居場所をどう見つけていくか『悲しみとともにどう生きるか』

中野 亜海2021年03月05日 印刷向け表示
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悲しみとともにどう生きるか (集英社新書)
作者:柳田 邦男 ,若松 英輔 ,星野 智幸 ,東畑 開人 ,平野 啓一郎 ,島薗 進 ,入江 杏
出版社:集英社
発売日:2020-11-17
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「被害にあった人は、他の人が同じような目にあわないために活動をしている人が多い」ということをよく聞く。
大変な使命を背負わされて、勇気をもってそれを果たしている人がいる。本書の編著者、入江杏さんもそのひとりだ。世田谷事件の被害者遺族だ。

この本は、入江杏さんが主宰する「ミシュカの森」に登壇した、柳田邦夫、若松英輔、星野智幸、東畑開人、平野啓一郎、島薗進の錚々たるメンバーの講演や寄稿を収録したものだ。「ミシュカの森」とは、さまざまな苦しみや悲しみに向き合い、犯罪や事件に関係ない人も一緒に共感しあえる場をつくり、共感と共生に満ちた社会につながっていけばと願って入江さんがつくられた会だ。

この本は、読者に「いかに居場所を確保するか」を教えている本に見える。
悲しんでいる人が居場所を確保するのは、現代ではとても難しい。
入江さんは、初めて被害者遺族としてテレビに出たときに、被害者遺族の先輩のような人に「とにかく指には気をつけてください」といわれたという。つまり、マニキュアなどで指が華やかだと「遺族らしくない」ということらしい。
被害者となったら、大切な人を失った悲しみや怒りのみならず、「被害者らしく」警察やメディアのいうことまで聞かなければならない。それを居場所を奪われたといわずして何というのだろうか。東畑さんは、入江さんとの対談で「入江さんの言葉がいろんな方に届くのは、その居心地の悪さをずっと語っておられるからなんだと思うんですよね」という。すべての人には「期待される」自分とそこからはみ出る自分がいるが、それをきちんと「正直いうと私はこうです」と言える正直さを持つことは、けっこう困難だ。それを入江さんがされているということは、とても勇気づけられる。

柳田邦夫さんは、「少年A事件」の被害者である彩花ちゃんのお母さんが、どう憎しみと恨みの感情から抜け出す兆しを掴んだのかを言い、若松英輔さんは「どこまでも幸せに生きてください。そのように生きておられることがとても雄弁なんです」と言い、平野さんは「当事者ではない人が関心を持って、どういう心境なのかをアプローチすることが、当事者にとっても非常に心強いとかつて言われたことがある」と言う。

この本は、優しい人が集まり、みんなで一緒に喪に服すような本だ。優しい人といっても、きちんと人生を見つめる強さを持った人が集まる、厳しい優しさだ。
もう会えない死者とどう関わるか、人間が変わることの難しさ、自分の悲しみに無神経な他人がいること――この世にはたくさんの悲しみがあるが、この本の最後で入江さんが言うように、悲しみから学ぶことで癒されることがあるのだと分かる。

この本の魅力は、こういった癒しの話だけではない。居場所というキーワードを切り口に、それぞれの現代の違和感も取り上げていく。


流通する自分であるということの安心感、自己効力感というのは、まさに市場が全面化した時代の必然でもあるように思うんですよね。逆にいうと、今、僕らはそれだけ非常に不自由になっているということですよね。何かにしがみつかなきゃいけない自分になっていて、流通できない自分に傷つく。

と、自己肯定感ブームの背景には「自分をお金に換算しなきゃいけない資本主義の苦しみ」があると東畑さんが指摘したり、SNSの問題について


もっと微妙な話をしているはずが、どこか異なる図式的な話に置き換えられてしまう。――(略)いつも二項対立に行きついてしまう。

と星野智幸さんが言ったりする。

鋭い人々から、現在の社会に感じる違和感が提起されて、それも興味深く読める。
決定的なことが起こったときに、いかに自分自身と向き合うか。本当の強さを考えさせられる一冊だ。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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