あの ”THE わきまえない女” 谷口真由美の大問題作!『おっさんの掟:「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」』

2022年2月1日 印刷向け表示
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ヒョウ柄の似合うおばちゃん、谷口真由美さんをご存じだろうか。日曜の朝に放映されている「サンデーモーニング」(TBS系)でコメンテーターをしておられるのをご覧になった方もおられるだろう。厳しい意見をバシッと述べられるので、恐ろしい人だと感じている人が多いかもしれない。無理もない。じつは、私もお目にかかる前まではそう思っていた。しかし、その実態はまったく違う。会ってみたらよくわかる。極めて論理的で公正な意見をシャープに述べる、おもろくて、かしこで、かいらしい、という三拍子そろった大阪のおばちゃんである。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、「女性理事を選ぶってのは、文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」、さらに、「私どもの組織委員会に女性は7人くらいか。7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」と女性蔑視発言をしたことが大きく報道されたのは記憶に新しい。その森元総理が日本ラグビー協会に隠然たる影響力を持っていることはよく知られている。当時、谷口さんは日本ラグビー協会の女性理事であったことから、「わきまえない女」の代表のように報道されたりした。

2019年に理事となった谷口さんは、今年の一月に開幕したラグビー新リーグ・リーグワンの法人準備室長・審査委員長に任命され、その職務に全力を傾けた。しかし、最終的には、これといった理由もなく、わずか2年でその任を解かれることになる。いったい何があったのか?その経緯が赤裸々に明かされる。一連の経験から谷口さんが導いた結論は、ラグビー協会は「昭和の時代で時間も価値感も止まったままの『おっさん社会』」であるということ。そして、それは、ラグビー協会のみならず、日本の社会全体に蔓延している大問題ではないか、ということだ。

単なる大阪のおばちゃんが、どうしてラグビー協会の理事に任命されたのかを疑問に思われる方もおられるかもしれない。いかに適任であったかをわかっていただくために、すこし説明しておこう。まず、谷口さんとラグビーには切っても切れない縁がある。なんと、比喩の表現ではなく、高校ラグビーのメッカ・花園ラグビー場の出身なのである。驚くなかれ、文字通りそこに住んでおられたのだ。ご父君が近鉄ラグビー部のコーチ、ご母堂がその独身寮の寮母を務めておられたのがその理由だ。もちろんラグビーに精通しておられる。

そして谷口さんの本職は法学者である。冒頭の10分間が「DJ真由美の恋愛相談」にあてられる講義「日本国憲法」が大人気の大阪大学非常勤講師でもあった。しかし、人権やジェンダーが専門の谷口さんを敵に回すとは、ラグビー協会も判断が悪い。ペナルティーもの、いや、谷口さんからレッドカードをつきつけられたような状態だ。

森喜朗の後ろ盾を得て、理事経験がなかったにも関わらずラグビー協会の副会長に抜擢されたばかり清宮克幸が谷口の理事就任を強く要望した。清宮は、母校・早稲田大学ラグビー部を常勝軍団に育て上げた名将だ。ついでに書いておくと、日ハムの清宮幸太郎の父親でもある。谷口は、その清宮をリーダーに日本のラグビーをよくしたいという若手メンバーが集まったイノベーションプロジェクトチームの一員となる。知名度も高く実行力があり「改革の旗手」として期待を一身に集めた清宮だったが、十分な根回しをせずに改革を急ぐあまり、次第に「守旧派」との亀裂が深まっていく。そしてチームはわずか4ヶ月で解散。

男の嫉妬というのは怖いもんやな。嫉妬という言葉は、〝女へん〞じゃなくて〝男へん”のほうがええんちゃうか

谷口によると、清宮が失脚した理由はジェラシーではないかという。その根拠のひとつとして、「あいつはジャパン(日本代表)になってないくせに」という言葉が反清宮派から聞かされたことをあげている。異口同音に、とまで書かれているのだから事実なのだろう。

おっさんたち、甘いな〜、ここで浮かれポンチになってどないすんねん

すごっ… こういうことを書くから、谷口真由美は恐いと勘違いされるのだ。しかしこれが、ちょうどラグビーワールドカップ2019が大盛り上がりを見せていた時期、にわか人気にうかれるラグビー協会の面々に対して谷口が抱いた正直な感想である。

そんな状況だったから、谷口は新リーグの法人準備室長の打診があっても固辞し続ける。だが、「なんでもサポートするし、なにがあってもあなたを必ず守るから」とまで言われて最終的に就任を受諾する。しかし、残念ながらその約束が守られることはなかった。

どうにかして新リーグ発足が決まったが、参入審査で大問題が生じる。準備委員会は、過去の戦績や競技力のみでなく、今後の運営なども含めた書面を点数化して参入チームを決定することとし、理事会の承認も得た。しかし、ずさんな書類を提出したがために、最有力と考えられていたチームのひとつが暫定順位で枠外になるという番狂わせがおきてしまう。きちんとした手続きを経て決められたルールだ。ましてやスポーツの協会である。そのルールに従うべきではないか。しかし、森重隆会長-新日鉄釜石の主将を長い間務めたあの名選手、ヒゲ森だ-はそれを反古にする。どう考えても後出しじゃんけんだ。さらには同志的存在と思っていた専務理事にも裏切られ、谷口は準備室長を解任される。

ここまでが第一章から第五章までで描かれるあらすじで、これを受けての第六章『日本社会を蝕む「おっさん」たちの正体』はさらに読み応えがある。「『口外するな』という“脅し”」、『「おっさん的価値観」が招いた失敗』、『中根千枝さんが指摘した「タテ社会」の問題点』、『社会を劣化させる「おっさん」の正体」』、『「おっさん化」は老若男女共通の病理』、『「失われた30年」でおっさんが大増殖』といった項目名を見ただけですごい論調であることが推し量れるだろう。「おっさんの掟」、メッタ斬りである。

そして、あとがき。「ふるさとは遠きにありて思ふもの」という室生犀星の詩にはじまり、まんが日本むかし話「ラグビー村」があったりして、しっかり余韻を味わえる。また、本書の冒頭には、「谷口さんは『男社会』のラグビー界に、革命を起こす存在だと期待していました」と過去形(あるいは過去完了形か)で語る日本サッカー協会キャプテン・川淵三郎氏との対談も載せられている。

こういう類いの話は湿っぽくなったり、恨みがましくなったりして、読んでいてあまり気持ちのよくないことが多い。あとがきに書かれているように、谷口さんに尋ねられて武闘派編集者の加藤晴之さんを紹介したのだが、正直なところどうなるのやらと思っていた。しかし、まったくの杞憂であった。ゲラを読ませてもらって驚いた。単なる暴露本などではない。その物語はまるで、主人公が悪役に追い詰められていく講談や浪曲を聞いているかのようだ。すべて実名であるところに谷口さんの覚悟が見て取れる。そして、読後感は信じられないくらいに爽やかだ。

ただし、ここに書かれた内容はあくまでも谷口さんから見たラグビー協会での出来事にすぎない。協会には協会の言い分があるだろう。もしかすると、理事を退任させたのと同じ「理事会の内容を漏洩した」という理由で、この本も訴訟を受けるかもしれない。もしそうなったら、裁判で双方の「真実」が闘わされることになるはずだ。それよりも、ここまで言われたのだ。日本ラグビー協会は公益財団法人なのだから、自ら経緯を明らかにすべきかもしれない。はたしてノーサイドの日は訪れるのだろうか。


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あの山下も「おっさんの掟」にがんじがらめの模様であります。首藤のレビューはこちら



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