、「本土派」と呼ばれる分離独立を目指すナショナリストグループは、過激な抗議行動をとることが多い。この違いを知ることは重要だ。

その後、中国政府は香港政府の頭越しに「香港国家安全維持法」を可決。香港衆志は解散を余儀なくされ、アグネスは逮捕された。ジョシュアは香港を炭鉱のカナリアに例える。香港の自由が死に絶えれば、次はあなたたちの国が最前線となると。実は国安法には、同法が規定する罪を犯した場合、海外に居住する香港居住権を持たない者にも法律が適用されるという条文がある。一般の外国人がいきなり逮捕される可能性は低いが、ジャーナリストは射程に入っているおそれがある。

独裁の最前線は確実にわれわれの足元に迫っている。一連の出来事への中国の態度から、欧米諸国もそう理解したのだろう。昨今の欧米の動きにもその事実が表れている。

※週刊東洋経済 2020年10月10日号

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