『理系的アタマの使い方』「京大人気No.1教授」の日常生活を公開

鎌田 浩毅2021年04月20日 印刷向け表示
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理系的アタマの使い方 (PHP文庫)
作者:鎌田 浩毅
出版社:PHP研究所
発売日:2021-04-02
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科学者は何を考え、どのように仕事をしているのか?それを一般向けに解説したのが本書である。

私は地球科学を専門にして40年ほど経つが、これまで研究と教育で色々な工夫をしてきた。特に地球を研究する際、フィールドワークから新しい知見を効率よく生み出すことは、研究者としての至上命題である。

世界の学問水準に照らして本質を追究し、その成果を学術雑誌に発表する。実は、その過程で「知的生産の方法」自体に、興味を持ち始めたのである。

一例を挙げると、インプット(データ取得)とアウトプット(論文生産)のバランスを得るには、アウトプットから逆算してインプットを精選すると良い。本書では「アウトプット優先主義」と呼んでいるが、こうした知的生産術を開発することが、いつしか私の「趣味と実益」になった。

それらをまとめて2006年に『ラクして成果が上がる理系的仕事術』(PHP新書、現在7刷)として刊行したが、本書は15年を経てリニューアルした新バージョンである。

ちなみに最近、京都大学に移籍した橋本幸士教授が『物理学者のすごい思考法』(インターナショナル新書) という大変おもしろい本を出されたが、その「地学」版でもある。

一言でまとめると、大学を卒業して通産省(現・経済産業省)地質調査所に入って研究官として20年ほど勤めた。世界標準の研究が認められて41歳で教授に採用されるまで30代で何をしたか、を開示したのである。その後、京都大学へ移籍してからアウトリーチ(啓発・教育活動)へシフトし、世間から「京大人気No.1教授」と呼んでいただけるまで「自分プロデュース」する考え方も書いた。

全体の構成は、①システムの整備、②クリエイティブな発想法、③アウトプット実行と将来への準備、の3部からなり、「○○法」と名づけた「16のキーワード」を紹介した。いずれも研究現場で実践・確認したノウハウであり、中心には基礎科学者の戦略がある。

そのポイントは、最終の生産物(私の場合は学術論文)から逆算して、途中にあるすべてのプロセスを決定する「アウトプット優先主義」である。しかも、できる限り「ストレスなく」「最短で」アウトプットできるように、前もってシステムを作ってしまうのだ。

なお2021年版では「デジタルとの付き合い方」についても述べた。デジタル化は生活の隅々にまで及び、仕事場ではペーパーレスが進み、ここ1年はテレワークという新しい働き方が浸透した。

人々はそれらを大いに活用しているようで、実際は「流されて」いるように思えてならない。次々と現れるツールに振り回され、新しいスキルを身につけるべく毎日あくせくしているからだ。

実際、極めてストレスフルであるばかりか、アウトプットの質も落とすことになりかねない。よって、本書では「デジタルとの賢い付き合い方と、逃げ方」を指南した。何でも欲張って取り入れようとはせず「断捨離」と「引き算」することが、「想定外」に溢れる時代にこそ必要ではないかと思う。

さて、自著解説の機会なので、本書誕生までの経緯も書いておこう。今年の3月末に24年勤務した京都大学を定年退職したが、その間には専門の地球科学の本とビジネス書を、それぞれ25冊ほそ刊行してきた。前者は地球科学を一般市民に苦労なく知ってもらう啓発書である。また後者は、学生たちに勉強法や読書術を教えるため講義の副読本として書いた。 

副読本にしたのは、京大生が講義に出なくても身につけられるからだ。「本を読めば自習できる」となれば、持ち時間を自由に活用できよう。

ちなみに、講義では地球科学が半分、教養が半分と分けて話をしてきた。後者で勉強法、本の読み方、専門の決め方、人との付きあい方、「想定外」の生き方、などを熱く語ったのである。なお3月末に行った京都大学最終講義の模様は、雑誌プレジデント2021年4月30日号(14-19ページ)に掲載されている。

実は、私の学生時代を振り返ってみると、悲しいかな教授たちの雑談しか覚えていない。その雑談には私の進路を決定した重要なエピソードが含まれていた。雑談と軽んじるなかれ、人生を変える影響力があるのだ。

そこで講義の雑談を学生が「体系的に」確認できるように、著書としてまとめることにした。最初が『成功術 時間の戦略』(文春新書、2005年刊、現在8刷)で、次が本書の前身『ラクして成果が上がる理系的仕事術』だった。いずれも講義では雑談の「参考文献」として指示したが、その後ビジネスパーソンが仕事を進める際にも有用というので、講演会のテーマとして依頼されるようになった。

いちばん大事なことは、新しく学んだノウハウが「実際に使えるかどうか」である。役に立たないことを京大生に伝えてはいけない、というのが変わらざるポリシーだった。

さて、だれもが使える仕事術として提案しようという目的だったが、さらに大きな視点もある。専門に関わることだが、日本列島が地震と噴火の活動期に入ってしまった、という状況の変化である。

前著が出てから5年後の2011年、東日本大震災が起きた。観測史上最大規模というだけでなく、約1000年ぶりの巨大地震だった。その結果、日本列島の地盤に大きな歪みが加わり、それを解消するように各地で直下型地震が頻発し、箱根山や草津白根山などの活火山も噴火した。

おそらく今後数10年ほど、日本列島はさらなる地震と噴火に見舞われる可能性が高い。これに加えて、2030〜40年には「南海トラフ巨大地震」という甚大災害がひかえている。被害の規模は東日本大震災より1桁も大きくなり、総人口の約半数に当たる6000万人が被災する(拙著『地震はなぜ起きる?』岩波ジュニアスタートブックス)。

こうした「大地変動の時代」を生き延びるためにも、本書で提示する「理系的アタマの使い方」を身につけてほしい。

そもそも日本は資源の乏しい国である。エネルギー・食料・鉱産資源の全てが不足するだけでなく、狭い国土のわずかな平地に1億3000万人がひしめいて暮らす。だからこそ日本人の知的生産力を高めることが重要で、作家の堺屋太一はそのための変革を「知価革命」と呼んだ(『知価革命』PHP文庫)。わが国は知価の高い仕事を一億総出ですることによって、はじめて成り立つ国なのだ。

よって本書がめざすのは、漠然と学んだり仕事を漫然と行うのではなく、知価の高いアウトプットを効率よく生み出すことにある。そして私が伝授したい「16のキーワード」は、読み書きそろばんにあたる基礎リテラシーなのである(巻末の362-363ページにまとめた)。

 東日本大震災でも大問題となった「想定外」の混迷を減らすには、正しい情報と的確な技術が共通の「知識」にならなければならない。まさに英国の哲学者フランシス・ベーコンが説くように「知識は力なり」。私が京大で24年間、学生たちに語ってきたキーフレーズでもある。

物理学者のすごい思考法 (インターナショナル新書)
作者:橋本 幸士
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2021-02-05
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成功術 時間の戦略 (文春新書 (443))
作者:鎌田 浩毅
出版社:文藝春秋
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地震はなぜ起きる? (岩波ジュニアスタートブックス)
作者:鎌田 浩毅
出版社:岩波書店
発売日:2021-03-27
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知価革命―工業社会が終わる 知価社会が始まる (PHP文庫)
作者:堺屋 太一
出版社:PHP研究所
発売日:1990-06-15
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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
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