『教養としての「中国史」の読み方』

出口 治明2020年11月10日 印刷向け表示
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教養としての「中国史」の読み方
作者:岡本 隆司
出版社:PHP研究所
発売日:2020-09-19
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日本は、地理的に遠く離れた世界一の覇権国家であるアメリカと軍事同盟を結んでいる。そして世界第二の大国である近隣の中国が最大の貿易の相手国だ。現在、アメリカと中国の対立が激しさを増している。日本の立場はまことに辛いものがある。アメリカの機嫌を損ねない範囲で中国とも仲良くしなければ、日本の繁栄は覚束ないからだ。加えて、中国は理解がなかなかに難しい隣国ときているから、尚更である。

中国を理解するにはどうしたらいいか。人を理解するためには、その人の来歴、即ち履歴書を読むように、ある国を理解するにはその国の歴史を紐解くしか方法はない。しかし、中国4000年の歴史を紐解くのは大変だ。手練れの道先案内人が必要だ。本書は気鋭の碩学によるまたとない道標である。

本書は大きく3部構成をとっている。まず、Ⅰは、古代から現代まで受け継がれている「中国」のはじまりについて。なぜ、「1つの中国」をめざすのか、それはバラバラだからこそ。中国では、漢代に皇帝権力と儒教思想が結びつき、儒教的世界観が体制とイデオロギーの一体化した「秩序体系」として定着、つまり全世界が「皇帝の実効支配が及ぶ華」とそれ以外の「夷」に大別されるようになった。中国史を貫く儒教には「進歩」という考え方がない、従って、改善は「復古」という言葉を用いる。

Ⅱは、遊牧民の台頭から皇帝独裁へ。ここでは漢が滅んで胡族が群雄割拠した五胡十六国時代からモンゴルまでが取り上げられる。隋唐は胡族王朝で、武略に優れた胡と文化にすぐれた漢が共存できる胡漢一体という世界秩序を構築した。契丹からモンゴルへ、東から西への流れの最後に生まれたモンゴル帝国は、モンゴル・トルコ系の遊牧軍事力と、イラン・イスラム系の商業経済力が融合、一体化した政権であった。中国史最大のターニングポイントである「唐宋変革」によって門閥貴族が姿を消し、科挙の確立によって皇帝独裁政治が実現した。また、科挙によって、中国社会に昔からある「士」(エリート)と「庶」(非エリート)の二元構造が整理された。

Ⅲは、明以降の時代で、現代中国がどのようにして生まれたのかを解き明かす。明では官民乖離(実体経済との乖離)が北虜南倭を生み出した。武装貿易集団から出発し、棚ぼた的に明を後継した清は、明代のシステムをそのまま流用し、問題がない限り、各種族に介入・干渉せず、それまでのやり方を踏襲させた。やがて、西欧列強が押し寄せるようになり、日清戦争に敗れた清は「瓜分」(中国分割)の危機に晒された。変法をとなえた康有為はジャーナリズムを利用しようとして梁啓超を抜擢、梁啓超が中国人に初めて国民意識をもたらした。しかし、中国人は昔から国ではなくコミュニティに帰属しているので、バラバラで一つになりえない。孫文の率いた辛亥革命は共和制をめざしたが、内憂外患のときには機能せず袁世凱の独裁を招く。物事が進まないときは、トップダウンの独裁にするのが最も手っ取り早い。共和制の体裁を保ちながらトップダウンをやろうとすれば、一党独裁国家にせざるをえない。現在の中国が一党独裁なのは、このためだ。つまり、共産主義が主因ではないということだ。これが著者の見立てである。

著者は、「官民乖離」「コミュニティへの強い帰属意識」「1つの中国」の3つは明代以降、様態は違えども本質は変わらずに、中国がもちつづけている特徴だと指摘する。国にも個性があり、中国の個性は「二元構造」にある。中国と日本の関係がうまくいかないのは、お互いのことがいまだにわかっていないからだ。ある程度お互いのことがわかったうえで「君子の交わり」をめざすべきだ。これが結論だ。とても示唆に富む名著だと思料する。

※文藝春秋BOOK倶楽部原稿に加筆

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