『娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件』無責任と人間性の欠落 教育現場の抱える闇

鰐部 祥平2021年10月23日 印刷向け表示
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娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件
作者:文春オンライン特集班
出版社:文藝春秋
発売日:2021-09-10
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北海道旭川市の中学校に通っていた廣瀬爽彩(さあや)さんは、2021年2月13日夕方に失踪し、38日後に市内の公園で雪の中に埋もれ亡くなっているのを発見された。享年14、早すぎる死だ。

彼女は中学校に進学した19年からイジメを受けており、PTSDに悩まされていたという。彼女の身に何が起きたのか。文春オンライン特集班が一連の事件を取材、公開した記事に加筆修正のうえ再構成したのが本書である。

爽彩さんは絵の大好きな女の子。小学生の頃は学校も塾も大好きだったという。シングルマザーとして娘を育ててきた母親は、仕事で忙しくはあったがそれ以上に愛情を注いで育ててきたと語る。それは、掲載されている幼少期の愛らしい笑顔の写真を見れば一目瞭然だ。

彼女が急変したのはY中学校に入学してすぐのこと。明るい笑顔は消え、ふさぎがちになった。イジメを疑った母親は学校に相談するも、担任の教師は「彼氏とデートなので明日じゃだめですか」と他人事のように言い放った。

Y中学の教師たちが爽彩さんの母親の訴えを無視し続ける間も、彼女は壮絶なイジメを受けていた。主犯格はY中学の先輩A子、B男、Z中学のC男ら。あるとき、C男はレイプをほのめかして爽彩さんを脅迫し、自身のポルノ写真を送るよう強要した。

イジメグループは、爽彩さんが恐怖のあまり送ってしまった写真をSNS上に拡散させた。後に警察が介入し加害者のスマホの画像データを削除させても、外部に保存していたデータを取り出し執拗に再拡散させる悪質ぶりだ。

イジメはエスカレートの一途をたどる。大勢で爽彩さんを取りかこみ自慰行為を強要したことさえあったというが、もはや、性犯罪ではないか。どれほど自尊心を傷つけられたことだろう。読んでいて涙が込みあげてくる。

また、10人以上で爽彩さんの自殺を煽り、追い詰められた彼女が川に飛び込んでしまう事件もあった。その一部始終を見ていた近所の人が警察に通報し一連の事件が明るみに出た。警察の捜査の結果、C男は児童ポルノに関わる法令違反、児童ポルノ製造の法律違反に該当したが、当時14歳未満であったため刑事責任を問えず「触法少年」として厳重注意を受けたのみだった。

異様なのはY中学の対応だ。当時の校長は爽彩さんの死後、取材班に対し、トラブルはあったがそれはイジメではなかったと主張し、爽彩さんが亡くなったこととY中学でのトラブルとの関連性を認めようとしなかった。こうした態度の背景に、学閥に牛耳られた閉鎖的な教育現場の問題があることを関係者へのインタビューから炙り出す。

取材班は加害者たちへの取材にも成功する。彼らや保護者に反省の色は見えず、薄ら笑いすら浮かべ、罪をイジメグループのほかのメンバーや爽彩さんの家庭環境に転嫁しようとした。彼女の死をどう思うか聞かれA子は「何もおもわんかった」と答えた。

爽彩さんの葬儀にY中学の教師は一人も訪れなかったという。他者の人格と尊厳を慮る想像力の欠如と、人間性の欠落、そして無責任さ。教師と加害者側の態度には憤りを禁じえない。

※週刊東洋経済 2021年10月23日号

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