『京料理人、四百四十年の手間「山ばな 平八茶屋」の仕事』料理とは手間の文化、修業とは手間を学ぶこと。

2019年3月6日 印刷向け表示
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京料理人,四百四十年の手間: 「山ばな 平八茶屋」の仕事

作者:園部 平八
出版社:岩波書店
発売日:2019-01-26
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四条河原町から京都バスに延々と乗って20番目の停留所。そこが平八前になる。若狭街道、通称、鯖街道は交通量が多く、バスから降りたらすぐに道のわきに寄らないと危ない。

2016年の晩秋に伺ったとき。

「平八茶屋」の暖簾がはためく大きな家があるのだけど、最初は入り口に戸惑う。向かって左側の鬱蒼とした木の下を通ると、そこから広く「山ばな平八茶屋」のお庭が見通せる。お部屋に通されると、外には高野川が流れている。時間の流れがゆるやかで、時代が違っているような気がする。

ゆったりとしたお部屋に通されます。

著者の園部平八は20代目の当主である。創業は天正4年(1576年)というから440年の歴史を誇る京都の老舗料亭「山ばな平八茶屋」。天正4年は琵琶湖の畔に織田信長が安土城を築城し始めた年だという。安土城によって京都の治安が格段によくなり、平八茶屋の先祖はここに茶屋を開業したのではないかと、当代は推測する。京に入るための七口のひとつ、大原口から一里の場所にある。

山ばな平八茶屋を贔屓にした文化人は多い。頼山陽、岩倉具視、夏目漱石、徳富蘆花、北大路魯山人。彼らとの食を通じた交流も、なるほど京都ならではのものだと感心する。

名物料理は「麦飯とろろ汁」。代々引き継いできた創業以来の伝承料理である。当代になってから考案されたぐじ料理の「若狭懐石」もおいしい。冬場のぼたん鍋も絶品である。山ばな平八茶屋の当主は必ず料理場で腕を振るう。

「暖簾は守るのではない。革新しながら継承していかなければ続かない」と冒頭で当代は強く言う。「時代に迎合しないで時代に必要とされる料理」。京都で代々商いを続けてきた方なら、誰もがそう考えているだろうと語る。

本書は20代目である当代の料理人50年の歴史と、老舗料亭の経営理念、そして京料理を含めた京都の文化にたいする確固たる哲学を記している。

春と秋、京都に通うようになって10年ほどになる。最近では混雑している観光地を避けて、もっぱら周辺を歩き回ることが多くなった。

最初に教えてもらったのは『大阪名物』を著した井上理津子さんからだった。関西の食をたくさん取材されていた井上さんから「ちょっと遠いけど外せない」と強く薦めてもらい感激し、3度訪れている。

一度目は桜の終わり、山桜が葉桜になるころだった。二度目は秋。木々から紅葉が高野川に散っていた。祭りのお囃子が聞こえていた気がする。三度目は初冬でぼたん鍋をいただいた。

このとき頂いたぼたん鍋。美しい。

いつかは一泊したいものだと思いつつ、いまだ果たせないでいる。次回は由来など、もっと詳しく教えていただくことにしよう。

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