過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』

2022年1月5日 印刷向け表示
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作者: ユリア・エブナー
出版社: 左右社
発売日: 2021/12/31
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この『ゴーイング・ダーク』は、イスラム聖戦主義者やキリスト教原理主義者、白人のナショナリストや極右の陰謀論者、過激なミソジニストたちの組織など、12の過激な主義主張をかかげる組織に著者が潜入したさまをつづるルポタージュである。

潜入が実施された期間はおおむね2017年から18年にかけての2年間で、その間に著者はオンライン活動への参画を中心としながら、そうした組織の裏側でどのような活動や勧誘が行われていて、彼らがどんな思想を持っているのかをつぶさに見ていくことになる。

著者が潜入するのは初心者にもハッキング講座を施してくれる、親ISISのハッキング組織から白人ナショナリストなど過激な思想を持つもののみが参加できる特殊なマッチングサイトまで様々だが、そこには共通する人間の傾向や勧誘の手口が存在していることが、明らかとなっていく。本書はこんな過激主義のコミュニティがあるんだ〜と、物見遊山として読んでも十分おもしろいが、彼らが使う、人の弱みにつけ込むその手口を知ることは、自衛にも繋がるだろう。

実際にどんな組織に潜入しているのか?

著者が第一章で潜入するのは、ネオナチと白人至上主義者たちの集うディスカッション・グループだ。ちなみに著者は1991年ウィーン生まれの白人女性で、この組織を筆頭としてそうした属性がないと入れない組織(たとえば女性だけの組織など)にも数多く潜入している。

ディスコード上で展開するこのグループは世界各地から数十人のメンバーが参加していて、内訳としては10代から20代前半のアメリカ人にカナダ人、南アフリカ人にヨーロッパ人と多種多様。会話の人気のテーマは、は遺伝学と生物学なのだという。たとえば今は安く手軽に遺伝子検査ができるから、それを用いて自分が正しいと信じる血筋(白人)であることを証明するのだ。

彼らはチャットルームでの会話を「すごく面白いんだ」とか「頭の切れる人間がこんなにたくさんいるなんて」と前向きに語るが、飛び交っているのは「ユダヤ人どもをガス殺しろ。さあ人種戦争の到来だ」のような表ではいえない言葉である。『ディスカッションを観察し、音声チャットに耳をすますうちに、わたしにもだんだんとわかってきたのは、タブーを破る楽しさがどれほど退屈しのぎになるか、そして帰属意識がどれほど孤独を癒してくれるかということだ。』

著者によればこのようなグループはディスコード上だけでも数十、インターネット上では数百も存在するという。クローズドな場でキャッキャしているだけなら害もないが、こうしたグループの一部のリーダーたちは、白人種の国家を築くことを目指している。

反フェミニスト女性らの団体

著者が第三章で潜入するのは、反フェミニスト女性らの団体(自称レッドピル・ウィメンもしくはトラッドワイフ)だ。そこでは女性の価値とは男性に性的に求められることであり、性的価値を高めるべく行動しよう(たとえばセックスの回数が増えれば増えるほど女性の性的価値は下がるので、無闇矢鱈にセックスするのはご法度である)という規範が存在している。

このコミュニティでは、ルールとしてノー・フェミニズムを挙げ、旧来的な女性と男性の価値観に戻ろうとしている。たとえば女性は夫に付き従い、要求や議論をするのではなく服従し、無条件に男性を喜ばせることを目的とするのだ。なぜこのような思想を、特に女性が持つようになるのか読み始めた最初の段階ではわからなかったが、著者自身潜入当時は精神的に不安定で、調査の枠を超えてこのコミュニティに入れ込む様、その理由が実体験とともに描かれていく。

ここでは憎悪が他者ではなく自己に向けられているのだ。自分を責めたり、自分を侮辱したりする言葉を発してメンバーとつながることには、どこか妙な居心地のよさがあった──集団的な自己最適化が誘う、ある種の慰めが。

他にも、女性がパートナーの男性から攻撃的な言動や直接的な暴力を振るわれた時、こうしたコミュニティはお手軽な答えと解決方法を与えてくれる。あなたが従順でさえあれば良いのだと。また、伝統的な関係では男性は女性を”しつける”ものであり、おかしいのはそれを許容しない現代のフェミニズムなのだと。こうした伝統的な力関係や旧来のジェンダーロールのような責任の所在が明確な状態へと戻りたいという欲求は、男性にも女性にも存在しているものなのだろう。

攻撃対象にされる

著者は過激主義者らに対する意見を雑誌「ガーディアン」などにも寄稿しているのだが、それは当然極右組織の人々からすれば不愉快なものであり、彼女が攻撃対象にあがることもある。たとえば、ある記事がきっかけとなって著者はイングランド防衛同盟という極右政治団体の創設者にして、20万人以上のフォロワーを抱えるトミー・ロビンソンに目をつけられてしまう。

トミー・ロビンソンはもともと元々ジャーナリストの家に突撃してそれを配信したりして人気を得てきた人物だったが、彼が著者の働くオフィス(ガーディアンではなく、クィリアムという会社)をインターネットに配信中継しながら突撃してきたのだ。その目的は記事内容に関する抗議や話し合いではなく、ただ主流メディアへの攻撃の姿勢をみせることで視聴者を楽しませ、自分のメディアへの登録者数を増やすこと。いわば揉め事のための揉め事であり、当然不法行為なので警察を呼ぶとすぐに帰る。だが、攻撃がそれで終わるわけではない。

著者やクィリアムの同僚は信奉者たちによる脅迫メッセージを受け続け、オフィスも閉鎖されてしまう。最終的には、クィリアムのCEOから著者に対して、もしも君の同僚に何かあったら、君はその責任を一生背負っていかないといけないんだぞ。発言を撤回しお詫びをすると公式に声明を出してくれ、と脅しがなされることになる。それを受けたらトミーは「犬たちを引っ込める」という。著者がつっぱねると、24時間も経たないうちにふたつの懲戒警告と解雇通知が届く。

この経験は、極右のメディア・インフルエンサーが組織や体制全体にどれほどの力を発揮できるかを教える一例だった。

おわりに

本書では他にも、様々な主義主張を持った極右集団の集会にオンラインで参戦し、ライブ配信やメッセージアプリを通じた新しい大規模な動員の実態を描く第九章「ユナイト・ザ・ライト」。親ISISのハッキング組織ムスリム・テックに入り、未経験者がハッキングの入門講座を受ける過程を描く第十一章「ブラックハット」。ゲームの手法を持ち込むことでテロを効率化する、ゲーミフィケーションとテロの関係を描き出す十二章「ゲーミフィケーションされたテロリズム」など、オンラインで動員を行い、力を増していく組織の多様な姿が描き出されている。

じゃあ、我々はこのような過激さを増す組織に対抗することはできない……ってコト?! と思いそうになるが、最終章では対抗手段についても語られている。たとえば偽情報やプロパガンダの流布に対しては、実際にバルト諸国は謝った報道や誤解を招く統計を訂正する数千人のボランティア活動家がいることを紹介していたり、できることは一つではない。

普段陽の当たらない過激主義組織の実態を暴き出した、迫真のノンフィクションだ。おもしろすぎて1月1日の年始に読み始めて、その日のうちに一気に読み切ってしまった。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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