『民主主義とは何か』

出口 治明2020年10月21日 印刷向け表示
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民主主義とは何か (講談社現代新書)
作者:宇野 重規
出版社:講談社
発売日:2020-10-21
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民主主義が危機に瀕しているといわれて久しい。しかし、そもそも民主主義とは何であり、今何が問題になっているのか、そしてこれからどこに向かおうとしているのか、そういったモヤモヤした疑念を一掃してくれる読みやすい本はこれまでなかったように思われる。その意味で、本書は民主主義を巡る諸問題とその解決の方向性を1冊に凝縮した待望の本だ。丁寧に論理づけて語られているので、とても腹に落ちやすい。

著者は、先ず、民主主義の4つの危機を取り上げる。ポピュリズムの台頭、独裁的指導者の増加、第4次産業革命の影響、コロナ危機がそれだ。そして、危機を乗り越えられるかどうかを検討する前に、そもそも民主主義とは何かを歴史を遡って探求しようと試みる。民主主義は、古代ギリシアで誕生した。著者は、「公共的な議論によって意思決定をすること(参加)」と、決定されたことについて「自発的に服従すること(責任)」がコアであったと指摘する。しかし、衆愚政治へ陥るという批判は残った。これに対して古代ローマでは「共和政」の中に、執政官(君主政)、元老院(貴族政)、民会(民主政)という3つの機能を埋め込んだ。3つの機能がお互いにチェックし合うことで、政治体制全体の堕落と腐敗を防止するという考え方である。

民主主義は、ルネサンス時代のイタリアの都市国家に継承された。加えて中世の西欧では身分制議会が発展し、18世紀になると英国で議会主権が確立した。アメリカの独立にあたっては共和政と民主政がせめぎ合い(その延長に共和党、民主党がある)、代議制民主主義が常識になった。トクヴィルは、アメリカに渡って「人々が自らの地域的課題を自らの力で解決する意欲と能力をもつことを、民主主義の最大の可能性」と考えた。その後、フランス革命が起こり、ルソーの社会契約論が論争の的になる。次に、著者は、民主主義と自由主義の結合の問題を取り上げる。この両者は一定の緊張関係にある。トクヴィル、ミル、バジョットなどが俎上に載せられる。そして、20世紀になって民主主義は広がりをみせる。民主主義は実現したのである。しかし、それは決して理想的なものではなく問題だらけの「実現」であった。ウェーバーやシュミット、シュンペーターやダール、アーレントやロールズなど様々な卓見が語られる。そして終章では日本に目を向け、五箇条の御誓文、吉野作造の民本主義から戦争を経て日本国憲法に至る道筋が語られる。

以上の民主主義が辿ってきた2500年を超える歴史的な道筋の理解なくして、民主主義は何かという問いには答えられない、というのが著者の基本的なスタンスであろう。同感である。本書は、またとない民主主義の履歴書でもあるのだ。古代ギリシアに淵源を持つ参加と責任、トクヴィルが指摘した広義の民主主義が、おそらく、民主主義とは何かに対する答えになるのだろう。現在の日本は、投票率の低下に象徴されるように、民主主義は危機的状況にあると著者は見立てる。しかし、「歴史を振り返れば、深刻化する社会の諸課題に対し、政治が有効に対応しきれないとき、不満が蓄積すると同時に、新たな民主主義への胎動が加速してきた」と著者は指摘する。「旧来の価値観が大きく崩れ、不思議な明るさがみえ始めている、その薄明のなかに、新たな民主主義の姿を見定めるべき」という著者の考えに全面的に賛同したい。

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