『天才を殺す凡人』会社を舞台装置にした物語論としての面白さ

内藤 順2019年02月23日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ
作者:北野 唯我
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2019-01-17
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

天才について書かれた本を読むことにはもどかしさが伴う。天才とは何かがわかるという理解と引き換えに、自分が天才ではないという事実も受け入れなければならないからだ。

しかし本書はセンセーショナルなタイトルとはうらはらに、このセンシティブな部分のさばき方が非常にうまい。

この世界は天才と秀才と凡人で出来ているという語り口から始まるのだが、その3つの「人格」を、「創造性」「再現性」「共感性」という才能に置換し、最終的には誰の中にも潜む1つの成分として着地させていくのだ。

著者は、「凡人が、天才を殺すことがある理由。」のブログ記事を昨年2月に公開。その深い洞察で、公開後に大きな話題を呼んだ。本書はその論考をさらに深め、誰もが才能を活かせる状態を作るためには何が必要であるかを、ストーリー形式で解説した一冊である。

天才は創造性を、秀才は再現性を、凡人は共感性を武器にする。そして、この3者間に、感情のジャンケン構造のようなものがあるということが、厄介な点なのだ。

天才・秀才・凡人の関係(画像提供:北野唯我)

天才は秀才に対して「興味がない」が、凡人に対しては意外にも「理解してほしい」と思っている。反対に、凡人から天才への気持ちは冷たいもので、「理解できないから排斥しよう」とし、秀才を「天才だと思い込む」。さらに秀才は、天才に「妬みと憧れの相反する感情」を抱き、凡人を「心の中で見下す」。

この構造において、3者間にコミュニケーションの断絶が起きてしまった時、全員に悲劇が訪れる。

むろん、このような惨劇を防ぐための処方箋も用意されている。カギを握るのは、それぞれの才能を掛け合わせた仲介者の役割を果たす人間だ。良い組織には、お互いの才能を支え合うために裏で暗躍する人物が必ず存在するのだという。

このような関係性の妙を部分的に目の当たりにすることは多いが、理論に裏打ちされた状態で理解すると、人間関係の力学にもメカニズムや法則性が存在することを否定できない気持ちになるだろう。周囲の組み合わせを少し変えるだけでも、世界を大きく前進させるような出来事は容易に起こりうるのだ。

かつて神話学者のジョーゼフ・キャンベルは、「世界中の神話はたった1つの構造からなる」ことを導き出したが、本書の分析もそのような物語論のアプローチに近い印象を受けた。

会社における人間模様も最小単位の機能「才能」に分解していけば、組み合わせによって成功譚にも失敗譚にもなりうるが、その人間模様すら広い意味では「たった1つの構造」に属するのだろう。つまるところ、本書は会社を舞台装置とした物語論なのだ。

そう捉えれば、本書がストーリー形式によって表現されていることも注目に値するだろう。ストーリーを通じて物語論が展開されているので、内容と形式の双方から訴えてくるものがある。

ただし、通常の物語論と違うのは、読む側にとっての面白さを追求したものではなく、演じる側にとっての面白さを追求したものであるということだ。もちろん、演じるのは私でありあなたである。

※『週刊東洋経済』 2019年2月23日号

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
作者:ジョーゼフ・キャンベル 翻訳:倉田真木
出版社:早川書房
発売日:2015-12-18
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub
千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
作者:ジョーゼフ・キャンベル 翻訳:倉田真木
出版社:早川書房
発売日:2015-12-18
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub
神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
作者:ジョーゼフ キャンベル 翻訳:飛田 茂雄
出版社:早川書房
発売日:2010-06-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub
記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

稲葉 景2019.2.26 18:14

僕は完全に凡人でした 笑 ただ本書によると、天才と秀才と凡人には優劣は無く、それぞれに得意な面、苦手な面があり、そのことを理解して生きることでより汎用性ある人生を送っていけると感じました。 天才や秀才に憧れていた頃もありましたが、自分の強みを生かして前進したくなる内容でした。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon Kindle

『ノンフィクションはこれを読め! 2014』電子版にて発売中!

HONZ会員登録はこちら