『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか』ジャーナリズムのミッションに忠実なジェフ・ジャービス 解説 by 茂木 崇

東洋経済新報社2016年05月31日 印刷向け表示
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コンテンツ対サービス

筆者はかつて、ジャービスにあまり良い印象を持っていなかった。人を食ったところもあり、
うさんくさくもあり、CUNYに移籍した時はこんな人が大学教員になるとはと思ったもの
であった。

だが、接する機会を重ねるにつれ、筆者はジャービスを真面目すぎるジャーナリズム研究者だと考えるようになった。筆者とジャービスとの対話を交えながら、まずジャーナリズムの報道面、ついで経営面の順で、ジャービスの思索を吟味してみたい。

ジャーナリズムには様々な側面があるが、ジャービスは本書の第16章で述べている通り、ジャーナリズムを広義ではコミュニティが知識を広げ、整理するのを手助けする仕事とし、狭義では市民の生活に良い影響を与えるために努力することと考えている。そして、デジタルの時代には記事を送り出すだけではジャーナリズムは不十分で、コミュニティの生活に資するサービスを提供する必要があるとする。

ただし、誤解のないように補足しておくと、ジャービスはコンテンツが無意味になったとか、コンテンツのクオリティがどうでもよくなったと考えているのではない。ジャービスは極めて知的な人物で、低レベルの記事を量産するデマンド・メディアからのアドバイザーの依頼を断っている。コンテンツはジャーナリズムの手段の一つとして今後も有効だが、ジャーナリズムのミッションは公共奉仕にあるとジャービスは言いたいのである。

より有効なサービスを提供するためには、読者をマスとしてとらえるのではなく、読者一人一人のニーズをきめ細かく把握する必要がある。ジャービスがグーグルを高く評価するのはこの点にある。

筆者はジャービスに「それほどグーグルが好きなら、グーグル本社の近くに住んでみたいと思うことはないか」と聞いたことがある。ジャービスの答えは「アメリカにおけるメディアの首都はニューヨークであり、同市が起業の中心地として発展してきているのを誇りに思っている。また、シリコンバレーの文化は自己中心的なところがある」というものだった。サービスは不便な状況を改善するために新規ビジネスを立ち上げるというシリコンバレーの発想でもあるが、ジャービスの目にはシリコンバレーは公共性が欠けていると映っている。

客観報道をめぐって

主張が伴ってこそジャーナリズムと考えるジャービスは、アメリカの新聞の客観報道よりも、アメリカよりも事実と意見の区別にこだわらないイギリスの新聞を好む。「小さな男の子の正義のために立ち上がるのがジャーナリストだと信じている」とジャービスは語る。

取材に基づいてファクトを積み上げるのは重要なことだと確認した上で、ジャービスは客観報道はアメリカのメディアにおける神話であるとする。第二次世界大戦後にアメリカの新聞で客観報道が普及したのは、テレビが登場して新聞の数が少なくなる中で、より多くの読者に受け入れられる方法論であったからだという。

ジャービスは「民主主義は騒がしいものだ」との考えに立つ。物事を様々な視点から観察し議論することは有意義であり、彼がBuzzMachineのAbout Me& Disclosuresでここまで自己開示するのも、立ち位置を読者に知ってもらった上で、自らの見解を吟味してほしいからだそうだ。

民主主義と市場経済への信頼

ジャーナリズム研究者は口を開けば「ジャーナリズムの公共性」と唱える。他の分野の研究者からは十年一日でワンパターンだと言われることもある。そう言われても、政府の腐敗を放置しておけるのかと言えば放ってはおけず、ジャーナリズム研究者はジャーナリズムの公共性の重要性を愚直に訴えていくのが重要だと筆者は考えている。

とはいえ、硬派な報道を志すジャーナリストは少なく、硬派な報道に対して関心を示す読者も少ない現実を鑑みると、ジャーナリズムの研究をしていてもむなしいと思うことも少なくない。

だが、ジャービスの議論は極めてポジティブである。今という時はジャーナリズムにとって好機だととらえ、読者に対する信頼は厚く、読者とジャーナリストとの共同作業に大いに可能性を見出している。

筆者はジャービスに「あなたの議論はニューヨークのインテリには受けるかもしれないが、日本では中川淳一郎著『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)という本が人気を呼んだこともある」と話を振ったことがある。

ジャービスは書名に一瞬笑みをうかべたものの、すぐにシリアスな表情になり、「もし、同僚の市民を信頼し尊敬していないのなら、民主主義と市場経済を信頼していないことになる。市民の上に立つとか、自分は市民より優れていると考えるのは、あまりにエゴイスティックだ」と力説する。こうした考えから、ジャービスは一方的に講演するのを好まず、参加者と対話しようとする。また、司会を務めるとなると、自らマイクをもって会場を所狭しと動き回り、質問者のもとに馳せ参じる。

筆者はジャービスほどには理想主義に徹することはできないのであるが、このぶれない理想主義こそがジャービスの多彩な活動の原動力になっている。

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