HONZで振り返る2015年 今年のノンフィクションはこれを読め!

2015年12月5日 印刷向け表示
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本に関する記事を毎日のように送り出しながら面白さを感じるのは、ネットのニュース記事などと比べて時間の流れ方の異なる点である。

予期していたかのようにタイムリーに出されたものもあるが、少し時間を経たからこそ全貌の見えてきたもの、社会的な関心事ではないが特定の層にはズバッとささるもの、時代の流れを全く読まなかったから生まれてきたものも、大半を占める。

時宜を得たものと突然変異、過去と未来、つながりと孤独、異なる2つの視点が隣り同士に並ぶ本棚こそが美しい。そこで今年HONZでよく読まれた記事の中から、各月ごとに上位2冊の書籍をピックアップし、2015年を振り返ってみた。

1月:「イスラム国(IS)」とホッケ

2015年は年明けから物々しかった。1月7日にイスラム過激派がフランスの「シャルリー・エブド」を襲撃。1月20日にはついに日本人が「イスラム国(IS)」の人質になる事件も起き、日本中を震撼させた。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

作者:ロレッタ ナポリオーニ 翻訳:村井 章子
出版社:文藝春秋
発売日:2015-01-07
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テロ・ファイナンスを専門とする女性エコノミストが、「イスラム国」の存在に警鐘を鳴らした一冊。2本レビューが出ているが、1つは人質事件が起きる前、そして1つは事件の後に書かれたもの。(内藤順レビュー鰐部祥平レビュー

あんなに大きかったホッケがなぜこんなに小さくなったのか (単行本)

作者:生田 與克
出版社:KADOKAWA/角川学芸出版
発売日:2015-01-23
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しかし世間の喧騒をよそに、1月最も読まれた記事は『あんなに大きかったホッケがなぜこんなに小さくなったのか』であった。男性諸氏の多くが空目したであろうタイトルの一冊を麻木久仁子レビュー
 

2月:暴力はどこから来たのか?

国内でも凄惨な事件が続く。川崎市で中1男子生徒が殺害。なぜ同じ人間が、こんなに残酷なことが出来るのか。暴力を通して人間性を見つめ直す本に注目が集まった。

サイコパス・インサイド―ある神経科学者の脳の謎への旅

作者:ジェームス・ファロン 翻訳:影山任佐
出版社:金剛出版
発売日:2015-01-30
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サイコパスの研究者が、サイコパスであったーーこの衝撃の事実を皮切りに物語は始まる。科学者視点による所見と自分自身のこれまでの体験、二つの視点が交錯する中で際立っていたのは、両者の間に大きな乖離が存在するということであった。内藤順のレビューはこちら 

暴力の人類史 上

作者:スティーブン・ピンカー 翻訳:幾島幸子
出版社:青土社
発売日:2015-01-28
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スティーブン・ピンカーは、大胆にもこう主張する。”長い歳月のあいだに人間の暴力は減少し、今日、私たちは人類が地上に出現して以来、最も平和な時代に暮らしているかもしれない”。 このにわかに信じがたい説を、膨大なデータとともに振り返る。村上浩のレビューはこちら

3月:ピケティもびっくり! 格差の拡大があちこちに。

昨年末に発売された『21世紀の資本』の影響を受けてのことだろうか、格差にまつわる本も百花繚乱。 

美貌格差: 生まれつき不平等の経済学

作者:ダニエル・S. ハマーメッシュ 翻訳:望月 衛
出版社:東洋経済新報社
発売日:2015-02-27
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美貌格差に関するレビューも2本。様々な領域で広がっていく格差の頂点と底辺。新井文月フラットな目線から栗下直也底辺の立場から、それぞれレビューをする。

老人たちの裏社会

作者:新郷 由起
出版社:宝島社
発売日:2015-02-10
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これは格差社会の成れの果てなのか。今や街では万引きをしまくり、激高しては暴力に訴え、勘違いを募らせてはストーカーに転じ、「死ぬまでセックス」とばかりに色欲にハマるシニアたち。そんな老人たちの暴走ぶりを、栗下直也が当事者予備軍としての立場からレビュー
 

4月:パパがヒモでコカイン?

