素朴な棒グラフの意外な底力 『統計データはためになる!』

2012年11月28日 印刷向け表示
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統計データはためになる!  ~棒グラフから世界と社会の実像に迫る~

統計データはためになる! ~棒グラフから世界と社会の実像に迫る~

  • 作者: 本川 裕
  • 出版社: 技術評論社

  • 発売日: 2012/9/22

世の中には様々なデータがあふれているが、数字だけではピンとこないものだ。しかしグラフ化した途端にメッセージが浮き彫りとなり、直感的にこれに納得できたといった経験はないだろうか。

たとえば、「老舗企業創業年次ランキング」をご覧いただきたい。

イオン、高島屋、新日鐵、伊藤忠商事といった江戸・明治時代創業の著名企業も見受けられるが、飛鳥時代創業の「金剛組」の息の長さには適わないことが棒グラフの長さで如実に現されている。

この金剛組、創業は日本最古ばかりでなく世界最古とされている。大化改新以前の元号もない時代から現在まで、実に1400年以上も存続している。事業内容も社寺建築と神々しい。2位以下には温泉旅館が目立つ。日ごろの垢を洗い流しつつ、老舗旅館の長寿にあやかりたいものだなあ、云々。たった一つの棒グラフに、よもやま話が尽きなくなってしまう。

本書では経済、生活、自然科学などあらゆる分野のデータを棒グラフ化し、直感で数字を読み解くことで、世界の実像に迫ろうと試みる。棒グラフの技法を生かし、社会の一面をパノラマのように映し出すと意外な発見があり、データをいつまで見ていても全く飽きが来ない。

まずは、棒グラフで世の中の常識・思い込みにチャレンジしてみました、という逸話を本書からいくつかピックアップしてみよう。

選挙も近い時節柄、「国家公務員人件費2割削減」といったありがちなキャッチコピーも耳にするようになった。しかし日本は役人天国とよく言われるが、はたして本当だろうか。答えはこの棒グラフにあり。ILOが収集した途上国を含む各国の産業別就業者数の中の行政分野の人数、ならびにOECDが加盟国から集めたSNAベース(GDP統計ベース)の公務員数データを見ると、日本は先進国の中で公務員数の少ない国であることが分かる。公務員給与水準についてのデータにあたれば、日本は一時近似直線より下方にプロットされている。日本の公務員は「少数精鋭」でありながら、給与水準も世界と比べて高いわけでもなさそうだ。

学級崩壊も盛んにマスコミでは取り上げられているが、統計上、学級秩序が世界でもっとも保たれているのは日本の学校。レバ刺し事件であれほど世の中を騒がせた食中毒にしても、長期的推移で見れば、高度経済成長期に衛生環境は大きく改善している。近年は死者数も10人未満の年が続き、2009~2010年には食中毒死亡者はゼロという快挙がむしろニュースで取り上げられていないのは、非レバ刺しファンの私から見ても不公平に思える。

年末年始の帰省予定も気になり出す年の瀬だからというわけでもないが、お国自慢の地域ランキングも見ていて楽しい。都道府県の経済規模ランキングに目をやれば、東京・大阪・愛知・神奈川・埼玉の県内総生産は韓国・台湾・ギリシャ・ベネズエラ・アイルランドといった各国のGDPに匹敵している。海外で華やかな年越しとはいかずとも、元埼玉県民の私もアイリッシュな気分で新年を迎えられそうだ。

移住先人気ナンバーワンの都道府県は北海道、かたや移住希望倍率ナンバーワンは沖縄で、沖縄の人口の3倍以上の国民が沖縄に移住したいと感じている。

飲み屋代トップは酒豪王国の高知市というのは何となく想像に難くないが、喫茶店代トップが岐阜市というのは私にとって新事実。ここまで喫茶店が市民生活に浸透した背景には繊維産業が関係しているらしく、「かつて織物業、染色業といった業者は家族労働のような形態が多かったため、作業場は狭く、機械の騒音も大きかったことから、商談や情報交換の場として喫茶店がよく利用された。次第に喫茶店の敷居は低くなり、PTAや趣味のサークル活動の場、高齢者の交流の場として使われるよう」になり、「”岐阜人”の多くは、自宅と職場の近くに最低二つ、お気に入りの喫茶店がある」のだそうだ。

昼日中、あまりおおっぴらにできない風俗関係のデータも要チェックだ。異性関係の国際比較では、日本の男性の交際経験なしの比率がいずれの年齢層においても際立って高く、日本男児の甲斐性の弱さを裏付ける結果になってしまったのは残念。他方、避妊法について、日本は主要国の中でコンドームによる避妊が高いのが特徴的。健康ブームで和食が世界の注目を集めたように、コンドーム中心の日本方式を世界に広めるなど、世界貢献の次の一手として検討の余地があるかもしれない。

異性のセクシーさを感じるところにもお国柄が表れており、アジア諸国は「胸派」、東欧・中欧・南欧の「お尻派」、西欧・北欧の「まなざし派」と好みは分かれる。言いえて妙かどうか、私のコメントはさておき、このあたりの判断は皆さんに委ねさせていただきたいところだ。

この他、東京の大卒が多い女子アナ・関西が多いキャビンアテンダントなどの異色東西対決や、日本・中国・韓国・ロシアの人口ピラミッド比較による歴史考察や経済予測、地震や津波といった天災の規模比較など、硬軟織り交ぜた充実のコンテンツが目白押し。世界と社会の状況をパノラマのように楽しく俯瞰できる一冊としておススメだ。

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本シリーズの第一弾は「相関図」。たばこを値上げすると喫煙者は減るか、豊かさとやせすぎ女性の割合など、社会データの裏に潜む現実を探る。

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