偉大な力にすっぽりと包まれる本 『友情2』

吉村 博光2019年07月09日 印刷向け表示
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友情2 平尾誠二を忘れない
作者:
出版社:講談社
発売日:2019-05-24
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機中で『友情』と『友情2』を読み終えると、私は窓から雲海を眺め、唇を噛んで涙した。本書は、故・平尾誠二氏と生前に深い親交があった15人が、彼への思いをまとめた本だ。そのなかには、ご家族(夫人・長女・長男)や山中伸弥氏も含まれている。

私はその死に大きな喪失感を覚えたが、同時に彼の生き様に「胸のすく」爽快感を感じた。ある時は泣かされ、ある時は笑わされる、感情を大きく揺さぶられる本だった。そして、読んだ後には、すっぽりと偉大なものに包まれているような感覚が残った。

私はもともと、ドラマ「スクール☆ウォーズ」をきっかけにラグビーを観るようになった。そのモデルである平尾誠二氏は、私にとって、まさにHEROである。しかし本書を読むまでは、彼の家族のことも、その交友関係についても知らなかった。

彼はどのようにして、友との絆を育んできたのか──。私が、一番心に残ったのは、自分でも意外なのだがこの点だった。彼は決して、誰とでも友情の絆を結んだわけではなかった。高めあう関係を築ける人を、友に選んでいたようなのだ。

このことを知って、私は心が軽くなった。人生は短い。だから誰しも友を選ぶことが許されているのだ、と得心したのである。これに関連して、本書から辻調グループ代表の辻芳樹氏の述懐を引用したい。

その一方で、平尾さんは、波長が合わない相手だとすぐに帰ります。あるとき彼に頼まれて、「合わないだろうな」と思いながら言い出せずにある人を紹介したところ、途中で「辻君、ごめん。おれ、帰るわ」と言い、店を出て行きました。とにかく潔く、判断が早い人でした。  ~本書第1章より

童謡にあるように誰とでも仲良く「友達100人」作るよりも、むしろ人は友を選ぶことで広く照らす光になれるのだ、と思った。『友情2』の冒頭で、山中伸弥氏は前作『友情』を書いたときの心境を次のように綴っている。

『友情』はぼくにとって宝物のような大切な本ですが、ぼくよりもっと長く深く、平尾さんとお付き合いされていた方々や、直接指導を受けていた若い人たち、そして平尾さんのふたりのお子さんを差し置いて出版させていただいたことを、申し訳なく思う気持ちがありました。  ~本書はじめにより

これは、平尾と親交を深めた人が総じて抱く思いなのかもしれない。「自分が特別親しかったわけではなく、彼という人間が特別だったのだ」という思いだ。そのため、自分が前に出ることに、違和感が生まれるのではないだろうか。

彼と縁があった人を、私は羨ましく思う。ただ彼らは、自らの選んだ道に懸命だったから友情を築けたのだ。その道は、ラグビーやスポーツだけに止まらない。それに関連して、同志社大学でチームメイトだった大本博立氏の述懐から引用したい。

「共進化」という言葉があります。生物がほかの生き物と共存していく過程で、おたがいに依存し、進化し合うことをいうそうです。誠二は、まわりの人間をともに進化させるような存在だったのでしょう。でなければ、ラグビーやスポーツ以外の分野の人たちとあれほど深く共鳴し、尊敬されるはずがないと思うのです。 ~本書第1章より

私も好きなものに懸命でありたい。彼のように友を選び、高めあっていきたい。私は「友情」の価値を見つめ直した。人間には、能力や成績だけでなく、「友情」とか「優しさ」とか曖昧な尺度もあるのだ。ここまで考えたとき、私は、父にいわれた言葉を思い出した。

私が社会に出る前だった。厳格だった父が何気なく「お前は誰にでも伝わる優しさを持っているナ」と私を褒めたのだ。その時のことは、細部まで覚えている。同様に長男・昴大君の文章に、父としての平尾の姿を偲ばせるものがあるので引用したい。

アメリカへ戻る前日の夜のことです。居間にいると、パジャマ姿の父が入ってきました。
「おまえ、明日帰るんか」
「うん、明日帰るわ。ほんとうにこの夏休みは楽しかったわ。ありがとう」
「おう、がんばれよ」
ただそれだけの会話ですが、このときのことは、父が着ていたパジャマの柄まで全部はっきりと憶えています。  ~本書第3章より

彼は父から印象的な言葉を受けたわけではないが、落差が大きかった。楽しい夏休みから半月も経たないうちに病変が見つかったのだ。人の記憶は不思議なもので、ふとした一瞬が心に残るものだ。そんな家族のエピソードに触れられるのも、本書の魅力の一つだ。

長女・早紀さんは、思春期を迎えても「お父さん嫌い、近寄らないで」という感情は抱かなかったという。私も娘を持つ父としてうらやましい限りだが、それも平尾だから当然か。どれだけ家族に愛されていたのかは、夫人の恵子さんの次の言葉が物語っている。

旅立つ少し前に、主人は「山中先生やお世話になっているみんなと、美味しいもんを食べに行きたいな」と言っていました。そんなこともあって、2018年のメモリアルマッチのあと、わたしは主人の親友である方々と会食の場を設けました。
主人の好きだった中華料理をいただきながら、楽しい時間を過ごし、これでひとつ、主人の思いに応えられたと感じています。
平尾のことを思う時間は、わたしをもっとも悲しく、と同時に幸せにしてくれます。  ~本書おわりにより

家族は、彼から多くの贈り物をもらってきただろう。私にとっても、先述の父の言葉はギフトだった。「優しさ」は「ひ弱さの言い訳」という歌もあったが、父の言葉以来、私にとって「優しさ」は「強さ」になった。本書は「友情」という人生の柱をプレゼントしてくれる。

選手として指導者として自らのラグビーを高めるために、一流の友との友情を通じて懸命に吸収しようとしたようでもある。生前、彼はまぎれもなくスターだった。そして、その輝きはW杯期間中(9/20~11/2)も我々を照らし続けるだろう。人は、死して名を残す。平尾誠二の「友情」にノーサイドの笛はない。

友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」
作者:山中 伸弥
出版社:講談社
発売日:2017-10-04
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⇒こちらが、前作の『友情』。こちらには、平尾・山中両氏の交流のきっかけとなった雑誌の対談と、山中氏と恵子夫人の手記が掲載されている。『友情』と『友情2』のどちらから読んでも良いが、どちらも心を揺さぶられる本だ。

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