知識が好奇心の源『子どもは40000回質問する』

2022年6月26日 印刷向け表示
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作者: イアン・レズリー
出版社: 光文社
発売日: 2022/5/11
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知識が好奇心を育むのだ。好奇心を持続させるために、ノンフィクションを読み続ける。あらためて学ぶことの楽しさを実感したのは、本書『子どもは40000回質問する』を読んだからだ。

本書によると、好奇心は、少し知っていることが肝心だと言う。全く知らないのでは手が伸びない。反対に知りすぎていても好奇心は育たない。その塩梅が大事で、だからこそ広く浅く興味を持つことは、好奇心を育てるのに必要なのだ。

本書は3部構成をとる。第1部は「好奇心のはたらき」。言葉を覚え、自分の行動と言葉を結びつける驚くべき学習を見せたボノボは、指を刺して「あれは何?」と問うことはないと言う。一方、赤ちゃんは「指差し」の動作と、ウー・アーと発する「喃語(なんご)」を使って、情報収集をしている。好奇心をもって、情報のやりとりをして世界を広げていくのは、人間の特徴なのだ。では、子どもの好奇心はいかに育まれるのか。人によって差が出てくるのは何故なのか。ロンドンの乳幼児研究所(ベビーラボ)での実験の結果を元に、教えてくれる。

第2部は「好奇心格差の危機」。第7章「知識なくして創造性も思考力もない」は惹きつけられるタイトルだ。ここでは、優れたイノベーターや芸術家が、膨大な知識を蓄えていたために成功したことを、ウィリアム・シェイクスピアやポール・マッカートニー、チャールズ・ダーウィンなど多くの事例を引き合いに出しながら説明を試みる。反対に、天賦の才能に恵まれていても、基本的な知識がないと、才能を開花させることは難しい。

第3部は「好奇心を持ち続けるには」。第8章のタイトルは「好奇心を持ち続ける7つの方法」だ。ここから読み出しても十分に面白いので、実用書感覚でここから入るのもおすすめだ。知識を十分に仕入れても、それをアイデアに結びつけるにはコツが必要である。組織全体で好奇心を育むために必要なことや、アイデアを生み出すためにどう過ごすべきかなど、著者の具体的なアドバイスが存分に詰まっている。

よくいろんな本で取り上げられる、私の好きな話がある。それは「人間が一人前になるまであきれるほど遅い」ということだ。

子ウマの赤ちゃんは母親の子宮を出てから30分もしないうちに駆け回る。トリは2ヶ月もしないうちに母ドリから巣を追われる。チンパンジーは乳離れをするとすぐに思春期を迎える。生存のためにこれほど長いあいだ他者に依存する生き物は人間の赤ちゃんだけだ。

長期間にわたる人間の幼少期には様々な利点がある。感情を育み、疑問を持つ能力を身につけ、成熟した人間に成長する。人間は、自分が生まれた場所について時間をかけて学び、思考を形成することもできる。

また、長期間にわたるからこそ、それぞれの環境に左右されることも多い。子どもは生まれながらにして好奇心の塊だが、「問いかける」ことは最初から出来ることではない。本書によると、「問いを投げかける習慣」を身につける子どもとそうでない子どもとの違いは、親が子どもに日常の中で問いかけているか否かが重要だという。

子どもが時間をかけて一人前になる間に、いろんな可能性が秘められている。また、大人になった私たちも意識をしていれば、好奇心を持続させ、より広い世界を楽しむことができる。当たり前のようだが、当たり前に出来ないことだからこそ、こうやって1冊の本に立ち戻り、時間をかけて向き合う必要があるのだろう。出来れば、死ぬまでずっと、学びたいという内なる欲求を燃やしていたいものだ。

作者: イアン・レズリー
出版社: 光文社
発売日: 2022/2/22
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