予測できなかった21世紀『昭和ちびっこ未来画報』+オマケ

2012年2月24日 印刷向け表示
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昭和ちびっこ未来画報

作者:初見健一
出版社:青幻舎
発売日:2012-02-01
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  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

未来を予測する事はできないかもしれないが、本書を読んで、偶然に対する心構えをしておくことは、無駄にはならない。たぶん。

高村による『偶然の科学』の書評はこのフレーズで終わっている。未来を予測することは難しいことはわかっていても、予測した未来が外れて痛い目にあうことがわかっていても、いつの時代でも、世界中の誰もが大好きな話題の一つだ。HONZの朝会後のお茶会でもそんな話題が中心である。だからこそ「偶然に心構えをする前」に未来は予測できないということを理解しなければいけない。それが本書のまっとうなおすすめ理由だ。

HONZ史上もっとも文字の少ない本であろう本の中身を紹介していこう。

昭和ちびっこ未来画報

作者:初見健一
出版社:青幻舎
発売日:2012-02-01
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  • 丸善&ジュンク堂

ご覧のように、どうしても突っ込みたくなる。先生は生徒を管理することなく、カメラを通じて授業を行い、ルンバに木刀をつけたようなロボットが生徒を叱りつける。こんな未来が叶っていたら、学級崩壊も起こらなかったかもしれない。現実はこう成っていないが、左上の解説には確からしい根拠が書いてある。例えば、「コンピュータ学校出現!」にはこのように。

高松の香川大付属中や東京の大森六中では、すでにコンピュータの授業を行っている。▲写真はアメリカでの実験授業。

サンタクロースをまだ信じているような子どもなら、本当に信じてしまいそうな状況と証拠だ。ここまで妄想を膨らませた絵について、当時の子どもはどう反応していたんだろう?ちなみにこの図は1969年の少年サンデーで発表されている。HONZにもリアルタイムで見ていた可能性があるメンバーがいるが、シニカルな反応と冷静な突っ込みをしていたに違いない。

今では想像しがたいとんでもない未来予測も登場する。「月にうちこむ原子爆弾」。戦後から13年しか経っていない1958年の少年誌に掲載されている。出版事故にならなかったのだろうか?と余計な心配をしてしまう。ちなみに解説によると、アメリカの学者が「月の地質サンプルを持ち帰るため」に原子爆弾を打ち込み、空高く吹き上げられた月の表面のかけらを別のロケットが集めるという計画だったよう。記事内では、40年後の1998年には人間を乗せた宇宙ロケット第一号が月に着陸すると予測されている。それはジョン・F・ケネディがアポロ計画を発表する3年前のことである。1969年7月20日にニール・アームストロングが月面着陸したのであるから、30年も予測を裏切り短縮したのだから、相当な偉業だったことを確認できる。

月面着陸、翌年の1970年にスタートした大阪万博の様子も紹介されている。サンヨー館で紹介されたボタンひとつで必要なツールを手元に呼び寄せることができる究極のシステムキッチンや人間洗濯機(今は介護用入浴装置に応用されていた、現在はハイアールに売却)、三菱未来館「最後のフォーチュラマ」のパンフレットがそのままページになっている。

もちろん明るいものだけではなく、悲観的な未来予測もあった。その中の一つ、地球温暖化がもたらす世界の大終末は「水中幽霊都市」である。人類はアクアラング派と半魚人サイボーグ派に二分され、サイボーグ派は水中でも呼吸ができるようにえら呼吸器を取り付け水中でも暮らせるらしい、アクアラング派は陸上生活に適した体のままなので、海中では生活ができないようだ。お察しの方もいらっしゃるかもしれないが、海面上昇の規模もかなりバブリーさである。まだまだ地球温暖化が深刻に考えられておらず、パロディーでしかなかったのだろう。

1970年代以降に生まれの世代には本書すべてが初めて見るもので新鮮、いや斬新さに驚くだろう。1950〜1960年代生まれの諸先輩方にとっては子どもの頃を思い出し、懐かしさに浸れるはずだ。もしかしたら、世代間コミュニケーションにうってつけの一冊かもしれないw。

————–おまけ———————–

『昭和ちびっこ未来画報』は1950〜1970年代に子ども向けメディアに掲載された「未来予想図」。もっと昔は何を考えていたんだろうか?昭和よりさらに遡って、1910年(明治43年)、まだ日本国内でオックスフォードが「牛津大学」、ケンブリッジが「剣橋大学」と表記されていた時代の未来予想。今はカタチが変われど、実現されているものがほとんどであるが、されていないとんでもないものもある。

http://www.youtube.com/embed/10kpED8lOhc

そして、今は未来をどう考えているんだろう?NEDOによる技術戦略マップに示された技術により実現される将来の社会像のイメージ像がある。100年後の2112年にドラえもんが誕生する予定だが、そこに追いつけるだろうか?

————————-その他関連本————————————-

明治時代に発行されていた科学読物やSF本を紹介している。当時の未来予測は昭和ほど奇抜ではないが、イマジネーションが溢れている。仲野先生の著作に出てくる本はかろうじて購入できるだろうが、本書で紹介されている書籍は古本屋を歩き回っても見つかるかどうか。

明治ワンダー科学館

作者:横田 順弥
出版社:ジャストシステム
発売日:1997-12
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1973年の第4次中東戦争が勃発して起こった石油危機のとき、シェルは事前に形作っていたシナリオに基づいて急激な環境変化に対応。危機前にはセブンシスターズ(当時の国際オイルメジャー7社)下位だったが、戦争終結時には世界第2位にのし上がっていた。シナリオプラニングで長い歴史を持つシェルが2025年までの世界の動向について分析を行った報告書。2050年までのエネルギーシナリオも作成されており、Webから無料でダウンロードできてしまう。こんなものが無料でダウンロードできたら、本を買う必要がなくなるじゃないか!と嗚咽してしまいそう。

大阪万博は戦後復興と同時に出発した21世紀への夢の到達点を示していたと同時にその終焉を宣言した祭典だったと、冒頭に紹介した『昭和ちびっこ未来画報』の著者は締めくくっている。その大阪万博が開催される直前に執筆され、出版されるはずだった『人類の未来』という幻の本。大阪万博の構想を考え、未来学会を創ったメンバーとの座談会で語られている未来は40年以上経過した今でも色あせない内容である。

梅棹忠夫の「人類の未来」  暗黒のかなたの光明

作者:梅棹忠夫
出版社:勉誠出版
発売日:2011-12-16
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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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