『宇宙からいかにヒトは生まれたか 偶然と必然の138億年史』

2016年4月27日 印刷向け表示
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宇宙からいかにヒトは生まれたか: 偶然と必然の138億年史 (新潮選書)

作者:更科 功
出版社:新潮社
発売日:2016-02-26
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なぜヒトは宇宙論や生物学に惹かれるのか。それは僕たちの身体が星の欠片からできており、ヒトが細菌のような生物から進化してきたことを自覚しているからだ。本書の帯には「宇宙・地球・生命を通史で読める初めての1冊」とある。僕は5000年の通史を書いたが(「『全世界史』講義Ⅰ、Ⅱ」)、これは138億年史なのでまるっきり桁が違う。読まずばなるまいと手に取ったが、比喩がとても巧みで桁外れに面白い本だった(何しろ、第一行が「山口百恵というアイドルがいた」から始まるのだ。また、皆さんは、「無人島に落ちていた携帯電話」から何を連想されるだろうか?)。

第1部「宇宙の誕生」。宇宙は3種類しかない。僕たちの住む宇宙は「人間に都合よく調節された宇宙」だ。大部分は「調節されていない、人間のいない宇宙」だろう。「調整されているが人間はいない宇宙」もあるかもしれない。ビッグバンが138億年前に起こり太陽系が46億年前に形成された。

第2部「地球の形成」。地球が45.5億年前、月が45億年前、遅くとも38億年前までに海ができた。海は最初から塩辛かった。地球が美しく見えるのは海と大気があるからだ。そして、地球の特徴は生物があふれていることである。なお、生物は、「境界」、「代謝と恒常性」、「複製」という3つの特徴を持っている。

第3部「細菌の世界」。生物の誕生は40億年前。すべての生物の最終共通祖先、ルカ(Last Universal Common Ancestor)は深海の好熱菌であったらしい。30億年前、磁場が形成されて太陽風(有害な放射線)の進路が曲げられ地球が保護されるようになって、はじめて生物は深海から浅海に進出できるようになった。そして光合成細菌が出現したのである。

第4部「複雑な生物の誕生」。生物は原核生物と真核生物に分けられるが、19億年前、真核生物が誕生して多細胞生物へと向かった。エディアカラ記(6.35億年前)に入ると多細胞生物が大きくなり多様性が増す。これをアバロン爆発と呼ぶが、引き金を引いたのはスノーボールアースを含む氷河時代の終了だった。どうやら、スノーボールアースが酸素濃度を上昇させたらしい。

第5部「生物に満ちた惑星」。5.41億年前から始まるカンブリア紀に進化史上最大のカンブリア爆発が起こる。動物を食べる動物が現れ食う食われるの軍拡競争が生じたことが原因で、骨格が誕生し多様なボディプランが確立され眼が出現した。しかし、まだ生物は陸上に進出できない。紫外線を何とかしなくてはならないからだ。その手段が酸素だったのだ。6億年前に酸素濃度が現在のレベルに達してオゾン層が形成されまず最初に細菌が、次いで植物が上陸、3.59億年前の石炭紀から生物が陸上に広がっていった。石炭紀は、超大陸パンゲアが形成されつつある時代で大陸と大陸がぶつかり合い高い山脈が生まれて雨が降る。

つまり石炭紀は湿潤で大森林の時代だったのだ。石炭紀の昆虫やムカデは大きかった。それは、酸素濃度が高かったからだ(現在は約21%だが、石炭紀は30%以上もあったという)。それは、何故か?植物が生きている間に放出した正味の酸素は、枯れて分解される過程ですべて消費されてしまうが、植物が枯れずに石炭になったので酸素が増えたのだ。

ペルム紀(2.99億年前)と三畳紀(2.52億年前)の間に「P-T境界絶滅」と呼ばれる史上最大の大量絶滅が起こる。海洋無酸素事変が最大の容疑者だが、一気に生物が絶滅したのではなく800万年ほどの間隔をあけて2回に分けて起きたようである。その後は、恐竜、隕石の衝突、人類の誕生とお馴染みの物語が続く。霊長類はもともと北方獣類だが4000万年前には流木などに乗ってアフリカに流れ着いた。そしてアフリカにそのままとどまった類人猿からヒトが進化したのである。

最終章「地球と生命の将来」。10億年後、太陽が大きくなって水が蒸発し地球の生命の歴史は終わる。地球の生命の歴史は合計50億年、既に40億年が過ぎたのだ。そして今から50億年後には赤色巨星となった太陽に飲み込まれて地球の一生も終わる。磁場やオゾン層など地球の物理的条件が生命に与える影響の甚大さに改めて慄然とした。

「世界に真の勇気はただ1つしかない。世界をあるがままに見ることである。そしてそれを愛することである」ロマン・ロランのこの言葉を愛する著者は最後に次のように述べる。「ヒトが絶滅しても、何事もなかったように地球上では生物が進化していく。太陽系が消滅しても、何事もなかったように、宇宙は存在し続ける。(中略)時間と空間を超越した、眼がくらむような果てしない物語の中で、一瞬だけ輝く生命・・・・・・それが私たちの本当の姿なのだろう。」この偶然と必然が織り成す壮大な物語を読めば、僕たち人類はもっともっと謙虚になれるのではないか。

出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。 

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