神秘?いや、これは奇跡だ!『動物たちのナビゲーションの謎を解く:なぜ迷わずに道を見つけられるのか』

2022年4月27日 印刷向け表示
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作者: デイビッド・バリー
出版社: インターシフト (合同出版)
発売日: 2022/3/28
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動物たちは天才だ!
心底驚いた。こんなに多様で素晴らしいナビゲーションシステムが動物に備わっているとは。

ナビゲーションというのは、採餌や生食などといった動物の生存に必須のものである。だから、何億年という単位での進化により、これくらい巧妙な仕組みが作り上げられても不思議ではないのかもしれない。また、無意識のうちに人間の能力と比較してしまうから、不思議さを感じてしまうだけなのかもしれない。まぁ、どちらでもいい。この本を読めば間違いなく誰もが思うだろう。動物たちのナビゲーションシステムは驚異的であると。いや、それ以上だ。人間から見ると奇跡としか言いようがないものだと感動するしかないはずだ。

じつにさまざまな動物のナビゲーションが紹介されている。クジラやアザラシといった哺乳類、ハト、カラスといった鳥類、ウミガメのような爬虫類、サケやウナギといった魚類、そして、ハチやガ、アリといった昆虫、果ては意外なことにイセエビまで。どれもが驚異的なのだが、数多くのナビゲーションシステムは大きくふたつにわけて解説されている。ひとつは『地図なしのナビゲーション』、もうひとつは『「地図・コンパス」ナビゲーション』である。

前者の代表的な例としては、フォン・フリッシュによるミツバチの研究がある。ノーベル賞を受賞したこともあって、これは有名だ。餌のありかを仲間に知らせるために飛翔による「ダンス」をするのだが、その角度が、餌と太陽の位置関係をあらわしている。実際には太陽そのものではなくて、我々には見えないがミツバチには見える「偏光による e-ベクトルのパターン」を認識している。これもすごいのだが、説明は長くなるのでパス。

しかし、餌のありかまで飛んでいく間に太陽は刻々と動いていく。それに対応しないとあさっての方向に行ってしまうではないか。そうならないために、ミツバチは体内時計を用いて、太陽の位置を正しく補正する能力=「時間補正式太陽コンパス」を身につけている。我々人間からすると、見えないものを見て、時計もなしに正確に太陽の動きに応じて補正しているということになる。

凄いとは思われないだろうか。ん、物足りない?そんな人でも、動物がナビゲーションに天体を利用していると聞いたらどうだろう。何千キロもの渡りをする鳥がいる。その一種であるルリノジコは夜間に飛行する時、動かない星を基準に移動する方向を決めている。そんな星は北極星以外にありえない。もちろん知識として知っているわけではない、天空において不動の星を認知して渡りができるように進化してきたのだ。また、フンコロガシという甲虫は、球形にしたフンを後ろ向きにまっすぐ転がすために天の川を利用している。

太陽や星といった天体以外にもさまざまなものを利用してナビゲーションがおこなわれている。有名なのはサケの河川回帰における匂いだろう。他にも、音や、にわかには信じられないが、我々がまったく感知できない磁気を使ったナビゲーションもある。どや、まいったか!といっても、まだ話は半分しか済んでいない。

ここまで紹介したのは、『地図なしのナビゲーション』、言い換えると、自分の相対的な位置さえわかればいいという『自己中心的ナビゲーション』だ。それに対して『「地図・コンパス」ナビゲーション』は、地球のどこにいるかを割り出す『他者中心的ナビゲーション』である。もちろん地図を作ったり読んだりするわけではないが、脳内に地図(のようなもの)を描き出しているとしか考えられない動物がいる。

そのような能力には何が用いられるかというと、主に磁場である。ご存じのように地球は巨大な磁石である。場所によって磁気の方向が違う、それを利用するのだ。サケは匂いだけではなくて磁場もナビゲーションに用いている。ウミガメは生まれた海岸に戻ってくるが、その時も磁場が重要な役割を果たす。鳥の渡りもそうだ。イセエビはなんと200キロもの距離をまっすぐに歩くことができるのだが、それも磁場を感知することによる。

ただし、少し考えてみればわかるように、磁場の違いは南北では大きいが、東西では小さい。にもかかわらず、渡り鳥であるヨシキリは、東西の位置も磁場で認知できているらしい。確定的ではないが、これは、真北と磁北(コンパスが指し示す北の方角)のずれを利用しているとしか考えられないという。もちろん、真北は北極星しかありえない。しかし、いかにして北極星という視覚情報と磁場情報を統合しているのだろうか。

じつにたくさんの例がわかりやすく紹介されている。単にその事実だけではなく、どのような研究によってそういった結論が導き出されたかが詳しくわかりやすく解説されているのがいい。へぇ、そんなやり方で実験するのかという驚きがいっぱいだ。その中から面白くてわかりやすいものをひとつだけ紹介しよう。アリは距離を覚えることができる。その時、距離そのものを記憶しているか、歩数を記憶しているかという論争があった。さて、どんな方法で検証されたと思われるだろうか。

まず、ある距離を歩くようにアリを仕込む。そうしておいてから、歩幅を変えてやればいい。もし、歩数を記憶しているのならば、歩幅を長くすれば記憶よりも遠くまで歩くし、逆に短くしてやれば近くで止まってしまう。実際の結果は、そのとおりだった。なので、歩数を記憶していると結論づけられた。足幅を長くするためには豚の毛を脚に貼り付けて長くし、短くするためには脚をちょっとちょん切った。なんだかかわいそうだが、科学のためだ、いたしかたあるまい。こんなやり方でうまくいくのかという気がしないでもないが、実際にうまくいったのである。アリは人間と違って脚の長さに無頓着なのだろう。

言い添えておかねばならないのは、多くの結論が必ずしも確定的ではなく、異論もあるということだ。また、動物が磁場をどのように感知しているかについては、三つの有力な説があるものの定かではなく、それどころか、現時点ではまったく未知のメカニズムもありえるということだ。そんなんええ加減やんか、と言うなかれ。現在進行形のサイエンスこそが面白いのだから。

古来から人間が編み出してきたナビゲーションシステム、星を見ながらの遠洋航海とか、ランドマークをたよりにした移動とか、の能力は急速に失われつつある。言うまでもなくGPSのせいだ。空間認知能力は、人間関係といった「社会空間」認知能力や、概念の認知能力と密接に関係していると考えられ始めている。なんとなく正しそうな気がしないだろうか。ナビゲーション能力を自ら放棄しつつある人類、なんだか先行きが不安になってきた。


追記:しかし、この著者はなんという人なんだ。外交官で、まったく関係がない動物のナビゲーションの本を書いたということなのか。それも超絶ハイレベルでむっちゃおもろい。それって、動物たちのナビゲーションシステムに劣らず凄すぎるやないの。

作者: M・R・オコナー
出版社: インターシフト (合同出版)
発売日: 2021/1/6
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