『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』著者インタビュー
まだ見ぬ「峠 恵子」を求めて
知られざる隊長伝説
内藤:最初に面接で会った時の、藤原隊長の第一印象はどんな感じでしたか?
峠 :もうとにかく「隊長」って感じよ。ちょっと外国人っぽい顔つきで、少しだけ岩城滉一にも似ていてさ。ギョロッとした目で、煙草プカ〜っと吸って、だけど着ているのはスポーツウェアみたいな。とにかく眼力がスゴかったな。だから、すっかり女は騙されちゃうのよね。
内藤:「この人ヤバイな」と最初に思い始めたのは、いつ頃からですか?
峠 :行く前から、少しヤバイなと思ってました。とにかく家がグチャグチャ。横須賀の市営団地に住んでいて、家なんか燃えちゃって緊急事態だっていうのに、足の踏み場もない。風呂は入らない、歯も磨かない、で、しかもその家を放ったらかしまま、探検に出ちゃったのよ。ここまで世間に迷惑かけて平気なんだもん、信じられない(笑)。
内藤:それでも、冒険に行くのを止めようとは思わなかったわけですね(笑)。
峠 :ちょっと怪しい人だけど、まぁ行ってみるか、と。探検家としての実力は確かだったからね。だって、新宿住友ビルを素手で登ったくらいだからね。素手だよ、素手。
登っている途中に、ヘリとか警察とかが追っかけてきたんだけど、最後の方になったらみんな「ガンバレ、ガンバレ、ガンバレ」って、応援し出しちゃったんですって。頂上まで登ってからは、逮捕されて新宿の留置所に入るでしょ。そしたらそこに入っていてたお仲間たちもみんなソレを見てた、と。だから、みんな隊長を大歓迎しちゃったっていう…。「なんか留置所に入ったら、俺ヒーローでさ〜」とか言ってたな。ま、そんな人ですから。
内藤:帰ってきてからは、3人で会おうよ、みたいなことにならなかったんですか?
峠 :ないですね。ユースケは仕事の関係で富山の方へ行っちゃったし、コーちゃんは、あれ以来音信不通です。ある人の連絡先を知りたくて、(本書巻末の特別対談より前は)一度だけユースケとはメールでやり取りしたかな。
内藤:でも帰国してから、しばらく隊長と一緒に暮らしてたんですよね?
峠 :そうなのよ。何だか知らないんだけど、私が養わなきゃいけなくなってたのよ。
内藤:隊長は、なんで現在ワメナ(パプアニューギニア)に居るんでしょうか?
峠 :要は悪いことしすぎて、日本にいられないんじゃ(笑)。私のお金を数百万ちょろまかすなんて、何てことない人だからね。だけど、みんな惹かれちゃう。この人がいると、やっぱり面白いってなっちゃうのよ。それでも日本には戻ってこられないでしょうね。
内藤:でも別にワメナじゃなくてもいいじゃないですか。
峠 :やっぱり夢があったんじゃないかな。噂では現地の女の人と結婚して、永住権を取ったとか。
内藤:隊長と峠さんとの間で似ている所って、ありますか?
峠 :人のやっていないことをやろうとするっていうところですかね。ただひたすら、新しい世界を見たいっていう感性は同じかな。
冒険家としてのスキルとマインドの乖離
内藤:この本の面白さって、冒険家・峠恵子としてのスキルとマインドのギャップが生み出していると思うんですよ。失礼ながら冒険のスキルはそれほどでもないように思えるのですが、冒険のマインドだけは妙にプロフェッショナルじゃないですか。この完成度の高さは、いつ頃からなのですか?
峠 :ずっと体育会系だったっていうのが大きいですね。あとは私ファザコンなんですけど、うちの父がとにかく苦労人で、その影響かな。小学校しか出てなくて、未だにローマ字も読めないのに、従業員50人くらいの会社をやっているんです。彼を見ているとずっと苦労の連続で、それでも道を切り開いてきたし、先見の明とかもあって。だから、うちのお父さんみたいになりたいなっていう憧れがそうさせているのかも。
内藤:リスクに対する感受性が、常人離れしているとしか思えないんですよね。人を見る目とかはスゴくあるからいろいろ分かっているのに、なぜか危ない方向へ行っちゃうという…。
峠 :いや、それでも毎日驚きの連続でしたよ。それが、なぜか順応しちゃうのよね。無いなら無いで良しと。
内藤:旅の道中でいろんな島とか、村とかに行ったと思うのですが、住むならどこが一番ですか?
峠 :やっぱりニューギニアかな。物価が安いし、温かいから何やっても生きていける。グアムは物価が高いし、最近だと日本以外のアジア人もわんさか来るようになっちゃっているしね。
内藤:ニューギニアだとどこですか?
峠 :ワメナは良かったですよね。隊長が住むのも分かるし、ユースケももう一回行きたいって言ってるし。虫とかが多いから、それだけはちょっとね。