赤裸々な告白から学ぶアホと性悪からの脱出法『ほんのちょっと当事者』は世の中を良くするための処方箋だ!

仲野 徹2019年12月27日 印刷向け表示
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ほんのちょっと当事者
作者:青山ゆみこ
出版社:ミシマ社
発売日:2019-11-23
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青山ゆみこは数多くの本の出版に携わってきた知る人ぞ知るライターだ。著者として出版した第一作、ホスピスでの「リクエスト食」をめぐるエピソードを綴った『人生最後のご馳走』を読めばその人柄がわかる。やさしくて聡明。誰もがそう思うだろう。

わたしが知る青山ゆみこもそうであるし、周りの皆にとってもそのはずだ。確かに今の青山ゆみこはそうである。しかし、どうやら昔の青山ゆみこは違ったようだ。アホで性悪。この本を読むとそうとしか思えない。若さ故の過ちをここまで赤裸々に語らんでもええやろうと、ため息をつきたくなった。

クレジットカード破産しかけた20代前半のエピソードから本は始まる。あまりに無知である。まぁ、クレジット破産をする若者というのは、みんなこういった感じなのかもしれない。が、雪だるま式に増える借金を気にしない。実印が何であるかも知らない。いやあ、とんでもないアホOLやったんや。

小学校時代の思い出がいちばんすごい。聴くこと・話すことに障害のあった同級生の竹原くん(仮名)のことが苦手だった。青山ゆみこが属する班のリーダーはとても爽やかで賢い大木くん(同)。どの班も竹原くんを入れたがらない中、爽やか大木くんは竹原くんを受け入れようと提案する。皆がもごもごと口ごもる中、敢然と「わたしは嫌やわ」と言い放った少女が青山ゆみこだった。あかんやつやろ、それは。

そのうえ、おねしょがなかなか治らなかったらしい。小学校4~5年までは月に1~2回、最後にしたのはセーラー服姿もかわいい女子高生の時だったという。なんでそんなことまで書くのや。どうしても紹介したくなってしまうやないか!と、興奮している場合ではない。

思いっきり強調しておかねばならないのは、今の青山ゆみこにはそんな面影はまったくない、ということだ。それどころか、とってもいい人だ。確かめてはいないが、もうおねしょもしていないはずだ。と書きながら、おねしょの面影ってなんやねんと思ったけど、それはさておく。

社会とはわたしが生きることでつくられている。
わたしたちが「生きる」ということは「何かの当事者となる」
ことなのではないだろうか。

なるほど、良きことであっても悪しきことであっても、誰もが日常的に何らかの当事者である。クレジット破産未遂も、竹原くんのことも、おねしょも、青山ゆみこはど真ん中ストライクの当事者だった。こういった当事者としての経験から(たぶん)反省と努力を重ねに重ね、いまの素晴らしい青山ゆみこになったのだろう。

ちょっと怪しげな整体の名医による猥褻(未遂)行為、持病である遺伝性の高音域難聴、父の介護と母の看取り、トホホな「働き方改革」、父の遺品整理、ツレアイのうつ病など。自分自身におきた、そして誰にでもおこりうる「小文字の困りごと」が次々と綴られていく。

それを小文字のままにしておかないのが青山ゆみこの素晴らしさである。「小文字の困りごと」を元に、福祉や貧困といった大きな社会的問題すなわち「大文字の困りごと」を、自分の問題として捉えていく。そうなのだ。ど真ん中でなくとも、我々は皆、「大文字の困りごと」の「ほんのちょっと当事者」として暮らしているのだ。

「小文字の困りごと」の集合体が「大文字の困りごと」になっているような気もするが、ことはそう単純ではないだろう。「大文字の困りごと」になると、いろいろなことが複雑に絡み合ってしまっている。それが故に、つい抽象的に考えてしまいがちだ。そうではなくて、自分自身の「小文字の困りごと」という小さいけれども身近な穴から覗き、具体的に考えてみるほうがいい。そうすれば腹落ちの度合いがまったく違ってくる。

ちいさな穴からでも、いろいろな方向に視線を向けることができる。青山ゆみこは、その方向探索感覚がバツグンだ。自分自身の「小文字の困りごと」から、さまざまな「大文字の困りごと」を見つけ出す能力が極めて高いのである。難聴や竹原くんのことから障害者問題を、猥褻(未遂)からは性暴力を、といったように。おねしょからでも教育論や児童虐待を考えるのだからたいしたものだ。

青山ゆみこはそこにとどまらない。新聞記事で見かけた事件の裁判を公聴にいったりもする。まったく当事者ではなかったのに、すすんで「ほんのちょっと当事者」になりにいくのである。ネットカフェで出産し、その子を殺害して遺棄した若い女性の事件だった。母親による心理的虐待が根本的な原因ではないかと知り、「ほんのちょっと当事者」としての考えを、思いもしなかった方向へと走らせる。

ど真ん中の当事者としてだけでなく、こういった「ほんのちょっと当事者」的な生き方が、アホで性悪だった青山ゆみこ(←あくまでも推測です)を大きく成長させてきたにちがいない。拍手を送りたいほどに感心した。

わたしは「変わる」ことができるのか

竹原くんとのことを書いた章のタイトルである。考えてみれば、誰だっていくつかの「黒い」思い出があるはずだ。そんなものない、というような輩は信用のおけない嘘つきだと断言できる。そういった経験を反省し、悩み、考えることによって成長する。子どもだけではない。大人だって間違いなく「変わる」ことができる。ほんのちょっとでも当事者であるという気持ちがあれば絶対に大丈夫だ。

その小さなさざ波は、
   時間はかかっても力強い大きなうねりになるかもしれない

これが最大のメッセージだ。エンパシー=共感の重要性の説かれることが多いこの頃である。それには、概念や抽象だけではなく、具体性が必要だ。いろいろな人のさまざまな「小文字の困りごと」に「ほんのちょっと当事者」感を持って接していく。それだけで世の中はうんと良くなるはずだ。まずはこの本を読んで、ぜひあなたも、ほんのちょっとでいいからいろんなことの当事者になってみてください!
 

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
作者:ブレイディ みかこ
出版社:新潮社
発売日:2019-06-21
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主人公の「彼」は、じつにさまざまなことに当事者として突っ込んでいく。そして素晴らしく育っていく。 いまや堂々の大ベストセラー。売れて当然の一冊!
 

人生最後のご馳走 (幻冬舎文庫)
作者:青山 ゆみこ
出版社:幻冬舎
発売日:2019-09-19
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 青山ゆみこの処女作。拙HONZレビューはこちら。
 

「ふつうの子」なんて、どこにもいない
作者:木村 泰子
出版社:家の光協会
発売日:2019-07-17
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 この本は青山ゆみこがライティングです。大阪市立大空小学校校長・木村先生の素晴らしい取り組み。

 

 

 

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