『食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ』躍動感あふれる創造の歴史

峰尾 健一2019年06月19日 印刷向け表示
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食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書)
作者:鈴木 透
出版社:中央公論新社
発売日:2019-04-19
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白人によって作り上げられた「ファストフード帝国」。画一化されていて正直面白みに欠ける反面、汎用性の高さゆえに世界中至るところへ浸透している。恥ずかしながら、本書を読む前に「アメリカの食文化」としてまず思い浮かぶのはこの印象だった。

しかしその原点にまで遡っていくと、まったく異なる景色が見えてくる。元をたどればそこには画一化とはほど遠い多様さがあり、また必ずしも白人たちが主役だったわけでもない。

アメリカを代表するとされる食べ物の中には、実は非西洋にルーツを持っている例が少なくない。ポップコーンは先住インディアン由来の食べ物だし、フライドチキンは黒人奴隷と深い関わりを持っている。

外部からの影響の大きさを抜きにして、アメリカの食文化を語ることはできない。本書はそんな立場から、従来のイメージとは異なるアメリカの食の実像に迫る一冊だ。

植民地時代〜独立革命期まで遡っていくと、アメリカ食文化の形成には白人以外の人々の存在が欠かせなかったことがわかる。そもそも植民地時代初期、この地に降り立った白人たちが独力で食料を手に入れ、食生活を充実させていくことには大変な苦労がつきまとった。先住民や黒人奴隷の力を借りなければ始まらない環境である。

米国北東部に渡った白人たちは、先住インディアンの食文化を積極的に取り入れていた。一方で南部では、先住インディアンから黒人奴隷が教わって入手した現地の食材に、アフリカにいた時から黒人たちが精通していた食材、料理法が組み合わさって生まれた食習慣が受け入られていた。

外側が硬くて生で食べられないトウモロコシは加熱すればよいという、先住インディアンの知恵から生まれたポップコーン。黒人奴隷が、西洋で一般的だった肉の焼き方(至近距離の直火で短時間)とは異なる方法を持ち込んだことで普及したバーベキュー。黒人奴隷が持ち込んだ西アフリカの習慣(鶏料理で客をもてなす)と、スコットランド出身の白人の習慣(鶏肉を揚げる)がミックスされて広まったフライドチキン。

ここでポイントになるのは、こうした混ざり合いが単純な「非西洋と西洋の混合」という次元にとどまらない複雑さを有していた点だ。当時の北アメリカ大陸は、イギリスのみならず、スペインやフランス、さらには英国領内であってもドイツなどの非イギリス的要素が混じるなど、植民地ごとの独立性が高かった。つまりは食習慣も場所によってバラバラだったのだ。

そんな状況から生まれる料理は、単なる混血を超えて「混血地方料理」とでも呼べるものになる。代表例として登場するクレオール料理の場合、フランス領ルイジアナ最大の都市・ニューオーリンズにおける「フランス人×黒人×先住インディアン」の混ざり具合が反映されていた(その田舎風として派生したのが、ジャンバラヤに代表される「ケイジャン料理」)。

率直に言って、だいぶカオスである。植民地時代のこうした「クレオール的創造力」こそが、アメリカ食文化の原点にあると著者は言う。この第1章の途中まで読むだけでも、これまで抱いていた印象が大きく塗り替えられるはずだ。

ここで個人的に興味深かったのが、ただ同じ地域にいるだけでは食文化が「混ざる」とは限らないという点。置かれた環境によって混ざり方の強さが異なるのだ。たとえばペンシルヴァニアを筆頭に、中部の大西洋岸ではドイツからの宗教移民がもたらした食習慣が比較的ストレートに継承された。理由はシンプルで、この地域は小麦が栽培できる環境だったために、ヨーロッパでの食生活を維持することが比較的容易だったのだ。

一方で北東部はイギリス系の割合が最も高い地域だったが、食卓にイギリス料理が上っていたわけではない。 寒冷な気候に合う作物を先住インディアンに学びつつ、現地で採れる資源を代用品としてフル活用することが求められる環境だった。そこで地の利を活かし、海の恵みを利用することで創られた料理の一例のひとつが、ご存じ「クラムチャウダー」である。

南北戦争以降もこうした創造力は衰えない。民族的料理が移民たちを中心に商売として立ち上がっていく、エスニックフードビジネス興隆の時代。その後のファストフード全盛の時代。さらにそのカウンターとして、ヒッピーたちの動きが口火となった、非西洋料理ブームの時代。そして現在へと連なるヴィーガン料理のムーブメント。いつの時代も、必要に迫られた人々があれこれ知恵を絞り、新たな食の可能性を追求してきたことでアメリカ食文化は花開いていった。ファストフードもこのような文脈で考えれば、当時のライフスタイルの変化に対して創り出された回答として見えてくるから面白い。本書はそうした一連の流れを、躍動感にあふれた物語として伝えてくれる。

ところどころに出てくる豆知識的な話も楽しい。ベーグルはユダヤ教のコミュニティによって米国内に広められたが、その裏には「パン生地を一度茹でてから焼く」という特徴がユダヤ教の教義に合致した(茹でるという行為に「水で清める」という意味を見出せた)ことが背景があったそうだ。炭酸飲料はもともと医療用で、初めは薬剤師によって作られたという話も知らなかった。挙げていくとキリがないので、残りはぜひ本書を手にとって味わってほしい。

時代ごとに立役者は変われど、この国の食文化は常に何らかの創造性を宿していた。そんな「食の実験場」としてのアメリカの足跡を、ひとまとまりの大きな流れとして一望できる一冊である。読み終えた後、生まれて初めて「"アメリカ料理"を食べたい」と思った。

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