『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』私にもあった女性差別の驚き

東 えりか2019年10月16日 印刷向け表示
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 第161回の直木賞候補作は全員女性であった。賞創設84年の歴史で初のことだと話題になったが文学の世界で性差を論じることは陳腐なことだと私は感じていた。

『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』は一般向けフェミニズム評論だ。著者の北村紗衣の専門はシェイクスピアのフェミニスト批評。東京大学で学士、修士を、キングズ・カレッジ・ロンドンで博士号を取得している。

北村は年に百本の映画を映画館で観て、百本くらい舞台も劇場で観る。そのうえ260冊くらい本も読むという。仕事の上とはいえこれだけのものを観たり聞いたり読んだりするのは楽しくなくては続けられない。その楽しむ方法が「批評」であると語る。

「面白かった」だけでなくそこから一歩踏み込むのが批評。それを読んだことで作品や作者に対し、もっと興味を持ってもらうのが批評の仕事。良いことだけでなく、悪いこともきちんと分析して観劇した人や読者に伝える使命がある。本書でもかなり辛辣な批評があり「その部分はそう読めるのか」と気づかされた。

例えばディズニー作品に対する批判は世の中の流行に真っ向から立ち向かっている。

毎年何作か新作が発表され、間違いなく興行収入の上位に入るディズニーアニメだが、人類共有の遺産である民話や古典を再利用しているにもかかわらず、ほかのクリエーターに著作権を自由に使わせたがらない。ディズニーは基本、夢とか魔法のはなしをするだけで、自由には興味がない会社だと喝破する。

私も大いに疑問に思うことがある。2019年夏に大ヒットした『ライオン・キング』だ。これは手塚治虫の『ジャングル大帝』ではないのか。事実ストーリーが似ており、模倣したのではないかと1994年にディズニーがオリジナルアニメ版を発表した時から日米で話題となった。

2013年大ヒットした『アナと雪の女王』は自由を訴える作品に見えるが、実は見かけほど「自由」な話ではない。王子様と結ばれることのないディズニープリンセスの革新的なフェミニズム作品として評価されたが、著者はストーリーの押しつけがましさを感じ取り、詳細に分析していく。

私自身、氷の女王であるエルサに対して漠然とした嫌悪感があったのだが、この批評を読んで自分の感じたのはどの部分だったのか明確になった。

他にも「キモくて金のないおっさん」の小説や、男のロマンとして存在するプリンセス像、映画『ファイト・クラブ』の新たな鑑賞方法など、改めて読み直し、観直しをしたくなってしまう。

謎めいたタイトルはイギリスの古い童謡「男の子って何でできてるの?」の歌詞の中にある「女の子って何でできてるの?お砂糖とスパイスとあらゆる素敵なもので」をもじっている。女の子が素敵なものだけで出来ていないことは、女の子だった人にはよくわかるだろう。フェミニズム的視点から見る文学は爆発的に刺激的だ。(ミステリマガジン11月号より転載)

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