『ソッカの美術解剖学ノート』全クリエイターにおすすめ

新井 文月2019年03月07日 印刷向け表示
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ソッカの美術解剖学ノート
作者:ソク ジョンヒョン 翻訳:チャン ジニ
出版社:オーム社
発売日:2018-11-29
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韓国では著名なイラストレーターである著者が、31歳から40歳まで9年をかけて完成させたのが本書『ソッカの美術解剖学ノート』である。

骨や筋肉や内臓など、人体構造について「なぜ今の形になったのか」に言及されているのがポイントであり、その知識をふまえイラストで絵の描き方を伝えている。本書では人体の仕組みを知れるのと同時に、各部位がどう動きその形状になったのかが楽しく理解できる。

この楽しさというのが重要であり、「イラストの図解が付いた、とんでもなく面白い人体本」と言ったほうがイメージとして伝わりやすいかもしれない。

一般的には、人体やイラストの本といえば「このように描きましょう」と、一方的に描き方を説明するものだ。一方で本書は、目を描く際は「西洋人のまぶたは薄く、瞳孔がよく見える構造となっています。対照的に東洋人はまぶたが厚く、瞳孔がよく見えないため何を考えているのか難しくなり、神秘的なイメージを持ちます」といった解説がつく。こういった豆知識が随所にあるため、どのページから読んでも飽きることはない。

また人気イラストレーターだけあって、絵のクオリティは高い。図にはデフォルメされた著者と著者の家族(奥さん&幼い息子)が解説役として登場する。手や足など各部位の解説は、医学的な解剖学の参考書と比較しても遜色ない内容だ。にもかかわらず、ところどころにイラストにユーモアを交え、たまに色気もあるカットのおかげで、全ページ興味深く読み進めることができる。

本書は全編カラーで650ページを超える大作だが、どのページでも隙のない絵と解説で構成されている。骨盤ひとつのキーワードにせよ、座る際での足の機能と連動し構造的になぜこのような形状になるのか順を追って伝えてくれる。そのうえ1ページあたりの情報量も多く、結果としてページを眺めるだけでも人体の素晴らしさに気づくだろう。

漫画家やイラストレーターなど絵を描いている方全員にとってもオススメの内容だが、人体の構造、また解剖学に興味があり、作用について深く知りたいというアニメーターやフィギュアの原型師にも推薦できる。もし医学部の学生なら全身の筋肉の名称を覚える必要があるだろうが、どうせなら丸暗記しないといけないような難しい参考書を手にとるくらいなら、面白く知識が得れる本書を入門書にするのもいいだろう。

たとえば手を描くとき、私達は5本の指すべてを伸ばしたパー手を想像する。しかし、手の本来の構造は力を抜けば指が順番に折れていき、最後は自然と卵1つくらいの空間ができるはずだ。こういった基本を理解すれば、自然に立つ人物の手には「たまごをもった手」が一番自然でぴったりくると判断できる。

カワイイ/萌え系イラストの域を脱却し、生身の表現にシフトしたいイラストレーターにとっては、理解して得た知識をもとに描けば画力は確実は上がるだろう。ゆるカワ系の作品でさえも、人体の原理を知り理解しディフォルメすることで、キャラクターの魅力は違って見えてくる。それに可動域や筋肉の動きから、どこまで可動するかの限界も知れる。プロアマ問わずアクションや3Dでの動きを表現したいクリエイターにとっても良本となる。アニメや漫画で、せっかく没頭して世界に入りこんでいるのに、「このキャラクターの人体構造がおかしい」と興ざめしてしまうのは勿体ない。

理系出版社であるオーム社から発売されている点でも学術的な一冊といえる。6700円という定価も高いように思えるが、これ1冊で人体構造の基礎が学べるならコストパフォーマンスは非常に良い。なにより年月と取材を重ねた筆者の、情熱と愛情を強く感じる一冊。

掲載画像:『ソッカの美術解剖学ノート』(オーム社)より転載

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