論理的思考は単なる技術である『科学的論理思考のレッスン』

2022年7月27日 印刷向け表示
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作者: 高木敏行,荒川 哲
出版社: 中央経済社
発売日: 2022/7/1
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思考というと、多くの人は難しいものと考えがちだ。しかし、決してそのようなことはない。とりわけ、科学的な論理思考というのはシンプルだ。いや、シンプルであるべきだ。そうでないと他の人に理解してもらえない。

多くの大学院生を教えてきた。同じ事を繰り返し言うのは嫌いなのだが、何度も何度も繰り返したフレーズがある。それは、「これは前にも言うたやろ」である。多くの場合、「いいえ、記憶にありません」という答えが返ってくる。いやいや、こういうデータで、こう考えるという指導をしたことがなかったかと問い直すと、それならあります、と言う。それと同じ事ではないかと説明しても、いまひとつ理解してもらえない。

こちらから見ると同じことなのだが、指導されている方からはそう見えない。見る位置、高さといってもいいだろう、が違うせいだ。科学における論理的思考の本質がわかっていれば、一見違って見えるけれども、まったく同じやり方による解決にすぎないことは多い。こう書くと、難しいと思われるかもしれない。だが、決してそのようなことはない。思考の方法というのは、基本的にテクニックに過ぎないなのである。

研究者としてやっていくには、その方法論を身につけなければならない。経験上、こういったものは場数を踏まないとマスターできないのではないかと考えていた。しかし、この本を読んで、その考えは間違いであるということがわかった。科学的論理思考は、たった四つ、「演繹推論」、「帰納推論」、「アブダクション」、「データ科学推論」に落とし込むことができるのだ。まったく目からウロコであった。

この四つの説明にはいる前に、まず「科学的論理思考のための『集合』と『論理』の基礎」が説明される。論理学のイロハについての解説である。残念ながら、一流といわれる大学を出ていても、この程度の論理学が身についていない人が多い。その基礎として「集合」の概念から解説が開始される。言われてみたらあたりまえなのだが、集合と論理は非常によく対応している。なので、いきなり論理学から説明されるより、直感に訴えやすい集合から話してもらった方がわかりよい。

そして、本論にはいっていく。まずは「演繹推論」だ。演繹とは「推論の一種。一定の前提から論理規則に基づいて必然的に結論を導き出すこと。」(広辞苑 第七版)である。この推論は、いわゆる「三段論法」のことだ。広辞苑の定義に「必然的に」とあるように、正しく使えば必ず正しい。ただし、前提が間違えていれば、当然、結論も誤りになることには注意が必要である。

つぎは「帰納推論」で、同じく広辞苑によると「個々の具体的事実から一般的な命題ないし法則を導き出すこと。特殊から普遍を導き出すこと。導かれた結論は必然的ではなく、蓋然的にとどまる。」とある。ちょっとややこしい書き方だが、いくつかの例から何らかの法則を導き出すのが帰納である。

「必然的ではなく、蓋然的にとどまる」とあるように、演繹推論とちがって、必ずしも正しいとは限らない。よくある喩えは、カラスは黒いという法則である。いままで見たカラスがすべて黒かったので、カラスは黒いという結論を導けそうだ。しかし、まれとはいえ、世の中にはメラニン色素を合成できない白いカラスもいる。そんなカラスが一羽でもいたら、「カラスは黒い」という法則は成り立たない。屁理屈と思われるかもしれないが、論理というのはそういうものだ。

でも、高校時代に習った数学的帰納法は、正しい式を証明できたやん、と思う人もいるだろう。恥ずかしながら、わたしも昔はそう思っていた。この本ではちゃんと、「数学的帰納法は帰納法ではない!?」というコラムが設けてあって、数学的帰納法は「演繹推論と帰納推論を組み合わせたもの」と説明されている。そやから常に正しいんですわ。このようなコラム、それから、わかりやすい例による説明が、この本を非常に読みやすいものにしている。

「アブダクション」というのは、前のふたつに比べると聞き慣れないことばだ。とはいえ、広辞苑にはちゃんと採語されており、「パースが提起した科学的探究の方法。演繹や帰納に先立って、未解明の現象の中に仮説的な法則的秩序を発見する方法をいう。仮説形成。仮説的推論。」とある。パースって誰やねんと思って調べたら、チャールズ・サンダース・パースっちゅう人らしいです。広辞苑の説明だけだとちょっとわかりにくいが、この本では、以下のように定義されている。

従来からの知識だけでは説明不可能な驚くべき事象が発見された場合、ある飛躍した仮説を立てることで、その事象を説明することができたら、この仮説の正しさを認める、という推論法

両者をあわせると、予想外の出来事があった時に、その理由を考え出すのがアブダクションということになる。もちろん、仮説はひとつとは限らない。それぞれの仮説について、まずは、どのような方法をとれば、それが正しいと確認できるか、あるいは、間違えていると確認できるかを考える。それが演繹的段階だ。そして、必然性を持って導かれた確認法を実行して、帰納的に検証する。

こう書くとなんでもないようだが、こういったプロセスをきちんと整理できている人は少ないのではないか。それに、この進め方は科学的論理思考に限らない。実生活で体験するさまざまなことにでも適応が可能であるから、身につけておいて損はない。

最後の「4 データ科学推論」は、数値的なデータから、ある結論を導き出す方法論だ。言い換えると、簡単な統計学入門である。あぁややこしいと思うなかれ。日常生活において、さまざまなデータを利用し、騙されないためには、最低限の統計学的知識が必須である。ここに紹介されている、ヒストグラム、代表値、分散と標準偏差、いりおろな確率分布、統計的推測と検定、相関、順列・組み合わせなどについては、大ざっぱでいいから理解しておくことが、生きていくうえで必須だといっても過言ではない。

この本、抜群のデザインが内容の理解を大きく助けてくれる。珍しく、まんなかあたりには真っ赤なページがある。17ページにわたるそのパートでは「やりがちな誤った推論」として、「複合命題の逆と推定」、「循環論法」、「多重質問」、「トートロジー」、「合成の誤謬」、「誤った二分法」、「誤った前提」、「相関関係と因果関係の誤った理解」があげられている。タイトルだけではわかりにくいが、ありがちな論理的間違いが具体例をあげてわかりやすく説明されていて、この八つを知ることができるだけでも十分に価値がある。

通しで読めばもちろん、パラパラと分かりやすい図表を見ているだけでも勉強になる。なによりのメリットは、科学的論理思考いうてもちょろいもんやないか、と肌でわかることだ。間違いなく賢くなれる一冊。読まずにどうする!


巻末に「科学的論理思考のための推薦図書」として12冊の本がリストアップされています。そのうちの一冊が拙著で、絶賛されてます(たぶん)。誉められたからレビューを書いた訳ではありません。念のため。といっても、全然関係ないとは言えないかも…

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!

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