セミが最期に見ているのは?『生き物の死にざま』

田中 大輔2019年08月29日 印刷向け表示
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生き物の死にざま
作者:稲垣 栄洋
出版社:草思社
発売日:2019-07-11
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  夏の風物詩であるセミファイナル。虫嫌いの私にとっては恐怖でしかない現象のひとつである。セミファイナルといっても一般的に使われるsemifinal「準決勝」の意ではない。ネット上で使われている下記の意味の言葉である。

昆虫であるセミ(蝉)が人生の最期を迎える(セミの死骸など)のを指して「セミファイナル」と呼ぶブラックジョークも見られる。仰向けで転がっていたセミが実はまだ瀕死状態で生きていたというパターンもあり、これに接近すると、けたたましく鳴きながら暴れることがままあり、(主に虫嫌いの人の)心臓にダメージを与えてくるトラップとなっていることもある。この状態のことをセミファイナルと呼ぶこともある。この場合、最後のあがき=ファイナルといったところであろうか。別名「セミ爆弾」とも言う。(pixiv百科事典より)

この状態のときに転がっているセミたちは最期を迎えるときにいったいどこを見ているのだろうか?彼らが見ているのは澄みきった空だろうか。それとも夏の終わりの入道雲だろうか。セミは仰向けの状態でいるのだから、私はてっきり空のほうを見ているのだと思っていた。しかし蝉の目は背についているので、彼らが最期のときに目にするものは、幼虫の間に長い時間を過ごしてきた地面であるそうだ。なんだか少しせつない。

「セミの命は短い」とよく言われているが、その生態は明らかにされていないという。成虫になってからは1週間程度の命と言われているけれど、最近の研究では数週間〜1ヶ月程度生きるのではないかと言われている。

短いと言われるのは成虫になった後の話で、成虫になるまでの期間は土の中で何年も過ごす。一般的にセミの幼虫は土の中で7年過ごすと言われているが、実際のところはよくわかってないのが実情である。土の中を観察するのが難しいことと、生まれた子供が小学生になるくらいの年数を観察し続ける研究というのは容易ではないのが理由だ。

成虫になったセミは子孫を残すためだけの存在である。オスのセミは大きな声で鳴いて、メスを呼び寄せる。オスとメスがパートナーとなり、交尾を終えたメスは産卵をする。これがセミの成虫に与えられた役目の全てだ。繁殖行動を終えたセミには、もはや生きる目的はない。セミの体は繁殖行動を終えると、死を迎えるようにプログラムされているのである。

そして木に捕まる力のなくなったセミが道路に仰向けになって転がっているのだ。この本を読んで、私は少しだけセミに対して情がわくようになった。しかし仰向けに転がっているセミはいまも怖い。玄関の前に転がっているセミよ、頼むから動かないでくれ……。

セミ以外にもこの本には様々な生き物の最期が描かれている。東洋経済オンラインで紹介されていたタコの話や、成虫になってから数時間しか生きられないカゲロウの話はとても抒情的に書かれている。またアカイエカの話はミッションインポッシブルようなアクション風に書かれていて、読んでいると少しワクワクする。映画化したらヒット間違いなし?と思ったけれど、蚊の話なので、みなが感情移入できないので無理か。またヒキガエルのように寿命とは関係なく突然最期を迎えるものもいるのだ。また今回のレビューでは触れないが生き物の生態についても、この本を読んでいて様々な発見があった。

全ての生き物に共通しているのは、みな儚い命を次世代に種を残すことだけに使っているということである。すべては次世代にバトンをつなぐため。そのためには自らの死をいとわない生き物のなんと多いことか……。そういった生き物から学ぶことはたくさんある。また生き物たちの最後の輝きに、その生きざまに胸を打つこと間違いなし。

 本書で老化しない奇妙な生き物として紹介されているハダカデバネズミの本といったらこれ。成毛真のレビューはこちら

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