【連載】『第五の権力 Googleには見えている未来』第3回 誰かとつながることで、アイデンティティも変わる?仮想世界の自分が現実の自分より優先される未来

2014年3月26日 印刷向け表示
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グーグル会長・エリック・シュミット氏初の著書として全米ベストセラーとなった書籍『第五の権力―Googleには見えている未来』。第3回のテーマは、デジタル新時代に起こる「パワーシフト」について。

第五の権力---Googleには見えている未来

作者:エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2014-02-21
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国家から個人へ権力の分散

国際社会に目を向ければ、情報通信技術の普及が及ぼす最も重大な変化は、国家や機関に集中していた権力が分散して、個人の手に渡ることである。

歴史を振り返ると、これまで新しい情報技術が開発されるたび、国王であれ、教会やエリート層であれ、従来の権力者が力を奪われ、人々が力を手に入れた。そして情報や新しい通信方法を利用できるようになった人々は、それまでにない方法で社会と関わり、責任を追及し、より主体的に生きる機会を得たのである。

現在見られるコネクティビティの広がり、なかでもインターネット対応携帯電話を通じた広がりは、このようなパワーシフトの最も典型的な例であり、また規模の大きさだけからいっても、おそらく最も奥深い例である。

人々がデジタル技術を通じて、第五の権力を得る。

第五の権力は安全or危険?

情報化による権力拡大によって、世界中の多くの人たちが、生まれて初めて権力というものを手にするのだ。

自分の考えを伝えるすべをもたなかった人たちも、これからは意見が吸い上げられ、考慮され、ときには一目置かれることもある。そのすべてが、ポケットに入っている安価な端末のおかげで可能になる。

独裁政権は、新たにつながることで第五の権力を手にした国民を統制、抑圧、感化しにくくなり、民主国家は今よりずっと多くの個人、組織、企業の声をくみとった運営を迫られる。

政府は当然、コネクティビティの向上を逆手にとって、都合よく事を運ぶ方法を見つけるだろう。しかしこれから説明するように、現在の情報通信技術は、市民の側を断然有利にするようなしくみになっているのだ。

では個人に権力が移行する結果、世界は今より安全になるのか、それとも危険になるのか。

それは、実際になってみないとわからない。

私たちは、「つながった世界」の現実に、よい面も悪い面も含め、ようやく向き合い始めたばかりなのだ。

つながった世界で国家はどう変わるのか

私たち(著者)2人は、それぞれ違う立場から(シュミットはコンピュータ科学者と企業経営者として、コーエンは外交政策と国家安全保障の専門家として)、この問題に答えを出そうとした。

答えがあらかじめ決まっているわけではないことは、もちろん承知している。国家、市民、企業、組織が、新たな責任をどのように果たしていくかによって、未来もまた変わっていくのだから。

過去には国家の野望について、国際関係論の研究者が白熱した議論を戦わせたこともある。

「国家はいつの時代も権力と安全保障を最大に高めることを主眼とした内外政策を維持する」という見方もあれば、「貿易や情報のやりとりといった要因が加わるにつれて、国家の行動も変わっていく」という見解もあった。

だが、いずれにしても国家の野望それ自体は今後も変わらない。

変わるのは、その野望をどのように実現するかという考え方だ。
 

未来の政府の2つの政策

未来の政府は、内外政策を「2種類ずつ」実行することになる。

1つは物理的な「現実」世界向け、もう1つはオンラインに存在する、「仮想」世界向けの政策だ。

これらの政策はときに矛盾し合うように思えるだろう。

サイバー空間で戦争を仕掛ける一方、現実世界では平和を維持するといったように、一方の世界を厳しく弾圧しながら、もう一方の世界では特定の行動に目をつぶる。だがそれは、コネクティビティによって自らの権威を問われ、脅かされる政府が、何とか対処しようと試行錯誤を重ねるからにほかならない。
 

永遠に刻まれる私たちのアイデンティティ

オンラインでつながった市民は、現実世界と仮想世界でいくつものアイデンティティを手に入れることになる。

仮想アイデンティティは、いろいろな意味で、ほかのすべてのアイデンティティよりも優先されるだろう。仮想アイデンティティが残す痕跡は、オンラインに永遠に刻まれるからだ。
 

SNSの「友だち」もあなた自身のアイデンティティ

SNS(ソーシャルネットワーク)の「友だち」機能を見ればわかるとおり、これからの時代、私たちのアイデンティティは、誰かのアイデンティティに影響を与える。

私たちの投稿や電子メール、テキストメッセージ、私たちがオンラインで共有するほかのすべてのものが、誰かのオンラインアイデンティティに影響を及ぼすようになる。そうなると、新しい形の「集団的責任」を規定する必要が生じるだろう。

コネクティビティが地球規模で広がることで、組織や企業には、新しい機会や挑戦が増える。

それだけでなく、市民への説明責任を十分に果たすために、既存事業を見直し、将来の計画を修正し、ものごとのやり方や、プレゼンテーションの方法を変更せざるを得なくなる。また技術の輪が広がり、情報や機会面でのハードルが下がるため、新しい競争相手が続々と現れる。

将来は、権力の大きさや権力のあるなしに関係なく、誰もがこうした歴史的変化に否応なく巻き込まれるだろう。
 

誰もがつながる世界で、戦争や外交、革命はどう変わるのか?
第4回はこちらから

 

エリック・シュミット(Eric Schmidt)
Google会長。1955年生まれ。2001年から2011年までGoogleの最高経営責任者(CEO)を務め、創設者のサーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジとともにGoogleの技術や経営戦略を統括してきた。Google入社以前は、ノベルの会長兼CEOやサン・マイクロシステムズの最高技術責任者(CTO)を務めていた。それ以前は、ゼロックス Palo Alto Research Center(PARC)で研究員を務め、Bell Laboratoriesやザイログに勤務していた。プリンストン大学で電気工学学士号、カリフォルニア大学バークレー校でコンピュータ サイエンスの修士号と博士号を取得している。2006年には、全米工学アカデミーの会員に選出され、2007年には、アメリカ芸術科学アカデミーのフェローに就任。新アメリカ財団の理事会会長のほか、2008年からはプリンストン高等研究所の理事も務めている。

ジャレッド・コーエン(Jared Cohen)
GoogleのシンクタンクGoogle Ideas創設者兼ディレクター。1981年生まれ。史上最年少の24歳で米国国務省の政策企画部スタッフに採用され、2006年から2010年までコンドリーザ・ライス、ヒラリー・クリントン両国務長官の政策アドバイザーを務めていた。現在はCouncil on Foreign Relations(米国外交問題評議会)の非常勤シニア・フェローを務め、National Counterterrorism Center(国家テロ対策センター)所長諮問委員会のメンバーでもある。著書は、『Children of Jihad』『One Hundred Days of Silence』など(いずれも未邦訳)。2013年には、雑誌TIMEによって「世界で最も影響力がある100人」に選ばれた。

【訳者略歴】
櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
幼少期よりヨーロッパやオーストラリアなど、10年以上を海外で過ごす。雙葉学園、京都大学経済学部経済学科卒。大手都市銀行在籍中にオックスフォード大学で経営・哲学修士号を取得。東京在住、一女一男の母。
訳書は、『選択の科学』(文藝春秋)、『イノベーション・オブ・ライフ』(翔泳社)、『100年予測』『エッセンシャル版マイケル・ポーターの競争戦略』(早川書房)、『劣化国家』(東洋経済新報社)など多数。

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