『罪を償うということ 自ら獄死を選んだ無期懲役囚の覚悟』無反省は凶悪犯への第一歩

西野 智紀2021年05月14日 印刷向け表示
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帯にある身も蓋もない惹句のとおり、本書は刑務所に服役する凶悪犯の大多数が自らの犯した罪について何ら反省していないと指摘する一冊である。

著者は、2件の殺人によって無期懲役判決を受け、すでに四半世紀以上服役中の人物。刑期が10年以上で犯罪傾向の進んでいる受刑者を対象とする「LB級刑務所」で日々を過ごす。たいへんな読書家で、支援者を通じて自身の読書遍歴や死刑存廃論などについての著作を多数発表している。この一風変わった名前はペンネームである。

長年凶悪犯と付き合い、本音を聞き出してきた著者に言わせれば(自身も犯罪者だが)、いま世間でリアリティがあるとされる「刑務所・受刑者モノ」の小説、ドラマ、ノンフィクションなどは、「失礼ながら笑ってしまうような作品が少なくありません」と一蹴する。なぜなら、これらの作品で描かれやすい犯罪者更生の物語は現実にはごく一握りであり、正確性に欠けるからだ、と。

人殺しの書いた本なんて抵抗があるし、だいたい内容だって眉唾、自分とは関係ない話――と思う向きはおそらくいるだろう。実際、読んでいると胸糞悪い。しかし、読み進めていくうち、著者が提示する凶悪犯の気質や特徴に、おぞましくも身近な人間心理が浮き彫りにされていく。

その一つは最初に述べたとおり「無反省」だ。10年を超える長期刑受刑者ならびに無期囚は、みな異様なほどに我が強く、刑務所に入れられる羽目になったのは被害者のせいだと真面目に考えている。裁判等で述べる謝罪の弁など口先だけにすぎず、作家や犯罪心理学者のインタビューでも本心を隠して上手く喋っている場合が多い。本書ではこのような受刑者がわんさと紹介される。

例として二人、本書から取り上げてみる。

まず、30代後半、服役歴4回目の山本さん(仮名)は著者曰く「ジャニーズ風の好青年」受刑者だ。犯罪は詐欺と窃盗が主で、今回の罪はオレオレ詐欺。12年の刑を受けていた。高齢者への共感がなく、また良心の呵責も露ほどもない。

彼の言い分はこうだ。年寄りどもが金を貯め込んで使わないから社会が不景気なんだ。しかも年金までもらいやがって、若者に金が回ってこない。奴らは老い先短いんだから、俺たちが取り返して使ってやれば少しでも景気が良くなるだろ……。まるで自分は義賊だと言わんばかりのロジックである。

彼はこうした言葉で共犯の若者たちを操り、上層の構成員として年間で4000万強の収益を上げていた。まともな仕事は収入が低すぎてやる気がなく、出所後もいかに老人を騙すか計画を立てていたそうだ。

長期刑に服する者と聞くと、気性が荒く見るからに悪党といった容貌をしているイメージがある。が、実際は全く逆で、前述の山本さんのように見た目爽やかな青年、温厚で優しいおじさん、小心で大人しい若者などがほとんどだったと語る。つまり、彼らにはぞっとするほどの二面性があるのだ。

著者が服役して初めて配役された印刷工場で出会った堀田さん(仮名)は、非常に知性的で紳士的な中年男性であった。ユーモアセンスがあり、話術も巧みで、著者のことをいたく気に入って「若き知性の持ち主を愛する思いとはこんなものかもしれないねえ」といつもおだててくれた。

そんな堀田さんの犯罪は強姦である。当時は4回目の服役中だった。反省の色など寸毫もなく、「強姦はいいねえ」「抵抗が激しいほど燃えるんだなあ」と、著者だけでなくヤクザにまで明るく話して呆れさせるほどだった。

このように、再犯を重ね長期刑となった受刑者は、自分の非を省みないエゴイズムと、とにかく相手に落ち度があるという他罰思考に支配されている。

民家に押し入ったら住民に見つかったので殺した者。貸した金をいつまでたっても返さないので、取り立てに行って殺害、放火した者。料金が悪い、女の子のサービスが悪いと文句をつけてきた客を事務所で集団暴行し殺害した者――。彼らは口を揃えて「あんな奴殺されて当然だ」と話す。だが、こんな理屈に正当性があったら秩序もへったくれもない修羅の世界へまっしぐらだ。

なお、著者もこのような自己合理化で2人の人間を殺めている。最初は、自分が暴力団幹部だったとき、金の無心や覚醒剤乱用で組織の害にしかならないと判断した知人を。二度目は、足を洗って堅気の仕事をしていたとき、重大な約束の不履行とそれについて謝りもしなかった人間を。

この犯行で逮捕され、最初の殺人も明るみになり、無期懲役となった。「悪い奴には厳しく対処するのが正しい」、そういう信条が昂じての殺人だったと綴る。今は自分の独善的行為を冷静に見つめ、もはやシャバに出たいと思わないし、仮釈放も望んでいない。贖罪とは何か、真の反省とは何かと思索を深めるのが獄死までの日課となっている。

無論、いくら虚心で読んでも、著者が殺人犯である点は割り引く必要があるだろう。だが、興趣に欠ける恬淡としたその書きぶりに、決して無縁な世界ではないリアリティと説得力を感じずにはいられない。自分は常に正しいと考える人間は、どんな残酷な行いもできるし、謝らない。そして、そんな人はまず変われないし、ましてや更生など夢物語……。

著者は死刑賛成ならびに少年犯罪厳罰化の立場を取るが、それもやむなしとしか思えない受刑者たちの言動がここにはある。

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