大きなデータファイルを送るのは、場合によっては難しい。
ファイルを送る最も単純で、最もわかりやすい方法は、そのファイルが貯蔵されているデバイスを手に取り、意図した受け手のところに歩いていき、手渡すことだ。
コンピュータを運ぶのが難しいことがある──特に、丸々一部屋の大きさだった初期のコンピュータの場合はそうだ。だったらコンピュータ全体を運ぶのではなく、コンピュータのなかの、そのファイルが収納されている部分だけを取り外せばいいだろう。そうすればその部分を相手のところまで運び、その人に、自分のデバイスのなかにファイルを移してもらえばいい。デスクトップ型のコンピュータなら、ファイルはハードドライブのなかに貯蔵できるが、ハードドライブはコンピュータを破壊することなく取り外せることが多い。
しかし、一部のデバイスではファイルの貯蔵がエレクトロニクスと永続的に結びついていて、取り外すのはかなり難しくなる。
もっと便利で、それほど乱暴でない解決策は、取り外し可能な記憶装置(リムーバブル・ストレージ)を使うことだ。あなたはファイルのコピーを作り、それをデバイスに入れて、そのデバイスを相手に渡せばいい。
データを送りたい場所が、歩いていくには遠すぎ、また郵便も届きにくいようなところにあるなら──たとえば近くの山の頂上など──、何らかの自律車両を使ってみるといい。たとえば配送用ドローンは、テラバイトのデータが保存されたSDカードが詰まった小型の郵便配達人用肩掛けかばんなら、軽々と運搬できるだろう。
クワッドコプター型のドローンは、電池の制約により、長距離ではあまり使えない。ドローンが自分用の電池を搭載しなければならないとすると、それに制約されるので、宙に浮かんでいられる時間はあまり長くはない。もっと長く宙に浮かんでほしければ、もっと大きな電池を搭載しなければならないが、すると重量が増し、電力消費が加速する。ジェットエンジンで支えられた家屋が2、3時間しか宙に浮いていられない(*)のと同じ理由で、手に載るくらいの小型ドローンは分で測られるほどの飛行時間しかなく、また写真撮影に利用されるもう少し大きなドローンでも、空中に滞在できる時間は、普通1時間以内だ。たとえ非常に速く飛ぶとしても、マイクロSDカードを1枚運んでいる小さなドローンは、10キロメートルも飛ばないうちに電池を使いつくしてしまうだろう。
飛行距離を伸ばすにはドローンを大きくし、太陽光パネルを取りつけ、より高く、より速く飛ばすことだ。あるいは真の高効率長距離飛行の達人に教えてもらうこともできる。
その達人とは、蝶である。
オオカバマダラという蝶は、北米大陸を集団移動する際に数千キロメートルを旅する。ひとつの季節のあいだに、カナダからはるばるメキシコまで飛ぶ集団もある。春か秋、アメリカの東海岸で空を見上げると、オオカバマダラの群れが地上数十メートルから100メートル近くの上空を、静かに滑空しているのが見えることがある。彼らの驚異的な飛行距離を前に、ドローンは──そして多くの大型航空機も──面目を失う。
蝶は途中で止まって花蜜を吸い、「充電」できるぶん、電池式の飛行機に比べて有利なのだから、不公平だと思われるかもしれない。蝶は可能なときは確かに燃料補給するだろうが、じつは蝶には、必ずしもその必要はないのである。別の種類の蝶、ヒメアカタテハ(Vanessa cardui)は、オオカバマダラよりもいっそうすごい。彼らはヨーロッパからアフリカ中部
まで飛ぶのだが、それは地中海とサハラ砂漠を越える4000キロメートルの旅だ。
蝶は体に蓄えたわずかな量の脂質だけを燃料にして、これらの大移動を行なう。蝶がドローンよりはるかに効率的に飛べる理由のひとつは、彼らが上空まで昇ることにある──彼らは温かい空気が柱状に上昇しているところや山岳波(山脈を強い風が越える際に生じる波)を見つけ出して、翅を固定し、コンドル、タカ、ワシのように、上昇気流に乗る。
あなたが蝶の集団移動の経路沿いに住んでいる人にファイルを送りたいとすると、蝶をつかまえてファイルを運んでもらうことはできるだろうか?
(以下は『ハウ・トゥー』でお読みください)
*本編の第7章「引っ越すには」を参照。
Excerpted from How To: Absurd Scientific Advice for Common Real-World Problems by Randall Munroe. Copyright ©2019 by Randall Munroe.
(本抜粋は実際の刊本とは細部の異なることがあります)