『誉田哲也が訊く!警察監修プロフェッショナルの横顔』知られざるプロ集団「チーム五社」とは

2022年2月4日 印刷向け表示
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作者: 誉田哲也&チーム五社(五社プロダクション)
出版社: 光文社
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他人にホラ話を信じさせるコツは、9割の嘘に1割の真実を混ぜることだという。これが刑事ドラマとなると、そうはいかない。合言葉は「3割のリアル」。7割の嘘に3割の本当が求められるのが刑事ドラマなのだ。そんな刑事ドラマのリアリティを支える知られざる職人集団。それが「チーム五社」である。

五社英雄といえば、時代劇におけるリアリティを追究した監督として知られる。肉を斬り骨を断つ効果音を発明したり、竹光ではなく真剣と同じ重さのジェラルミン製の刀を殺陣に用いて刃と刃がぶつかる金属音を出したり、演出面で後進に大きな影響を与えた。五社監督の死後、五社プロダクションは長女が継承し、警察監修のマネージメントも行うようになった。チーム五社は、プロダクション内に設立された警察監修チームである。

モットーは、「刑事ドラマに3割のリアルを」。在籍する警察出身者らの知見を生かし、的確な助言を行う日本でも数少ないプロフェッショナル集団だ。メンバーには警視庁の元捜査一課長や元科捜研、盗犯や薬物犯罪のスペシャリスト、元刑務官などが揃う。「キャリアを最後まで勤め上げた人間しかいない」(つまり中途半端に警察を辞めた人間はメンバーにいない)のが誇りである。

チーム五社が関わった作品リストをみると、ずらり有名ドラマの名前が並ぶ。民放はもちろん、NHKやNetflixオリジナルもある。こうした作品のシナリオや演出、ストーリー展開などについて緻密なチェックを行うのが主な仕事だが、その半面、エンタテインメントの醍醐味を守るために100%のリアリティは求めないという。「3割のリアル」にはそんな気持ちが込められている。

本書は、姫川玲子シリーズや〈ジウ〉サーガなどの警察ミステリーでお馴染みの誉田哲也氏による、チーム五社6人のプロフェッショナルへのインタビュー集である。面白いエピソードの宝庫で、刑事ドラマや警察ミステリー好きにはたまらない一冊となっている。

そもそもプロの目からみると、刑事ドラマはツッコミどころ満載らしい。

まず違法捜査のオンパレードだという。捜査令状もないのに家探ししたり、取り調べ中に机を叩いたり椅子を蹴ったりする。これらはすべて違法である。被疑者にタバコを差し出すのも違法だし、取調室でカツ丼を食わせるのもNGだ。カツ丼なんていまどきコントかよ、と思う人もいるかもしれないが、いまだに台本の第一稿で、取調室でカツ丼を食わせようとするような場面を目にすることがあるという。

張り込み中の刑事の耳からイヤホンが垂れているのもよくドラマで見かけるが、これも現実ではあり得ない。ただ、撮影の現場では一応事実だけを伝え、判断は制作者に委ねるようにしているという。大切なのはドラマを観る人が本当らしく感じるかどうかで、100%の真実に基づけばいいというものでもないらしい。あるメンバーは「リアリティとは、エンタテインメントにおける隠し味みたいなもの」と述べている。言い得て妙である。

優れた職人の話というのはジャンルを問わず面白いものだが、本書もその例に漏れず、各メンバーが語るエピソードが印象に残る。

例えば、刑事の目のつけどころに感心させられたのは、世田谷一家殺害事件のエピソードである。この事件では、犯人の遺留品のヒップバッグの中から見つかった砂が、モナザイトという鉱物であることがわかっている。これはアメリカ・ネバダ州のものだった。そんなものがどこから紛れ込んだのか。こういう時は目線を変えることで、思わぬルートがみえてくるという。元刑事のメンバーが例としてあげたのは、意外にもビーチバレーの大会である。

ビーチバレーの国際大会に出る代表チームは、次の開催地から砂を取り寄せて、同じ環境を用意して練習するという。つまりアメリカから砂が運び込まれる可能性があるのだ。同じように、ゴルフ場のバンカーも設計者の国の砂を持ってきて造成することがあるという。こうした着眼点に基づいて、ひとつひとつ、可能性を潰していくのが捜査なのだ。

あまり実態を知らない離島の警察署に関するエピソードもある。あるメンバーは小笠原署に赴任した経験があるという。1年半の勤務だったそうだが、なかなか貴重な経験である。小笠原署は父島にあり、署員は全部で16名。うち2名は母島の駐在所勤務だそうだ。常夏のため、警察官も常に夏服。犯罪がほとんどなさそうな平和な島のイメージがあるが、この島に特有の事案があった。それは「捜索」だという。海や山に行った観光客が戻ってこないと民宿から一報が入る。通報を受けるたびに、消防団や海上保安署と連携して捜索に出るのだという。離島の警察署にもそれなりの苦労があるのだ。なんだか新しいドラマのネタに使えそうな気もする。小笠原署を舞台にしたヒューマンドラマなんてどうだろう。ただし、竹芝から父島まで定期運航船で25時間半だからロケは大変かもしれない。

監修の仕事では、たとえ現実と異なる点があったとしても、現場では制作サイドの意向が優先される。そうした原則を踏まえながらも、チーム五社のメンバーは、脚本には細かく書き込まれることのない、上司への敬礼の仕方や受刑者を連行する際の立ち位置といった、ちょっとした所作を俳優にアドバイスしたりしている。現役時代、刑事や刑務官としてしっかり仕事をしていた人は、撮影現場でも手を抜けないらしい。ついつい職人の矜持が顔を出してしまうところはなんとも微笑ましい。

本書は『小説宝石』の連載がベースになっている。元は雑誌記事のため手軽に読めるが、これだけの実績あるプロが集まったのだから、おそらく取材現場では相当にディープ話が出ているはずだ。せっかくならもっと長くて濃いインタビューが読みたかったというのは、いち刑事ドラマファンのないものねだりかもしれない。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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