“十年ひと区切り”と人は言う。時間的な里程標として、十年は目安になりやすいのかもしれない。
2021年3月、「震災から十年」という文字があちこちで躍った。 “もう”なのか“まだ”なのか、個人の気持ちを慮ることより、未曽有の天災に対して区切りをつけようという世間の思惑が垣間見えた。
本書は、宮城県を中心に東北6県を発行区域とする河北新報社が東日本大震災10年特集として遺族・不明者家族158人を対象にしたアンケートを第一部、同紙が9回にわたり掲載した「遺族、不明者家族の思い」のまとめを第二部としている。
大震災発生以後、被災地の地元紙として遺族や不明者家族を個別に取材してきたが、記憶の風化が進む世間との橋渡しをしたいという思いがこの企画にあったと思われる。
一緒に調査を行った金菱清氏は震災発生当時、東北学院大学の災害社会学者で、彼のゼミの学生による聞き取り調査「東北学院大学 震災の記憶プロジェクト」からすでに8冊の本が出版されている。
協力を依頼された折、「個」を大切にしてきた金菱氏は「集団」の思いを求めるアンケートには懐疑的であったようだ。
「気持ちは落ち着いたか」「故人・不明者に対する感情は」「不明者の死を受け入れられたか」などイエス/ノー、あるいは選択肢から一つを選ぶというアンケートの結果は数値化されグラフとなった。
しかし第二部に寄せられた声は、当然のことながらひとりひとり全く違っている。悲嘆、悔恨、慟哭、希望、感謝。遺族の心は震災のそのときから今現在まで、震災の真っ只中であり地続きである。
被災の当事者ではない私は、金菱ゼミの本を読むたびに姿勢を正さずにはいられなかった。年に一度、震災のこと、被災者のことを思い返せるように、彼らの言葉を発信し続けてほしいと思っている。(週刊新潮3月24日号)
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