痩せたいならばこれを読め!『ダイエットをしたら太ります。 最新医学データが示す不都合な真実』

仲野 徹2021年08月27日 印刷向け表示
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画期的な「ダイエット本」だ。なにしろタイトルがすごい。すべてのダイエット法を敵にまわしている。そして、内容はあまりに正しい。体重を減らすことに興味があるすべての人に読んでほしい。

ほとんのど場合、ダイエットは成功しません。どうしてって、ダイエットには「ダイエットすると太る」という、“不都合な真実”があるからです。

「はじめに」に書かれている文章だ。この本の内容はこれにつきる。その“不都合な真実”が次から次へと紹介されていく。ほぼすべてのダイエット本は著者の経験にもとづいていると言っていいだろう。もちろん、個々のダイエット法で成功した人がいることは認める。しかし、医学的エビデンスの質としては極めて低いと言わざるをえない。

この本は違う。紹介されているのは、査読をうけて医学誌に掲載された論文ばかりだ。いいとこ取りをしている可能性を完全に否定することは難しい。しかし、少なくとも巷間あふれるダイエット本よりは、はるかに正しいと判断して良いだろう。

肥満の判定によく使われるのはBMI(Body Mass Index=体格指数)で、よく知られているように、体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)によって求められる指数である。WHOと日本では少し違うのだが、日本肥満学会は以下のような判定基準を設けている。この指標を用いることが正しいのかどうかは難しいところがあるが、他の方法に比べて極めて簡便であるから、いたしかたないというところだ。

低体重(やせ)  18.5未満

普通(適正)体重 18.5~25未満

肥満       25以上

最初に紹介されているのは米国でおこなわれた研究、およそ13歳から23歳までの10年間にわたる追跡調査である。ダイエットとBMIの増加について調べたところ、男女ともに、ダイエットを経験したことがある人の方が、したことのない人よりもBMIの増加が大きかった。えっ、逆とちゃいますのん。成長期のデータなので、大人にもあてはまるかどうかはわからないが、ちょっとびっくりだ。

不肖、現在は身長180センチで体重が78キロ台なので、BMIは24~24.5と、適正体重の上限ぎりぎりをキープしている。一時期は87~88キロまで記録したことがあるので、さまざまなダイエットを繰り返したからといって、必ずしも太り続けた訳ではない。とはいえ、気を抜くと太ってしまうのは間違いない。

何を隠そう、わたしは「ダイエットの達人」ならぬ「ダイエット『入門』の達人」だ。早い話が、数多くのダイエット法に挑戦してきたのである。その経験はここに紹介してあるので、興味のある方はお読みいただきたい。

もちろん糖質制限も試みたことがある。短期間で体重が減った。しかし、同時に、明らかに体調が悪くなった。痩せはするけれどこれではどうしようもないと、短期間で打ち切ることにした。炭水化物の摂取割合と死亡率についての研究、45歳~64歳の約1万5千人を対象にした研究、の結果が載せられている。それによると、総摂取カロリーの50~55%を炭水化物から摂った人の死亡率が最低で、それより低かった人の死亡率が高かったという。う~ん、たとえ痩せられても死んだらどうにもならんぞ。

といったあたりが第一章『ダイエットしたら、太ってしまった!』の内容である。ただ、ダイエットは一般論として難しい点がある。すべての人に有効とは限らない。特殊なダイエット法、たとえば糖質制限でしっかり痩せて健康になる人もいるということだ。逆にいうと、そのあたりが、怪しげなダイエット本がはびこる要因にもなっている。

次の第二章『誰も言わなかった、ダイエットの落とし穴!』では、食欲や肥満の生理学についてのわかりやすい説明だ。知れば知るほど、正しく痩せるというのは難しい、というか、簡単に体重を減らす方法はないのだ、ということがわかってくる。まぁ、逆に考えると、それこそが、手を変え品を変えのダイエット本がよく売れる理由ではあるんですけどね。

以前からずっと不思議に思っていたことがある。それはBMIの「正常値」についてだ。この本でも、米国、デンマーク、中国、そして日本のデータが紹介されている。いずれの研究でも、痩せすぎ(BMI 18.5未満)の死亡率が高いこと、それから、やや太り気味の方が死亡率が低いことがわかっている。何を不思議に思っているかというと、それならば、BMIの正常値をもうすこし引き上げるべきではないかということだ。

最近かなり有名になってきたが、妊婦は痩せすぎない方がいいということも紹介されている。胎児が低栄養にさらされると、成長した後に生活習慣病になるリスクが高いということがわかってきたからだ。そのメカニズムは、わたしが専門とするエピジェネティクスという現象による。こういったことを受けて、日本産婦人科学会はこの3月に、妊婦さんの増やすべき体重量を2~3㎏引き上げている。

太りすぎはよくないのだけれど、あまり体重を絞るのもよろしくないということは頭にいれておくべきだ。そして、最後の第三章ではいよいよ『ダイエットがダメなら、どうすればいいのか?』が明らかにされる。ただし、こうすればドンドン痩せるなどといった方法は示されない。ここが他のダイエット本とまったく違うところだ。なんでやねん、などと怒ってはいけません。それこそが極めて良心的なのであります。そのようなものは存在しないのでありますから。

何か特別なことをするのではなくて、ライフスタイルを健康的に変えましょう、というのが最終的な提案だ。紹介されているのは、少なくとも30ポンド(約13.6㎏)の減量を1年間以上維持できた人たちの「全米体重コントロール成功者登録」における共通点である。減量前のBMIが36.7というから、さすが全米が痩せた、かなりのデブたちだ。

①低カロリー・低脂質の食事を続けている

②毎日1時間以上、ウォーキングなどの運動を続けている

③週に1回以上、定期的に体重を量っている

④必ず朝食を摂っている

⑤平日と週末を問わず、一貫した食事パターンを維持している

④が少し意外だが、他はあたりまえすぎる内容ではある。しかし、これこそが体重を減らす王道なのだ。

この本一冊で、本屋さんのダイエット棚の本すべてに対抗できる内容が備わっているといっても過言ではない。体重が気になる人、減らそうとしている人は、他の本を読む前にまずこの本を読むべきだ。無駄なダイエットはいくらやっても意味がない。不肖、ダイエット入門の達人がいうのだから間違いございませぬっ!
 

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 ダイエット入門の達人についてはこの本に詳しく書いてあります。ほとんどアホです。
 

エピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書)
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 ダイエットによる悪しき変化はある程度エピジェネティクスで説明できるかも。

 

 

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