『武器としての「資本論」』を買ったのは、どういう人たちなのか?

古幡 瑞穂2020年07月06日 印刷向け表示
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武器としての「資本論」
作者:聡, 白井
出版社:東洋経済新報社
発売日:2020-04-10
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ポストコロナ、アフターコロナというタイトルや惹句がつく本が増えてきました。そんな中、コロナ時代を考える本として話題になっているのがこの『武器としての「資本論」』です。コロナ禍がここまでなっていなかった時期に書かれた本ながら、今の世の中を理解するために「資本論」がどう活躍するか、を易しく書いており、経済に詳しくない層にも高く評価されています。

この本の発売日は4月11日頃、緊急事態宣言が出た直後に店頭に並んだことになります。ここまでどんな動きをしてきたのでしょうか。日販オープンネットワークWINのデータをもとに発売からの日別の売上グラフを作成してみました。

発売直後から、大型店舗を中心に閉店が相次ぎました。この本は大学構内の書店でも非常に良く売れているのですが、4月、5月は大学にも人がいない状態が続いています。こういったこともあり、しばらくはジワジワとした売上期間が続きました。目立った動きが出たのが5月23日、朝日新聞の書評欄への掲載です。その後はネットでの露出や広告なども続き大きな売上の波がやってきました。閉店していた店舗の営業再開も大きく影響したと考えられます。

続いて読者層を見てみます。

全体では60代、70代の読者が多く50%程度を占めています。4月時点での購入者を見ると、40代、60代の突出が目立ったのですが、ここにきて50代読者が大きく伸びてきました。

『武器としての「資本論」』購入者が過去1年以内に購入したものトップ10がこちらです。

  銘柄名 著訳者名 出版社
1 『独ソ戦』 大木毅 岩波書店
2 『日本社会のしくみ』 小熊英二 講談社
3 『資本主義の終わりか、人間の終焉か?未来への大分岐』 マルクス・ガブリエル 集英社
4 『ペスト』 アルベ−ル・カミュ 新潮社
5 『サル化する世界』 内田樹 文藝春秋
6 『上級国民/下級国民』 橘玲 小学館
7 『そのうちなんとかなるだろう』 内田樹 マガジンハウス
8 『新実存主義』 マルクス・ガブリエル 岩波書店
9 『生きづらさについて考える』 内田樹 毎日新聞出版
10 『21 Lessons』 ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社

上位10作品のうち、3作品が内田樹、2作品がマルクス・ガブリエルという結果になっています。4月に購入した方に絞り込むと上位5作品が内田樹著作となりました。白井✕内田というコンビで『日本戦後史論』というベストセラーが出ていますが、そういった影響が色濃く出てきています。

ではこの読者の併読本から気になる本をいくつかご紹介しましょう。

避けられた戦争 --一九二〇年代・日本の選択 (ちくま新書)
作者:油井 大三郎
出版社:筑摩書房
発売日:2020-06-09
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1920年代は日本も国際平和を目指し、世界との協調路線をとっていました。その後、30年代に入り突如方針転換され戦争の道へと進みます。この歴史の転換期において、戦争を避けるという判断はあり得なかったのか、というテーマで日米関係を読み解いたのがこちら。

今、「歴史から学ぶ」ということに注目が集まっていますが、歴史の検証の仕方という意味でも注目しておきたい作品です。
 

カール・シュミット-ナチスと例外状況の政治学 (中公新書)
作者:蔭山 宏
出版社:中央公論新社
発売日:2020-06-22
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今回の読者の併読本リストには、多くの思想家の評伝や研究書が並んでいました。没後100年となるマックス・ウェーバー、ミシェル・フーコーなどが多く読まれていましたが、新刊で動きがいいのがこの『カール・シュミット』です。ナチスとの接点があったことにより毀誉褒貶もある政治思想家をどう読み解けばよいのでしょうか。

『ペスト』をはじめ、コロナ禍は大きな古典回帰の流れをうみだしました。哲学や思想、歴史というジャンルの本にじっくり取り組むという読者は確実に増えているようです。

そんな読者の心に刺さっているちょっと変わった1冊が『岩波新書解説総目録 1938-2019』。

岩波新書解説総目録 1938-2019
作者:
出版社:岩波書店
発売日:2020-06-20
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タイトルだけ聞いて、無料配布物かと思ったらしっかり定価がついた出版物でした。岩波新書の新刊は全て購入する。という読者も多くいらっしゃるのですが、3,400点を超えるという岩波新書を網羅した豪華な1冊は、まさに知の案内書といえるものでしょう。
 

現代経済学の直観的方法
作者:長沼 伸一郎
出版社:講談社
発売日:2020-04-09
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ちょっと難しそうに見えますが、こちらも経済が得意でない人にこそオススメ。『物理数学の直感的方法』で話題になり、シリーズファンの多い著者が、直感的に資本主義の本質を掴むという本。テーマとしては『武器としての「資本論」』と被るところも多く、話題度も似ています。ただ、今のところ併読している方が少ないようなので、この機会にぜひぜひ手にとってあわせて読んでみていただきたい!
 

モモ (岩波少年文庫(127))
作者:ミヒャエル・エンデ
出版社:岩波書店
発売日:2005-06-16
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併読本のリストの中に見つけて嬉しかったのがこちらでした。

ミヒャエル・エンデが手がけた40年以上前に発行された本ですが、ファンタジー世界で時間に追われる大人達との戦いは、現代社会に置き換えて読んでみると、非常に深い、大事な気づきが多くあるはずです。

NHK100分de名著の8月の名著として選ばれたことで、注目が集まっています。大人達がこぞって読み、『ペスト』のようなベストセラーになる日も近いかも。

*

コロナ禍中は、本が良く読まれた時期でもありました。一方で、この期間は本が多く書かれた時期でもあったのではないかと思います。こういう時代の転換期に向かい合って、思想家や各界の研究者は何を思い、何を提案してくるのでしょうか。

古典から学ぶ時期を経て、これからは各ジャンルの知性達からの提案に耳を傾け、アフターコロナの世界のあり方についてひとりひとりが考える時なのでしょう。興味深い新刊も続々発売されてきています。店頭でそれらの本と出会ってみてください。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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