『諏訪式。』諏訪湖を中心にした文化圏の謎を探る

東 えりか2020年11月16日 印刷向け表示
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諏訪式。
作者:小倉 美惠子
出版社:亜紀書房
発売日:2020-09-26
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 中央自動車道の岡谷ジャンクションの近く、諏訪湖サービスエリアは温泉施設が併設されドライバーに人気がある。諏訪湖を一望のうちに見渡せ、まさに絶景のスポットなのだ。

諏訪湖は中央構造線とフォッサマグナの二大断層が交差する地質的に複雑な場所で、温泉が湧き出る理由もそこにある。縄文時代から人が住み、独特の風習や信仰が残っている。

著者の小倉美惠子はドキュメンタリー映画のプロデューサー。川崎北部の自宅の土蔵に、古くから貼られていた黒い犬のお札のルーツを求め『オオカミの護符』を製作し、その後、2011年、同名のノンフィクションを上梓した。

現在製作中の新作映画『ものがたりをめぐる物語』の舞台は諏訪だ。その撮影のために足を踏み入れた諏訪は様々な顔を見せてくれた。

地元から生まれた産業には時計やカメラ、オルゴールなどの精密機械をはじめ、寒天、生糸などがあり、この土地には「ものづくりのDNA」が受け継がれていた。農家の子が丁稚奉公などで外に出て技術を覚え、それを村に持ち帰って産業にする。海苔の行商などがまさにそれで海苔養殖などにも広く貢献したという。

出版文化人が多いのもこの土地の特徴である。興味をひかれたのは岩波書店の創業者、岩波茂雄の立志伝だ。大正の初期、一旗揚げようと田畑を売って東京神保町に古本屋「岩波書店」を開いた茂雄は、死後七十年以上経った今でも諏訪の名士として扱われている。それは、東京で稼いだ金を惜しみなく故郷へ提供したからだった。文士の交友関係も広く、”教育の信州”の一端を担っていた。

諏訪文化の核は「御柱祭」で有名な諏訪大社にある。だが古事記で語られる祭神、建御名方神より以前にも先住神が居り、その後裔が現在まで続いていることに驚かされた。

この土地が持つエネルギーは古代から連綿と続いてきたのだろう。諏訪の古い神々を訪ねてみたくなった。(週刊新潮11月12日号より転載)

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