保健所の「コロナ戦記」TOKYO2020-2021

2022年1月25日 印刷向け表示
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混乱の記録である。同時にきわめて貴重な記録でもある。人類の歴史に残る新型コロナウイルスとの闘い。その最前線で何が起きていたのかが本書で初めて明らかになった。

著者は保健所と東京都庁の感染症対策部門の課長として、新型コロナ対策の第一線で指揮をとった公衆衛生医師である。メモ魔を自認する著者の記録は詳細をきわめる。保健所の苦境は報道などを通じ多少は知っているつもりだったが、現場の状況は巷間伝えられているよりもずっとひどかった。都の1日の新規陽性者が5千人を超えた昨年8月、彼らはついに絶望の淵に立たされてしまう。よく持ちこたえたものだと思う。読みながら何度も背筋が寒くなった。

なぜ保健所は追いつめられてしまったのか。保健所は行政サービスと医療サービスのいわば中間にある組織だ。著者はこれを川と海のはざまの汽水域にたとえる。本来なら中間的な立場だからこそ医療機関や行政の目の届かないところをきめ細かくフォローできる強みを持つが、コロナとの闘いでは組織の位置づけの曖昧さが裏目に出た。要するにありとあらゆることが保健所に押しつけられたのだ。

その最たるものが医療対応である。医療機関ではないにもかかわらず、入院が必要かどうかの判断や入院先との調整などを行わなければならなくなった。都内にわずか31ヶ所しかない保健所がパンクするのは目にみえている。だが医療側は援助に及び腰で手を差し伸べなかった。

この他にも、トップの方針が変わるたびに現場が振り回される様子や、押し寄せる業務にスタッフが疲弊していく様が事細かに描かれる。現場の奮闘には頭が下がる。著者が指摘する課題に私たちは真摯に耳を傾けるべきだろう。

活字中毒で映画マニアの著者らしく、巻末には新型コロナウイルスとの闘いの中で勇気と知恵をもらった映画と本の一覧も掲げられている。緊急事態の名のもとで「不要不急」とされがちなものが、闘う著者を支えていたという事実も示唆に富んでいる。

(東京新聞 2022年1月15日紙面より転載)

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