よく読まれた記事の中には、本のタイトルが巧妙であったものも多い。『超ひも理論をパパに習ってみた』など、まさにタイトルをいじってくれと言わんばかりの一冊。あらためて注意しておくが、あの「ヒモ」や、あの「パパ」とはまったくの無関係である。

多くの人にとって理解しにくい「超ひも理論」を驚くほど簡単に説明しようと試みた一冊。成毛眞のレビューはこちら。その後は仲野徹も入れ乱れて、もう大変。

コカイン ゼロゼロゼロ: 世界を支配する凶悪な欲望

作者:ロベルト サヴィアーノ 翻訳:関口 英子
出版社:河出書房新社
発売日:2015-01-24
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イスラム過激派の危険性ばかりが強調されがちな昨今だが、メキシコやイタリアの裏社会も実にヤバイ。鰐部祥平のレビューはこちら 

5月:英国のジャーナリズムと日本のマンガ

イギリスでは、ウィリアム王子に長女が誕生。それとは全く無関係に、HONZ内では英国ジャーナリストの一冊に熱い視線が注がれた。

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

作者:リチャード ロイド パリー 翻訳:濱野 大道
出版社:早川書房
発売日:2015-04-22
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2000年に起きた「ルーシー・ブラックマン事件」の全貌を、15年以上の取材期間をかけて描き出した一冊。内藤順のレビューはこちら著者インタビューこちら

荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)

作者:荒木 飛呂彦
出版社:集英社
発売日:2015-04-17
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イギリスがジャーナリズムを誇るなら、日本にはマンガがある!『ジョジョの奇妙な冒険』でおなじみ荒木飛呂彦が、これまで明かすことの無かった漫画制作の秘密を、作品を題材にしながら披露する。新井文月のレビューはこちら
 

6月:もしも、耳や鼻が削がれたら?

世間的に何が起こっていたのかあまり憶えていないが、ノンフィクションは完全に当たり月。面白そうな本がこれでもかと押し寄せ、もうたまらん。

ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか

作者:ランドール・ マンロー 翻訳:吉田 三知世
出版社:早川書房
発売日:2015-06-24
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突拍子もない質問や、空想的な疑問に元NASAの研究員が全力で答える。全米NO.1マンガ科学サイトの書籍版『ホワット・イフ?(WHAT IF?)』。HONZへ掲載されるやいなやSOLD OUTし、それ以降在庫のある方が珍しいという状況に。「今週のSOLD OUT」コーナーの生みの親。連載はこちら → 第一回第二回 

耳鼻削ぎの日本史 (歴史新書y)

作者:清水 克行
出版社:洋泉社
発売日:2015-06-04
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過去の日本社会において耳鼻削ぎという習俗はどんな場面で行われていたのか。当時の人々がその行為にどんな意味を託していたのか。それを探ることで、日本社会の身体観や刑罰観の来歴をみつめなおそうという一冊。麻木久仁子のレビューはこちら 

7月:性から読む中国史を読むときに、何が起きているのか?

なでしこJAPANがワールドカップで準優勝しても、新国立競技場が建設計画を白紙撤回しても、ピース又吉が芥川賞を受賞しても、ノンフィクション愛好家たちはマイペースであった。

性からよむ中国史: 男女隔離・纏足・同性愛

作者:スーザン マン 翻訳:小浜 正子
出版社:平凡社
発売日:2015-06-26
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帯に「西洋的概念では捉えきれない、性の視点から中国近現代史を見渡す」とあるとおり、西洋の尺度に対してどのくらい進んでいる、遅れている、という見かたをせずに中国での性のありようを描き出す。同時にその考察を通じて、読者が日本での性のとらえかたを独自の視点に近いところから見直すことも助けてくれる一冊。秋元由紀のレビューはこちら

本を読むときに何が起きているのか  ことばとビジュアルの間、目と頭の間

作者:ピーター・メンデルサンド 翻訳:細谷由依子
出版社:フィルムアート社
発売日:2015-06-27
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著者のピーター・メンデルサンドは、アート・ディレクター。本書はその内容自体が「読む」とはどういうことなのかについて思考を広げてくれる逸品だが、卓越しているのはその「内容」だけではない。「内容」だけでなく「見せ方」それ自体が、相乗的に効果を発揮させる。冬木糸一のレビューはこちら

8月:ハードボイルドすぎるヒグマ襲撃事件

暑い夏は、ディープなノンフィクションの記事が好まれる。中世とソマリランド、そして大正時代と北海道。家に居ながらにして、簡単に時空を超えられるのがノンフィクションの嬉しいところ。

世界の辺境とハードボイルド室町時代

作者:高野 秀行、清水 克行
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2015-08-26
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人気ノンフィクション作家・高野 秀行と歴史学者・清水 克行による、異色の対談集である。「世界の辺境」と「昔の日本」は、こんなにも似ていた!という魔球対決のような一冊。連載こちら冬木糸一のレビューはこちら

慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件 (文春文庫)

