「買う」が当たり前になっているあなたへ贈る『ギフトエコノミー 買わない暮らしのつくり方』

アーヤ藍2021年05月25日 印刷向け表示
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ギフトエコノミー ―買わない暮らしのつくり方―
作者:リーズル・クラーク ,レベッカ・ロックフェラー
出版社:青土社
発売日:2021-02-25
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コロナ禍でステイ・ホーム時間が増えるなか、断捨離をしたという人は少なくないと思います。最初の緊急事態宣言から1年が経ちましたが、あらためて家を見回してみてください。物を減らして増えたはずのスペースに、また新しい物が増えていませんか?

私たちの日常は「買う」ことの連続です。「買えなくなるかもしれない」と思えば、買い溜めをし、外出しての買い物が難しくなれば、インターネット上でショッピングをし…。

そんな私たちにとって当たり前になっている「買う」という行為を「やめてみる」ことに挑戦した二人、リーズルとレベッカが著したのが、本書『ギフトエコノミー 買わない暮らしのつくり方』です。

もともと親友同士だった二人は、お互いの子どもたちを連れて海岸で一緒に遊んでいた時、大量のプラスチック破片が砂の中に混ざっていることに気づきました。そこからプラスチック問題に関心をもつようになり、その解決のために「簡単にできるパワフルなアクション」として「消費を減らすこと」に目を向けるようになりました。

 二人が始めた「Buy Nothing Project = 買わないプロジェクト」は、今や6大陸4000グループ100万人のメンバーにまで広がっています。

 

買うのではなく、ゆずり合う“ギフトエコノミー”を

「買わない暮らし」、それは言い換えると「現代人のほとんどが依存している市場経済(=売買)に代わる、ローカルなギフトエコノミー(=ゆずり合い)のネットワークを育むこと」だと二人はいいます。

ギフトエコノミーは日本語に訳すと「贈与経済」。無償での「贈与」や「分かち合い」によって、モノやサービスが循環していく枠組みのことです。自由にゆずり、受け取り、分かち合う。そのすべてが無料で、義務や条件も一切なく、自己犠牲や見返りを求めるものでもありません。

近い概念に「シェアリングエコノミー」(=共有経済)や「物々交換」がありますが、前者はお金が介在し、市場経済の一部として存在しているものが多く、後者は「等価なモノ」をやりとりする点で、ある種の「支払い」のようなもののため、どちらもギフトエコノミーと似ているようで異なるといいます。

 

「すべてを買う暮らし」は人を遠ざける。「買わない暮らし」は人をつなぐ。

「買わないギフトエコノミー」について深める前に、「そもそも人間の所有欲とは何なのか?」と、本書は問いかけます。

よく、大量生産大量消費社会を支えるものとして、企業のマーケティングや広告の影響が取り上げられます。本書でもその影響は大きいことを認めつつ、一方でそれ以前の「もっと根源的な何か」が存在するのではないかといいます。

なぜなら、マーケティングの影響を受けるような年齢よりもずっと前の2〜3才頃から、おもちゃを取り合ったり、ぬいぐるみに愛着を示したりと、所有への強い執着を示すからです。

そして歳を重ねていくなかで、自己肯定感の不足を埋め合わせたり、自分のアイデンティティを形成するためにモノを使うようになったり、人生の大切な記憶を刻むものとして重要な存在になったりもしていきます。実際、脳をスキャンすると、人の自己イメージを司る領野は、所有物について考えるときにも活性化するそうです。

そんなふうに、モノは私たちのアイデンティティを支えたり、記憶の「容れ物」になっているがゆえに、人と人との直接的な関係性が希薄になりがちな現代社会において、孤立感を埋め合わせようと、必要以上のモノを溜め込み、手放せなくなっているのではないかと、本書は提起します。

しかも、お金を介したやりとりは、作り手・売り手と買い手との間に、等しい個人としての結びつきを生むことを阻み、むしろ個人同士を引き離すため、「孤立感」と「モノの所有」の負のループを生んでしまうとも言えるでしょう。

ギフトエコノミーは「物質的な豊かさ」だけでなく、そうした現代社会において欠けがちな「他者との結びつき、コミュニティの形成、価値ある人間であるという実感」といった内的な豊かさも満たしてくれる、と二人は話します。

 

誰もが「もらう」だけでなく「ゆずる」側に立てる平等性

その一つの例が、著者の一人、リーズルの実体験です。リーズルはかつて、不況下で5歳と3歳の子をもつ「無職のシングルマザー」になり、低所得者向けの食事補助には申し込んだものの、食べることさえままならない状況が続きました。その現実に、尊厳や自己肯定感までが崩れていったといいます。

ある日、近所の山の散歩道を歩いていた時、ハルザキヤマガラシが自生しているのを見つけたリーズルは、娘たちにこれは食べられるものであることを教え、葉を傷めないようにそっと引き抜くように伝えました。帰宅後、一緒に収穫したヤマガラシで、3人は数週間ぶりに新鮮なサラダを食べることができました。

そのときリーズルは、野菜の栄養をとれたこと以上に、「自分にもまだ“ゆずれるもの”がある」ことに喜びを感じたといいます。そして、「一人の個人としての自分を取り戻せた」という感覚も得られたと…。

現代の資本主義社会では、「持てる者」と「持たざる者」がくっきりと分かれ、前者が「与える側」、後者は「もらう側」という構図に思いこまれがちです。しかし、ギフトエコノミーでは、物理的なモノだけでなく、時間や知識、1枚のピザを分かち合う心も、すべて「等しい価値」として捉えられます。誰もが「もらう側」にも「ゆずる側」にも平等に立つことができるのです。

本書ではこの「ゆずる」をギフトエコノミーの第一歩として紹介しています。

「ゆずる」の後は「受け取る」「リユース&リフューズ」「考える」「つくる&なおす」「分かち合う&貸す&借りる」「感謝する」の6つのステップがあり、本書では、それぞれの具体的なアイディアやレシピ、個人のエピソードなどもたくさん盛り込まれています。

コロナ禍が長引くなか、ステイホーム時間と空間を、“買わずに”より豊かにするヒントもきっと見つかるはずです。そして足元の暮らしとともに、様々な「現代社会における当たり前」も、本書を通じて見つめ直してみませんか。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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