祝 復刊!!『戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌』

東 えりか2019年05月16日 印刷向け表示
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戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」 (集英社文庫)
作者:斉藤 光政
出版社:集英社
発売日:2019-03-20
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 本書の単行本が出版されたのは2006年の年末のことだ。出版社は、今は無き新人物往来社。当時、本屋をめぐって新刊を探していた時に、棚から私を誘ってきた本だった。

タイトルを見た瞬間に気持ちが鷲づかみにされた。「ツガルソトサングンシ」と読むこの文書の話を私が初めて聞いたのはずいぶん前のことだ。「青森の旧家から見つかった、大和朝廷に対抗した豪族の記録」で、当時から真偽が問われていると聞いていた。「東日流外三郡誌』はその旧家から見つかった膨大な和田家文書の一部であると言われた。

嘘かもしれないと言われても、書かれていた歴史がものすごく面白かった。少し長いが本編より引く。

はるか昔、津軽地方には大陸をルーツとする阿蘇辺族が居住。そこに津保化族と呼ばれる人々が渡来し、土器や竪穴式住居など縄文人独特の生活スタイルをつくり上げた。その後、岩木山の噴火によって阿蘇辺族王国が滅亡し、津保化族王国に統合されることになる。

 

同じころ畿内には邪馬台、筑紫には熊襲、出雲に出雲、関東には日高見の各王国が林立。この中でも邪馬台王国が順調に勢力を伸ばし、最終的にその版図は五畿七道まで及ぶようになった。

 

紀元前7世紀ごろ、日向の高砂族王国のリーダーである佐怒王が東征。十四年に及ぶ激闘の末、邪馬台王国は敗れ去り、王の安日彦と副王の長髄彦が津軽に亡命してきた。二人は先住民の津保化族と合流し、新たに成立した北の王国こそが荒覇吐だった。(中略)
この荒覇吐王国こそが、北のまつろわぬ民=蝦夷と呼ばれることになる。津軽を中心とする東北地方に『古事記』や『日本書紀』に登場しない古代王朝があったのだ。

このあと荒覇吐はなんと倭国を攻め滅ぼすが、内紛が起きて東と西に分裂し、西は日本国と改称して東を蝦夷と呼ぶようになり、侵略するようになる。荒覇吐族の王は安倍氏と名を改め東北に根付く。その後、鎌倉時代を経て、大地震によって滅ぶまでの大叙事詩である。

現在ではほぼ偽書と結論付けられたこの文書の騒動を、地元で綿密に調査していた人間がいた。青森市に本社を持つ東奥日報の記者で本書の著者、斉藤光政である。 政経部から社会部に異動して間もない斉藤は、先輩から「ちょっと特殊で難しそうな民事訴訟」の事件を引き継いだ。これが「外三郡誌」との出会いになる。

訴訟は、縁もゆかりもなさそうな大分県別府市の男性で市井の歴史研究家、野村孝彦から為されていた。外三郡誌を発見した和田喜八郎への写真と論文の盗用疑惑である。和田の著作に自分の撮影した写真が勝手に使われており、それは問い合わせのために和田に送ったものだというのだ。

1975年、五所川原市近くの市浦村の公史に、和田家文書よって明かされた津軽に存在した闇の一族が初めて登場した。大和朝廷に対抗し、やがて消えていった廃史の存在を証明するこの和田家文書は、歴史愛好家や古代のロマン好きから受け入れられ、折からの超古代史ブームの波に乗り、次々と版元を変えて出版されていった。

その中の和田の著書に、以前野村が問い合わせのために送った写真と論文が使われていたのだ。聞き取りの取材のなかで斉藤はこの文書の胡散臭さを嗅ぎ取り、スクープ記事として東奥日報に載せたのが1992年。東奥日報のスクープに朝日、毎日、読売の中央紙が後を追う。真偽論争の幕が上がった瞬間だ。

この後、専門家により文書の筆跡や言語の時代性、文書の記述から出土した品々が鑑定され、ますます偽書説が強くなる中、古代史の泰斗である学者がヒーローのごとく擁護に回る。『邪馬台国はなかった』などの著書で独特な古代史論を展開していた古田武彦である。

真書派は息を吹きかえす。その当時、三内丸山遺跡の発見や東北旧石器文化研究所のゴッドハンド、藤村新一の旧石器発見も相次ぎ、論争はヒートアップしていく。安倍一族ということで、現首相がここでも一枚かんでいたようだ。

町おこしの予算獲得、キリストの墓の存在、埋蔵金発掘、ハリウッドからの映画化打診などなど、次から次へと話題を提供し、真実だと訴える擁護派に、古代史の研究家や古文書解読の専門家、偽史研究家たちから大反論が起こる。間違いなく和田家文書は昭和の知識をもった者によって書かれたという証明だ。結論としては、発見者の和田喜八郎が書いたものだ。

ムー大陸が出てきたり、筆記具が筆ペンだったことが明らかになったり、と進退窮まっても擁護派は引かない。裁判で敗訴が決まっても、様々な理由を付けて主張を変えない人たちが、やがて恐ろしくなってくる。

ペテンは大きければ大きいほどバレないもの、大ホラに限る。専門家から見ればバカバカしいの一言で終わることが、普通の人々にとっては壮大なロマンとして受け入れられる。本書はそんな間で冷静に取材し報道し続けたひとりの記者の貴重な記録である。

出版社の消滅により読めなくなっていた本書が復刊されたことがとてもうれしい。昭和平成と続き、令和になっても偽書はなくならないだろう。為政者に都合がよく、金儲けの手段とならないよう、歴史学者も無視せずに検証することが大事だと思う。

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江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統 (星海社新書)
作者:原田 実
出版社:講談社
発売日:2014-08-26
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 このとき著者と一緒に調査に当たった偽史研究家が、後に発表したのがこの本。いまだに道徳の教科書に載っているときいてびっくりしている。

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