アメリカ発「私たち」のムーブメントが時代を変える『Weの市民革命』

首藤 淳哉2021年01月26日 印刷向け表示
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Weの市民革命
作者:佐久間裕美子
出版社:朝日出版社
発売日:2020-12-15
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目の前の映像が信じられなかった。あの連邦議事堂が占拠されている。
トランプ支持者によってガラスが割られ、警察が閃光弾を放って群衆を押しとどめようとする映像がニュースではなんどもリピートされていたが、よりショックだったのは建物の中の様子だった。

議事堂になだれ込んだ連中は、まるで場違いな観光客のように、物珍しげに周囲のものを触ったり、はしゃいで写真を撮ったりしていた。荒れ狂う暴徒というより、「愚かな人々」と呼ぶほうがしっくりくる感じだ。何らかの政治的な信念にもとづいて破壊行為に及んだのではなく、深く考えずノリでここまで入って来てしまったかのような薄っぺらさが見てとれる。目の前で起きていることの重大さと彼らから受ける印象とのギャップにショックを受けた。

アメリカは巨大な国だ。陰謀論者や科学を信じない人は日本にもいるが、その層の厚さは日本の比ではないだろう。連邦議事堂襲撃事件で私たちが目にしたのは、そうした人々のほんの一部に過ぎない。

だが、愚かな連中が存在を誇示すればするほど、反対側から異議を唱える声が澎湃と起こるのもまたアメリカだ。その声は次第に大きなうねりとなり、いまや「革命」と呼べるほどのムーブメントになっている。本書はその現在進行形の革命の最前線をレポートする一冊だ。

今、アメリカで起きている革命とは何か。
それは、「We(私たち)の革命」である。

2001年の同時多発テロ事件や、2008年に始まった金融危機など、アメリカは過去20年の間に何度か社会が大きく変わるのを経験している。著者によれば、これらの出来事が引き起こした変化と並ぶくらいの、あるいはそれ以上の規模の文化シフトが現在のアメリカで起きているという。

では、「私たちの革命」とはいったいどのようなものなのか。
時計の針を前回の大統領選まで巻き戻してみよう。

2016年11月、ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプにまさかの敗北を喫した。トランプは大統領就任早々、「オバマケア」の解体やパリ協定からの離脱など、前政権の遺産を一掃していく。同じ頃、ネット上にハッシュタグを駆使した運動やキャンペーンが登場した。トランプとビジネス上の関係がある企業を対象にした不買キャンペーンや、極右メディアなどに出稿するスポンサーに広告を取り下げさせるべく圧力をかける運動である。

これらは、消費を通じた「アクティビズム(社会を変えるために行動すること)」である。消費アクティビズムの主要な担い手は「ミレニアル」(1981年〜1996年生まれの世代)や「ジェネレーションZ」(1997年~2000年以降生まれ。諸説あり)だという。

彼らのことを「なるほど、次の時代を担う世代ね」などと考える人がいたら、いますぐ認識を改めたほうがいい。彼らはすでに時代の中心にいる。たとえばミレ二アルは、アメリカ国内だけでも7210万人にのぼり、最大の人口ブロックとなっている。彼らの思想や行動は、いまや社会の帰趨を決めかねないほどのインパクトを持っているのだ。

「ミレ二アル」と「ジェネレーションZ」に共通するのは、リベラルかつブログレッシブな価値観である。彼らは人権を重視し、格差の是正や社会福祉の整備、環境問題などに強い関心と危機感を抱いている。レイシズムやアンチ多様性など、トランプの数々の負の遺産に対する危機意識によって、この2世代の連帯が生まれていった。そこに新型コロナウイルスがやってきたのである。

新型コロナウイルスは当初、「グレート・イコライザー」と呼ばれていたという。金持ちも貧乏人も等しく感染すると考えられていたからだ。ところがフタを開けてみればそうではなかった。社会のインフラを支える「エッセンシャル・ワーカー」の割合は黒人やヒスパニックに偏り、コロナウイルスによる死者が飛び抜けて多かったのは黒人だった。

そうした認識を人々が共有し始めた矢先の2020年5月25日、ミネソタ州ミネアポリスに住む黒人のジョージ・フロイドさんが警察に殺される瞬間の映像が拡散した。そして「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」のムーブメントが全米に燃え広がったのだ。

現在起きている革命を理解するためのキーワードのひとつが、「インターセクショナリティ(交差性)」である。BLMや性的マイノリティの権利保護、移民問題、環境問題まで、すべてのムーブメントがつながっている。根底にあるのは、「自分の権利を求めるのであれば、他人の権利を守るためにも闘わなければならない」という理念だ。

その闘いの方法は、デモだけではない。消費者は、「消費アクティビズム」によって、自分が支持しない企業やブランドを「ボイコット」し、サステイナブルやエシカルなど自分が信じる価値観を共有できる企業やブランドは「バイコット」する(進んでお金を払う)ようになった。企業文化にも変化が現れている。CEO自身がアクティビストという企業も出てきているし、従業員にもアクティビズムは浸透している。短期的な利益を追い求めるのではなく、社会全体の持続性を考慮する空気が生まれ始めた。

ジャーナリストと生活者(在米20年以上)の視点を併せ持つ著者には、いつもその文章を通じて「アメリカの今」を教わっている。本書にきめ細かく記された革命の様相を追いながら、時代が大きく変わろうとする熱気を感じると同時に、なぜアメリカではこのような力強い社会変革の気運が生まれるのだろうと考えさせられた。

そのヒントは、ジョー・バイデンの大統領就任式にあった。
大統領就任式で、22歳の詩人、アマンダ・ゴーマンが詩を朗読した。「The Hill We Climb(私たちが登る丘)」と題された彼女の詩は、アメリカ国民でなくとも心を強く揺さぶられるものだった。

民主主義は「言葉」から始まる。
世界をより良いものに変えていくために、私たちが手にしている唯一の道具が「言葉」であることを、この若き詩人は、他でもない美しく力強い「言葉」によって思い出させてくれた。

翻って日本はどうだろう。社会が危機にある今、リーダーは、人々の心に届く「言葉」を発することができているだろうか。説明不足や言い間違いばかり目につく総理大臣を目にするたびに思うのだ。官房長官時代、「お答えは差し控える」と7年8ヶ月もの間、鸚鵡返しのように繰り返してきた総理は、「言葉」を蔑ろにしてきたがゆえに「言葉」にしっぺ返しされているのではないかと。

本書の最後に著者はこう記している。
「革命は起きるのではない。私たちが起こすものなのだ」
私たちの「言葉」の力も、今まさに試されている。

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