『世界一ときめく質問、宇宙一やさしい答え 世界の第一人者は子どもの質問にこう答える』訳者あとがき&内容の一部紹介

2015年11月8日 印刷向け表示
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ウィンストン・チャーチルはイギリスのためになにをした?
質問─シーナ、6歳
回答─ダン・スノウ(歴史家)

ウィンストン・チャーチルは、とくべつ立派な軍人ではなかったし、完璧なリーダーでもなかった。よくまちがいをおかし、正しくない決断もした。そのうえ優秀な政治家でもなかった。すぐに敵を作り、たくさんの政治家からあまり信頼されていなかったからね。それでもウィンストン・チャーチルは、あるひとつのことを絶対的に正しくやりとおした。それは、これまでにイギリスのあらゆる人がやったことのなかで最高のもののひとつに数えられていて、今でもまだ世界中の人々がその恩恵を受けている。

ヒトラーの率いるドイツが第二次世界大戦で勝利をおさめたかのように見えた1940年の夏、たくさんの人々がチャーチルのもとをおとずれ、イギリスはもう降伏してヒトラーと仲直りしたほうがよいとすすめた。でもチャーチルは、だれがなんと言っても、断固として戦いをつづけると主張した。今ではわたしたちみんなが知っていること、ナチスが「おそろしい専制政治」で、歴史上のどんなにひどい帝国、国、人々よりも邪悪で破壊的なものであることを、チャーチルはよく理解していたんだ。

その後、ヒトラーが何百万人ものユダヤ人、ポーランド人、ロシア人、そのほか自分に反対する者はだれでも殺していたことがあきらかになったとき、チャーチルは正しかったことが証明された。聞く者を感動させたいくつもの演説をとおして、チャーチルはイギリス人だけでなく世界の人々に、この戦争がそれまでの多くの戦いのようなただの国と国との権力争いではなく、文明を守るための、世界の未来をかけた、ほかに類を見ない争いであることを訴えた。
 


ヴァイキングとケルト人では、どっちのほうがおそろしかった?
質問─リプリー、7歳
回答─ニール・オリヴァー(考古学者)

警察と法律ができる前の世界では、どこに行ってもおそろしい場所ばかりだった。そして、きみより戦いに強いか、きみより大きい刀を身につけていた人はだれでもみんなおそろしかった!

ただ、おかしな話がある。ケルト人やヴァイキングという人たちはじっさいにはいなかったんだ。「ヴァイキング」という言葉は、もともとは名詞ではなくて動詞で、そういう名前の人たちがいたのではなく、なにかをすることをあらわしていた。1000年ほど前、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの人々はロングシップと呼ばれる帆船に乗って、冒険の旅に出るのが好きだった。その人たちはこれを「ヴァイキングに行く」と呼んでいて、自分たちのことを「ヴァイキング」と呼んだわけではなかったんだね。

一方の「ケルト人」という言葉は、今から2500年ほど前にヨーロッパ全体に住んでいた人たちをあらわすのに、おもに学校の先生が使っている。同じように、アメリカやアジアの人たちはヨーロッパに住んでいる人を「ヨーロッパ人」と呼ぶかもしれないけれど、ヨーロッパに住む人は自分たちを「ヨーロッパ人」とは言わないね。もっとせまい場所をさして、「スコットランド人」、「ウェールズ人」、「コーンウォール人」、または自分にとって身近なさまざまな名前で呼ぶだろう。

さて、きみの質問への答えだが、だれであれ、そのときにいちばん足がはやくて、勇敢で、強くて、ずるがしこかった人が、いちばんおそろしかったと言えるんじゃないだろうか。
 


イアン・フレミングはどうやってジェームズ・ボンドを考えだしたの?
質問─ファーガス、9歳
回答─ウィリアム・ボイド(小説家、脚本家)

007シリーズを書いた作家のイアン・フレミングは第二次世界大戦中にイギリスのスパイの将校として活動し、「海軍情報部」という組織で働いていた。それはフレミングの人生でいちばん楽しい時期だったらしい。だから戦争が終わって生活のためにお金が必要になったとき、スパイ小説を書くことにきめて、自分ではじっさいにできなかったあらゆることをできるスパイを考えだした。自分のペンから生まれる小説をとおして、悪党と美女が登場するアクションと冒険がいっぱいの人生を、想像の世界で生きることができたんだね。

でも最初、このスパイの名前をなかなか思いつかなかった。ごくシンプルで、いかにもイギリス人らしい名前がいいと考えていた。ある日、机の前にすわって、何気なくバードウォッチングの本を手にとった(イアン・フレミングは、バードウォッチングが大好きだったんだ)。本を書いたのは、鳥類学者のジェームズ・ボンドだった。その瞬間、フレミングの心はきまった──想像上のスパイにはこの名前を借りよう。こうしてジェームズ・ボンドが誕生した!

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