『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』日本型雇用慣行は、なぜこれほどまでに変わらないのか

堀内 勉2019年09月14日 印刷向け表示
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日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)
作者:小熊 英二
出版社:講談社
発売日:2019-07-17
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いったんでき上がった社会の仕組みは、社会のコンセンサスがなければ決して変わらない。

そして、その前提となるのは透明性と公開性であり、これがない改革は必ずつまずく。

こうした仮説のもと、雇用、教育、社会保障、地域社会、政治、さらには日本人の「生き方」までを規定している「慣習の束」がどのようにでき上がってきたのかを、歴史的事実と豊富な参考文献に基づいて丹念に解き明かしているのが本書である。

とくに今、日本型雇用慣行(女性と外国人に対する閉鎖性、正規と非正規との格差、転職のしにくさ、高度人材獲得の困難さ、長時間労働と生産性の低さ、ワークライフバランスの悪さなど)に対する閉塞感が蔓延しており、働き方改革が叫ばれているにもかかわらず、なかなか社会は変われない。なぜなら、今の雇用慣行は経営の裁量を抑えるルールとして、労働者側が歴史的に達成してきたものだからである。

日本では、職務の明確化や人事の透明化による「職務の平等」を求めなかった代わりに、長期雇用や年功賃金による「社員の平等」を求めた。

そこでは昇進・採用などにおける不透明さは、長期雇用や年功賃金のルールが守られる代償として、いわば「取引」として容認されていたのである。

わかりやすいエピソードとして、スーパーの非正規雇用で働く勤続10年のシングルマザーが、「なぜ昨日入ってきた高校生の女の子と同じ時給なのか?」と相談してきた例があげられている。

これに対しては、以下の3つの回答が考えられる。

回答① 賃金は労働者の生活を支えるものであり、年齢や家庭背景を考慮すべきだから、高校生と同じ賃金なのはおかしい。

回答② 同一労働同一賃金が原則なのだから、高校生と同じ賃金なのが正しい。

回答③ 賃金が高校生と同じなのはやむを得ない。労使関係ではなく、児童手当などの社会保障政策で解決すべき事柄である。

著者自身なら③を選ぶが、戦後日本の多数派が選んだのは①なのだという。

著者によれば、日本の生き方には、大企業システムの中で生きる「大企業型」、自営業や農林水産業など地域に根ざして生きる「地元型」、そのどちらにも足場のない「残余型」の3つの類型があり、その比率はそれぞれ26%、36%、38%と推定される。

しかしながら、今の日本社会は、割合的にはさほど多くない、こうした「大企業型」の日本型雇用が全体の構造を規定しているのだという。

大企業で日本型雇用慣行が広まった時期については、第1次世界大戦後という説、戦時期という説、高度成長期という説が存在するが、いずれにせよ、伝統的な「地元型」の「ムラ」や、近代的な「大企業型」の「カイシャ」といった基本的な帰属集団の単位から滑り落ちてしまった「残余型」が急速に増えているところに、今の日本社会が抱える大きな問題がある。

本書を読んですぐに改革が実現できる訳ではないが、本書の内容を理解せずして改革を実現することはできないという意味で、今の日本社会を考える上で必読の書である。

※週刊東洋経済 2019年9月14日号

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