作者:木村 盛武
出版社:文藝春秋
発売日:2015-04-10
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獣害史上最悪として知られる「北海道三毛別羆事件」。死者8人を出したこの惨劇が起きたのは、大正4(1915)年。時は第一次世界大戦下、この地に入植していた人々を恐怖のどん底にたたき落したのは、体重300キロをゆうに超す巨大な人喰い羆であった。塩田春香のレビューはこちら

9月:人間のような動物と、動物のような人間

安全保障関連法が成立。一方、この月もノンフィクションは当たり月。今年二度目のもうたまらん。

その道のプロに聞く生きものの持ちかた

作者:松橋利光
出版社:大和書房
発売日:2015-08-12
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役に立ちそうにない本こそが、HONZの真骨頂。レビュー公開後には、「ピレネー犬の迷惑そうな表情が最高」と話題に…。塩田春香のレビューはこちら  

ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき

作者:フィリップ・ジンバルドー 翻訳:鬼澤忍
出版社:海と月社
発売日:2015-08-03
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『スタンフォード監獄実験』の責任者フィリップ・ジンバルドーが、その全貌とその後の展開を著した本だ。夏休みに大学生のアルバイトを募り、くじ引きで看守役と囚人役に振り分ける。そして、二週間にわたってスタンフォード大学心理学部の地下に設けられた模擬監獄に閉じ込める。目的は、刑務所における囚人と看守の心理状態の観察。結末はどうなったか? 仲野徹のレビューはこちら
 

10月:共依存と異文化理解

大村智氏がノーベル賞を受賞。3年前にHONZでレビューが出ていたことにより、お祭り騒ぎに。仲野徹のTweetは、まさかの1000近くRT! しかしそれを上回る注目を集めたのが、以下2冊。

「子供を殺してください」という親たち (新潮文庫)

作者:押川 剛
出版社:新潮社
発売日:2015-06-26
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精神を病んだ人を説得し医療につなげる「精神障害者移送サービス」に従事する著者がまとめた本だ。生命の危険を伴う仕事であろうことは想像に難くないが、全体の半分以上をしめる第1章「ドキュメント」では、想像をはるかに上回る壮絶な事例が多数紹介されている。吉村博光のレビューはこちら

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

作者:エリン・メイヤー 翻訳:樋口武志
出版社:英治出版
発売日:2015-08-22
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私たちの思考様式や行動パターンは、想像する以上に生まれ育った文化によって規定されている。違う文化的背景を持っている人と接するときに、そういった文化的背景がもたらす思考や行動の差異に対して敏感でなければ、相手の意図を読み違え、ひいては思わぬ対立に巻き込まれてしまう。それがビジネスの場においても、多大なる誤解と非効率を生み続けているのだ。佐藤 瑛人のレビューはこちら
 

11月:冒険後の休眠期間中に、凄いことが起きていた 

パリで同時テロが起き、2015年の年明けを彷彿とさせる状況に。一方ノンフィクションでは、満を持して今年最高のノンフィクションが登場。

眠っているとき、脳では凄いことが起きている: 眠りと夢と記憶の秘密

作者:ペネロペ・ルイス 翻訳:西田美緒子
出版社:インターシフト
発売日:2015-11-20
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そもそも動物はなぜ眠るのか? 眠らないといったいどんな恐ろしいことが起こるのか? 記憶と睡眠の関係、なぜ夢を見るのかなどなど、睡眠時に起こっている具体的な脳の作用からその驚きの機能が明らかになっていく。HONZの掲載はこちら → 冬木糸一レビュー編集部解説

冒険歌手 珍・世界最悪の旅

作者:峠 恵子
出版社:山と渓谷社
発売日:2015-09-18
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2015年のHONZが全力でレコメンドする『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』。復刊までに長い休眠期間があったのだが、その間の峠恵子さん自身にも、凄いことが起きていた。

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個人的にはサイコパス本の中で『暴力の解剖学』という佳作も出ており、このジャンルが熱かった印象を受ける。社会と科学が交錯するポイントには、来年以降もまだまだ期待が出来そうだ。

また『耳鼻削ぎの日本史』で注目を集めた清水 克行さんが、8月に高野 秀行さんとの対談本『世界の辺境とハードボイルド室町時代』を出し、さらにその高野さんが「奇書中の奇書」と謳う『冒険歌手』へと、一本の線でつながっていったのも運命というものだろうか。

ここで紹介したものは、今すぐに読む必要を感じない本も多いかもしれない。しかし、だからこそノンフィクションは一期一会なのだ。皆さん是非、今年のノンフィクションは今年のうちに!

HONZ編集長・内藤 順

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!