『休息の科学』科学的な「オフ」のススメ

2022年2月10日 印刷向け表示
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作者: クラウディア・ハモンド
出版社: TAC出版
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良い仕事をするには、頭をフルに使わなければならない。そのためには合間に効果的な休みを入れる工夫も必要だ。ポカンとして頭の活動を完全に休止するような時間である。仕事をしているのが「オン」とすれば、スイッチを切った「オフ」の状態だ。

人間は動物の中でも特に大きな脳を所有している生き物である。動物だから、頭だけでなく体の動きにも大いに制約される。頭ではオーケーを出しても、体がついていかないことがある。すなわち、頭と体が分離してしまっては、全力を出し切ることはできない。

頭と体を一体化させるために、「遊び」は重要な働きをする。こうした遊びの世界では「無意識」の力が最大限に発揮される。その無意識はオンにもオフにも深く関わっている。広大な無意識の畑を耕すためにも、オフは大切な時間なのだ。

新型コロナ禍によって自宅でテレワークする機会が増え、「オン」と「オフ」の境目が分かりにくくなってきた。ある健康調査によれば、一日に休息をほとんど取らない人は、5〜6時間の休息を取る人と比べて心身の疲労度が大きいという。

逆に、休息が6時間を超えると、かえって健康スコアが下がるという結果も出ている。では、健康で楽しく豊かに暮らすには、どのくらい休息を取ったら良いのだろうか?

本書は英国の心理学者が、世界135カ国の調査で判明した人気の休息項目トップ10をくわしく分析し、ストレス過剰の時代を生き延びる具体的な方策を伝授する。ちなみに、地球科学を専門とする評者も、休息(オフ)の科学的効用について長らく考えてきた。すなわち、オフには三つの要素がある。

一つ目は仕事以外の何かに熱中すること。スポーツや釣りに熱中してもいいし、映画やゲームも悪くない。そして二つ目はボーッとして過ごす時間をもつこと。本書の<人気の休息>第2位「自然のなかで過ごす」がそれに当たる。日本だったらゆったり温泉につかるのもよいだろう。

さらに三つ目は、自分の人生を振り返る時間をもつ。いわゆる瞑想だが、一生懸命に仕事をしてきた自分を少し高い位置から眺める感じ。<人気の休息>第10位「マインドフルネス」に近く、寺や神社で静かに時間を過ごすのもよい。

そこで大事なポイントは、忙しく仕事する合間にオフを「賢く取る」こと。モチベーションや持久力が切れてしまう前に、オフを時間の戦略として上手に組み込んでおく(拙著『成功術 時間の戦略』文春新書を参照)。そのためには休息を自覚的にとっているかが極めて大切なのである。

いまから休憩しようと思ったとき、自分に対してきちんと「休む許可を与えること」(本書330ページ)が重要なのだ。「自分は休んでいると認識してこそ、その時間をしっかりと味わうことができる」(332ページ)からである。

ビジネスパーソンの中には、スケジュール帳が埋まっていないと不安になる人が少なからずいる。何を隠そう、かく言う私もその一人だが、真面目な人ほど今度は「自分は十分に休息を取っているか」が気になる。そして既に黒々としたスケジュールに、オフのイベントを無理やり入れ込もうとする。

著者はこうした「休息中毒」状態になることも諫め、「ときには休息からの休息もいるのです」(334ページ)とユーモラスに語る。そもそも人間は仕事も遊びもずっと集中できるものではない。何ごともフルスロットルで行ったら、その後には開放する時間帯が必要なのだ。

興味深いことに、本書で紹介した<人気の休息>第1位は読書である。なるほど世の読者たちも仕事に役立つベストセラーだけでなく、オフのための良書を求めている。

遊ぶにも「戦略」が必要だというのは、実は知的活動を行う者には意外に盲点となっている。たとえば、仕事一本槍で生きてきて、趣味も人生経験も乏しい人がいる。こういう人は、かなり知力のある人でも、変化についていけないことがある。頭のスイッチを切りかえるのが結構下手なのだ。

遊んでいるオフの時間に、野生の体の動きと本能の力を復活する。自分のもっている能力を全開するためには、オフに対する戦略も必要なのだ。時間管理の達人は、オフの時間への的確な方策を持っていると言っても過言ではない(拙著『理系的アタマの使い方』PHP文庫を参照)。

多くの人は音楽や絵画などの趣味を持っている。旅行したりお酒やグルメの楽しみもあるだろう。これらは生活の中で自然に行っているオフの時間といってもよい。こうしたオフをシステムとして賢く日常生活に組み込もう、というのが本章の目的である。「よく遊びよく学べ」という言葉の本質的な意味を探るのだ。

ともすれば、折角のオフの時間も、だらだらと過ごしてしまうことが多い。だから遊ぶときにはメリハリをつけて、すっきりと遊んだ方がよい。その際、安心して遊びに没頭できる環境をつくることが第一歩である。

仕事を一切気にしないオフのシステムを事前に作る。そして、しっかりとオフを取った後は、充実した気持ちで仕事や勉強に取りかかる(拙著『100年無敵の勉強法』ちくまQブックスを参照)。

巷にはブルーマンデイ(憂鬱な月曜日)という言葉がある。月曜から上手に仕事に移行できない姿だ。ここには、仕事への取り組み方の問題とともに、日曜日のオフの取り方に問題がある。次の仕事を気にしながらオフを取るのでは、どちらも「活きた時間」にならない。

仕事とオフの時間区分が、自分の身体にとっても無理のない状態でなければならない。だからこそ余裕をもってオフに入るというスケジュール調整が肝要なのだ。本書にはオフのための打って付けのコンテンツ満載なので、ぜひ試していただきたい。

作者: 鎌田 浩毅
出版社: 文藝春秋
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