狙うは女と口『ユダヤの商法』

2019年5月15日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ユダヤの商法(新装版)

作者:藤田 田
出版社:ベストセラーズ
発売日:2019-04-13
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

ビジネス書の名著と言われていながら、長らく絶版となっていた藤田田(ふじたでん)の『ユダヤの商法』が、他の著作とともに6冊同時に復刊した。私が書店で働いていたとき、この本を除く5冊はまだ販売されていたのだが、この中で一番評価の高かった『ユダヤの商法』だけは、なぜか絶版になっていて、読むことができなかった。当時、この本を読むには高値で取引されていた古本を買うしかなかったのだ。

本書のことを知ったのは、マクドナルド創業者のレイ・クロックの自伝『成功はごみ箱の中に』の解説で、ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正と、ソフトバンク代表取締役会長兼社長の孫正義がこの本について言及していたからである。同書の巻末にある両者の対談では、下記のようなやり取りがある。

 藤田さんといえば私にはいくつもの思い出があります。私は藤田さんが書いた『ユダヤの商法』(藤田田著)を通して、マクドナルドとレイ・クロックがいかに優れているかを知ったのですから。まだ久留米にいた頃ですから高校生で、アメリカへ留学する前のことでした。『ユダヤの商法』が出た昭和40年代後半、日本の小売店や飲食業はまだ産業とはいえなかった。デパートやスーパーマーケットは「科学的な」経営に移りつつあったけれど、小売店、飲食業は独立した店舗がそれぞれの町にあっただけ。そんな時代にマクドナルドの経営戦略を知って非常に興味を持ちました。

 

柳井 僕もその本は読みました。文章に線を引いて何度も何度も読み返したのを覚えている。『ユダヤの商法』は著者に教養があって、しかもエンターテイナーでないと書けない本です。藤田さんならではの本です。

 

 もうひとつ、その本から知ったのはノウハウが金になるということ。日本の場合、ノウハウは「タダ」と思われがちですが、経営ノウハウは権利であり、お金がもらえる対象だと書いてあった。なるほどと感心したのを覚えている。そして、藤田さんは日本に移植してきたマクドナルドのシステムをすべてレイ・クロックさんから教わったという。原型をつくったレイ・クロックさんはどんな人だろうと想像しました。

日本を代表する両社の社長が大きな影響を受けた本というのだから、これがおもしろくないわけがない。そう思いながら、10年近く読むことがかなわなかった本が、とうとう復刊になると知り、大いに期待して読み始めた。名著と言われているだけあり、金言だらけで一気に読んでしまった。昭和に書かれた本ながら、平成を飛び越え、令和にも通じるであろう商売の本質がこの本には書かれている。50年近く前に書かれた本なので、時代錯誤な表現(いまでは差別とされるような言葉・用語)も出てくるが、それを補って余りある金儲けのノウハウがこの本には詰まっていた。

その一部を紹介しよう。ユダヤ商法の基礎になっている法則に「78:22の法則」がある。「お金を貸したい人」と「お金を借りたい人」、「金持ちが持っている金額」と「一般大衆が持っている金額」など、世界のあらゆるところにこの割合が存在しているそうだ。これは現在ではパレートの法則や80:20の法則などと言われているものと同じだろう。商売をする上でどちらをターゲットにするか?それは考えるまでもないだろう。

次にこの本の中で一番重要だと思われる公理を引用する。

「ユダヤ商法に商品はふたつしかない。それは女と口である」

これは「ユダヤ商法4000年の公理」だという。公理であるから証明も不要とのこと。商法というのは他人の金を巻き上げることであるから、儲けようと思えば、女を攻撃し、女の持っている金を奪えということになる。女を狙えというのはユダヤの金言なのだ。藤田田も日本マクドナルドを創業する前はダイヤモンドやアクセサリーなど女性相手の商売をしていた。

第二の商品となるのは口だ。口に入ったものは、必ず、消化され、排出される。つまり口に入れた商品は刻々と消費され、数時間後には次の商品が必要になってくるものだ。だから口に入れるものを取り扱う商売は必ず儲かるというのだ。ユダヤ人に次ぐ商才を持っている華僑に、この商品を扱う人が多いそうである。

そしてこの「女と口を狙え」というユダヤの商法の定石で始めたのがマクドナルドだというのだから驚きだ。この本が発売された前年の1971(昭和46)年に、日本マクドナルドは銀座に1号店をオープンし大成功を収めた。現在では全国に2890軒の店舗を構えている。マクドナルドを1度も利用したことがないという日本人はほとんどいないのではないだろうか?そう思ってしまうくらいに、現在、マクドナルドは世の中に普及している。

そんな大成功を収めた銀座のユダヤ商人、藤田田の金儲けノウハウがこの本にはたっぷり詰まっている。孫正義はノウハウが金になるということを本書で知ったそうだ。本を買うということは、そのノウハウを買うということにほかならない。しかもそれがたったの1470円(税別)で読めてしまうなんて、こんなに贅沢なことはない。なぜなら私が書店で働いていた当時、この本は古本で2万円前後で取引されていたからだ。お金が欲しいと思う人はぜひこの本を読んでほしい。著者曰く、この本に書かれた定石を100%守れば、あなたはきっと金持ちになれるはずだから。

成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)

作者:レイ・A. クロック 翻訳:野崎 稚恵
出版社:プレジデント社
発売日:2007-01-01
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 藤田田の著作とともに読んでほしいマクドナルド創業者レイ・クロックの自伝。こちらも名著。

勝てば官軍(新装版)

作者:藤田 田
出版社:ベストセラーズ
発売日:2019-04-13
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 今回復刊された本の中でもう一冊読むならこの本。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!