『ドイツ・アメリカ連合作戦』協力といがみ合い

2015年1月8日 印刷向け表示
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 もし、あなたがタイムマシーンに乗って時間を旅する旅行者ならば、第二次世界終結目前の1945年5月5日、オーストリアのチロル地方にあるイッター城で奇妙な戦闘を目にすることが出来るだろう。この日、この時、こじんまりした城に籠る小さな混成部隊は、まるでフィクションの中の出来事にしか思えないメンバーで構成されていた。この城を陥落させるため、激しい攻撃を仕掛ける武装親衛隊と戦っていたのはアメリカ軍兵士とドイツ国防軍兵士、武装親衛隊将校、オーストリア人レジスタンス、そして本来は救出されるべき対象者であったフランス政府の要人たちだ。

ヒトラーは占領した国々の要人を連合国と交渉する際のカードとして使えるのではないかと考え、逮捕し名誉囚人として拘禁していた。本書はその名誉囚人を救出するために行われた「奇跡」の作戦、イッター城の戦いを描いたノンフィクションだ。なぜ奇跡なのか。それはつい昨日まで敵同士であったアメリカ兵とドイツ兵がひとつの目標のために信頼しあい、共に手を携えて狂信的な武装親衛隊と戦った戦記なのだ。

オーストリアのチロル地方にある古城イッター城はその地理的要因からナチにより、名誉囚人専用の捕虜収容所にされていた。この城を捕虜収容所に改良させたのは、親衛隊全国指導者ハインリヒ・ヒムラーであったという。この城はアンシュルス以後、「タバコの害悪と戦う同盟」というヒトラーが支持していた団体の本部であった。

ヒムラーがヒトラーを説得し、捕虜収容所として親衛隊に収用させたという。本筋から外れた小さなエピソードだが、まるで聖職者のように禁酒、禁煙、菜食主義に凝っていた、この独裁者の不思議な人間性が少し垣間見えて面白い。

イッター城で不遇の名誉囚人となっていたフランスの囚人は11人。その顔ぶれたるやそうそうたるメンバーである。では幾人かの囚人たちを見てみよう。モーリス・ガムラン将軍は第二次世界大戦当初、フランス陸軍の総司令官を務めた男だが、無様な対応に終始し、フランス首相ポール・レノーによって解任させられた経歴を持つ。

なんと皮肉なことにガムランを解任したレノーもイッターの囚人として収監されている。さらに、軍人としてガムランのライバルであり、個人的にも敵対していたマキシム・ヴェガン将軍もイッター城に収監されていた。彼はガムランが解任された後に、その後任を務めている。ヴェガンはドイツとの早期講和を主張し、ペタン率いる対独協力政府の国防相に就任していた人物だ。当然、売国奴として他の囚人からは嫌われることになる。さらに、レノー元首相の前任者で彼の不倶戴天の政敵である、元首相のエドゥアール・ダランディエも収監されていた。

他にも左翼の大物運動家、フランスの労働運動指導者レオン・ジュオーとそのパートナー、オーギュスタ・ブルシュレンといった人材。また、右派のフランソワ・ド・ラロックは対独協力政府の重鎮であり、フランスの大物ファシストで「火の十字団」の指導者でもあった。実はラロックはイギリス情報部に重要な情報を提供していた、連合側のスパイでもあったという。そして同じく「火の十字団」のメンバーで、フランスを代表する名テニスプレーヤーでもあったジャン・ボロトラなどだ。

本書で実に多くの紙数を使って彼らのエピソードが綴られている。というのも、この海千山千の男たちは囚われの身になった後も、同じフランス人とし協力し、難局を切り抜けようとすることなく、収容所内で党派を組み戦前の敵対関係を再現していたのである。その姿はどこか滑稽であり、人間の性を見事なまでに浮き彫りにしている。現代にシェイクスピアが生きていたならば、彼らを題材に一つの戯曲でも作ったのではないかと想像してしまうほどだ。

戦争の敗因には様々な要素が関係しているとはいえ、国内の指導者がイデオロギーや己の利己心を優先し、協力しあえなかったことが、フランンス敗北の原因のひとつであることは、間違いないであろう。このあたりのいきさつは当時、フランスが敗れる現場に将校としていあわせた作家のアンドレ・モーロワの著作『スランス敗れたり』でも述べられている。

つい、フランス要人たちの話が長くなってしまった。この救出作戦の最大のキーを握る人物はドイツ国防軍の砲兵将校のヨーゼフ・ガングル少佐とアメリカ軍の戦車部隊の将校ジョン・ケアリー・リー・ジュニア大尉。そして親衛隊将校のクルト=ジークフリート・シュレーダー大尉だ。

食うために軍人になり、その才能を開花させ、上官から「完璧な砲術知識を持つ」「交戦中も落ち着いている」と評価され数々の勲章を授与された、優秀なドイツ国防軍少佐のガングルと、少年の頃から国粋主義にどっぷりとつかり、自ら進んでSSとしての道を突き進んだシュレーダー大尉がいかにして、反ナチ的な行動をとるようになったのか。悲惨な戦争経験が彼らの心に思いもよらない変化を生んだのだろう。一無名兵士がどのような人生を歩み、どういった決断を下したのかも、本書の見どころだろう。

そして、投降を拒み先鋭化する武装親衛隊の支配地域へと、わずかな数の兵を率いて乗り込み、自身が指揮するアメリカ兵よりも数が多いガングル達ドイツ兵を信じ、その指揮を執ることになったリー大尉が果敢に運命を切り開いていった、その姿を是非、本書で追体験して欲しい。

それにしても、ドイツの将校とアメリカの将校がお互いの憎悪や相互不信を乗り越えて協力しあえたというのに、救出されたフランンス政府要人は、戦後に回想録を出版し、その中でこの時の出来事をネタに政敵を攻撃しあっていたという事実に愕然とさせられる。人間の内面世界には、協力しあうという崇高な精神と憎み合うという、どす黒い情念が常にせめぎ合っているのであろう。人間の光と闇、崇高な精神と滑稽な姿を本書を通して改めて見せつけられた。
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