『mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来』

2022年3月14日 印刷向け表示
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作者: ジョー・ミラー,エズレム・テュレジ,ウール・シャヒン
出版社: 早川書房
発売日: 2021/12/25
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新型コロナウィルスCOVID-19のパンデミックは多くの人たちに災厄をもたらした。どうやら定期的に訪れるこのコロナウィルスのパンデミックに有効な予防方法は伝統的な公衆衛生の手法以外には人類は用意できていなかった。COVID-19に先立って地域的な流行を発生させたSARSコロナウィルスやMARSコロナウィルスは流行が終息したこともあったが、ワクチン開発の試みは失敗に終わっていた。

トルコ移民の子供達だったビオンテック創業者のウール・シャヒンとエズレム・シュレヒ夫妻は一度創業した創薬ベンチャーを含めて2社目のガン免疫療法のツールとしてmRNAを用いていた。mRNAは細胞核内のDNAから複製され、細胞質内にあるリボゾームで身体に必要なタンパク質を作るための設計図である。役割を終えたら体内の酵素で即座に分解され、細胞外から入ってくる場合はウィルスの設計図であることが多いのでやはり強力にブロックされる。その特徴が多種多様な患者の無軌道に増殖したガン細胞のターゲットした攻撃に最適だと思われたからである。

血液中ではすぐに分解されてしまう、この脆い遺伝物質を身体の免疫系に認識させるために脂質ナノカプセルから、RNAを構成する物質のカスタマイズまでありとあらゆる仕組みを整えていたことが、COVID-19に対応させたワクチン開発を間に合わせることに繋がる。何よりウール達が2020年の初頭にはすでにこの厄介なウィルスの特徴を見抜き世界的なパンデミックが来ることを予測して会社の体力を超える資金と人員をこのウィルス対策に投下していた先見性に驚かされる。それもアメリカの軍事予算を注ぎ込まれていたモデルナ社に先行して、上場してるとはいえ大資本に属さないドイツの田舎町にある会社が、である。

規制当局との細かい交渉や、世界にワクチンを届けるためには必要不可欠な世界的製薬メーカーであるファイザーとの息詰まる交渉など、ワクチンの科学的な側面だけではなくビジネスや政治的動きまで事細かに解説されている本書。今後のテーラーメイドがん治療だけでなく、他の感染症や難病もこの高度に民主化されたmRNAプラットフォームが克服してくれる可能性は高い。それどころか老化の巻き戻しすら可能かもしれないと期待させてくれる。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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