『千年の歓喜と悲哀 アイ・ウェイウェイ自伝』

2023年6月7日 印刷向け表示
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作者: 艾未未
出版社: KADOKAWA
発売日: 2022/12/1
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艾未未(アイ・ウェイウェイ)は、中国の現代美術家、活動家、建築家である。彼の作品は、社会的・政治的批判、人権、文化的アイデンティティをテーマとすることが多く、作品はインスタレーション “Remembering” など、2008年の四川大地震に関連した一連の作品で国際的に有名になった。

“Remembering”は四川大地震で娘を亡くした両親の文章を、通学カバンで表現した作品だ。中国政府による「豆腐建築」と呼ばれた粗悪な施工で建てられた学校の地震により倒壊。本来、犠牲にならなくてもよいはずの子供達が命を落とした。そして中国政府は亡くなった子供の名簿を公開しなかった。艾未未は徹底的な調査をふまえ、理不尽に対する怒りと向き合い続けた。カバンのメッセージは「この世界で7年間幸せに暮らしていた」。

建築面でも、艾未未は北京オリンピックの主会場である北京国家体育場(鳥の巣)に携わり、また1600人の陶工により制作された陶磁器製の種”Sunflower Seeds “などの大規模なインスタレーション作品でも知られる。2009年の森美術館にて開催された展示会では、46万人の来場者を記録。2022年には「高円殿下記念世界文化賞」を受賞している。

本書は中国人である彼と父との過去を振り返りながら、現在の社会、政治問題、人権、文化的アイデンティティといったテーマを扱う自伝である。詩人である父・艾青(アイ・チン)は共産党主席毛沢東による文化大革命において目をつけられた。食事どきになると父は「私は右派です。犯罪者です」と大声で言わなければならず、左遷された村では全ての便所掃除を命じられ、精神的に過酷な労働を強いられる。

艾未未がアクティビストとして人格形成されたのは、こうした環境の要因が大きいだろう。強く影響を受けたのは父だが、生まれた100戸あまりの村では祖父も教養人として知られていた。祖父は清朝時代に漢民族が満州人に服従したことを表す辮髪をいちはやく切り落とし、自分の書斎で時事問題を追ったり、自筆の書を飾って自己修養に務める証としていた。客間には「家族の絆に幸福が宿る」という意味の文字が刻まれた木彫りの書が掲げられていたほどだ。

ところが、父と祖父の仲は良好ではなかった。父は難産で誕生したが、当時迷信深い人達は不吉だと言って父の生まれた時刻を占い師に予言させた。すると「親に死をもたらす」という相がでているとされ、祖父は父への態度が急変する。父の頭に鳥の糞が落ちれば、当時の中国では不吉だとされ、祖父は手に持つ壺で父の頭を叩き割り、出血した。父は問答無用に権力を振りかざす矛盾に耐えれなくなった。多数の同調圧力に対して、日頃から反抗心に従う父は宗教への軽蔑を示すため、仏像の横で平然と小便をしたりもした。艾未未の作品にも、北京の天安門広場に向かい中指を立てた写真(1995年)があるが、この気概はこうした背景によるのかもしれない。

艾未未はアメリカ留学から北京に戻り活動を始めると、再び公安局員が彼を尋問するようになる。スイスの建築家と北京五輪スタジアム「鳥の巣」を手掛け、ネットで積極的に発信するようになると、いよいよ公権力の介入が激しくなる。そんな彼の表現スタンスは、ゲームのように例えている。

権力との戦いはちょっとオンラインゲームに似ている。 私は死んでも、何度でも生き返った。権力はあらゆる手を使って攻撃したり、監視したりするかもしれない。しかし、公的な活動とクリエイティブな仕返しで、向こうの手段を逆手にとる。そして、彼らが一番嫌がる役を続ける。つまり大衆に向けた活動家、アーティストだ。私のアートの意義は、表現の自由が中核となった。 個人の自由は考えられる限り最も価値が高いものだ。

そんな中、2011年に艾未未は北京空港にて突然、官憲に逮捕拘禁されてしまう。本書は権力の弾圧を受ける詩人の父と美術家の息子、闘う二人の芸術家を通じて激変する中国現代史を描いた一冊だ。

ハンス・ウルリッヒ・オブリスト『アイ・ウェイウェイは語る』のレビューはこちら

作者: アイ・ウェイウェイ,ハンス・ウルリッヒ・オブリスト
出版社: みすず書房
発売日: 2011/11/2
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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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